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フォーラムエイト Vol.3 
カイゼン・マイスター 小森 治

トヨタ自動車工業(株)入社後、トヨタ自動車(株)国際調達部長、トヨタ英国製造副社長、トヨタ自動車オーストラリア取締役社長、セントラル自動車(現トヨタ自動車東日本)取締役社長を経て、現職。(株)カイゼン・マイスター代表取締役社長。法政大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任。中小企業診断士。
 
フォーラムエイトのアドバイザーがそれぞれの経験や専門性にもとづいたさまざまな評論やエッセイをお届けするコーナーです。


『海外生産と共に』

1964年に私がトヨタ自動車工業(株)に入社した時は、東京オリンピックが開催された年で、これから日本が戦後の復興から立ち上がり、日本経済がまさに発展の軌道に乗ろうとする年であった。国産自動車は、未だ細々と東南アジア方面への輸出をするのが精一杯で、ましてや海外の自動車先進国で本格的に自動車を生産するなどとは思っていなかったものである。
しかし東京オリンピックを機会に、日本にも名神高速道路、東名高速道路が整備され自動車も高速長時間走行に耐えうるものに急速に改良されていった。1970年台には、北米市場でコロナが輸出されてからいわゆる自動車先進国への輸出が本格化して、1980年代には日米貿易摩擦が発生する程に日本からの輸出が急増した。この貿易摩擦を解消する対策の一つとして、現地の雇用と投資を促進するために現地生産が自動車各社により推進された。

海外生産事業体立ち上げの経緯
私自身と海外生産の関わりは、1978年にトヨタが初の本格的な海外生産のモデルとして豪州にエンジン工場を設立した時に、現地部品調達のためにメルボルンに駐在した時が海外生活のスタートであるが、改めて振りかえると海外駐在の合計が延べ17年に及んでいた。
現在のトヨタと比べると未だ当時は今ほど大規模ではなかったものの日本の組織は大企業であり、それに比べると海外事業体の規模はいわば中小企業であるために、若い時から極めて範囲の広い仕事を経験させてもらったことは良かったと思っている。その後北米でのGMとの合弁会社スタートに際しては、現地部品調達の支援部隊として、米国デトロイトに延べ8か月ほど長期出張した。1987年に台湾に工場建設を機に、3年間台湾に駐在し、主に部品の現地調達の仕事に携わった。次にトヨタの最初の本格的欧州プロジェクトとして英国に工場建設した時は、1991年から5年間英国のダービーに駐在し、副社長として欧州部品の調達だけでなく、経理、人事など管理部門全体を見ることになった。最後の海外勤務は、1995年から5年間トヨタオーストラリアの社長として、再び英国から直接豪州に異動となった。
以上が私自身の海外生産事業体の立ち上げに関連した経緯であるが、その中でも若い時から一貫して長期にわたって担当した部品の国産化と現地部品の調達について述べてみたい。

■英国シェフィールド大学でのトヨタ英国プロジェクト講演

各国での海外生産の経験
総じて海外生産に共通して言えることは、自社工場の生産準備は自社の力で進めることが出来るが、現地部品の生産準備は現地メーカーの力に依存せざるを得ないことである。特に初期においては、部品の現地化に際し、多くの協豊会(トヨタの協力会)メーカーさんのお力をお借りしたものであり、自動車メーカー単独では解決できない問題が多かった。
最初の豪州の85%国産化規制の時には、限られたサプライヤーの中から部品を調達するので、品質・納期で大変苦労した。例えば、外注のシリンダーブロックが雨季になると鋳巣が多くなるので、原因を追究すると沢山作り過ぎて古くなった中子が水分を吸収してそれが鋳造中に悪さをしていた。これは一例だが、85%国産化規制はコスト・品質両面から無理があることを政府が反省して、ある時から規制は撤廃されて完成車の関税が年々低下してゼロにする自由化の方向に自動車産業政策が180度転換された。このように豪州政府の政策の振れの結果2016年以降全ての自動車メーカーが撤退することは、真に残念である。
北米でのGMとの合弁会社プロジェクトの際には、デトロイトのシボレー事務所に約半年間駐在して、GMのメンバーと共同でサプライヤー選定作業に従事した。

一番印象に残っている事は、デルコ等のGMの部品事業部への出張の際に、GMが沢山所有している専用のジェット機で移動した事である。当時のトヨタに例えると工場間連絡バスに相当するものがGMのジェット機で、そのスケールの大きさに驚愕したものである。
一方台湾での現地調達部品では、いわゆるコピー部品メーカーは沢山あったが、トヨタの規格を満たすことが出来ないので、多くの協豊会(トヨタの部品協力会)のメーカーに現地進出をお願いして、現地メーカーとの技術提携や出資を通じての技術移転を図ったものである。それらの技術移転をした台湾のメーカーが、後に立ち上がる中国大陸プロジェクトにおいて、今度は中国メーカーへの技術移転の橋渡しをしたことは喜ばしい事である。

英国での現地生産の時は、欧州全体が部品調達のベースであり、ドイツのボッシュやフランスのミシュランに代表される世界的に有名で強力な専門部品メーカーが多かった事が特徴である。ここではそれまでの海外生産の反省を踏まえて新たに取り組んだ問題がある。即ち、量産試作の段階では、部品メーカーがゆっくりと作ったものを納入するが、量産体制に入った途端に品質問題が発生する事であった。そこで、生産準備の段階で設計・品保・購買等関係部門がチームを作りサプライヤーの現場で量産試作に立ち会い、量産スピードの負荷をかけて問題を出し切った結果、立ち上がりの部品の品質問題は大幅に減らすことが出来た。
いずれにしても、自動車産業と言うものは、多くの部品・資材メーカーのサポートによって成り立っている事を、17年の自分自身の海外生産の経験を通じて改めて実感した次第である。

■北米支援チーム 筆者(後中央)

海外生産において重要なポイント
また、極めて基本的で大事な事は海外生産を推進する中で、技術のベースとしての親工場を日本に持ち続ける事であろう。トヨタの場合は、親工場制度と言うものを取り、プロジェクトごとに親工場が支援する体制を取っているが、自動車の場合は、他社も同様であろう。
一部の日本企業では、円高と言う為替の変動を理由に根こそぎ海外生産に移転してしまうケースがあるが、これでは日本の技術が根無し草になってしまうのではないかと恐れている。あくまでも、日本にマザー工場を残したうえで、海外工場に技術移転をすると言う原則を忘れないようにしたいものである。
もう一つ大事な事は、現地政府の政策を良く見極めてかつ説得交渉する事である。豪州政府は、労働党と保守党の政権が変わるたびに産業政策の振れが大きいのが問題であった。GM、フォード、三菱、トヨタの4社は豪州の将来の為にも、関税5%以下では国産自動車は生き残れない、自動車製造は残すべきであると何回も政府と交渉し主張したが、残念ながら自由化の方向で関税ゼロを目指す事になり、4社そろって現地生産をやめざるを得なくなったことは、豪州の産業政策の為に惜しむものである。

海外生産において重要なポイント
また、極めて基本的で大事な事は海外生産を推進する中で、技術のベースとしての親工場を日本に持ち続ける事であろう。トヨタの場合は、親工場制度と言うものを取り、プロジェクトごとに親工場が支援する体制を取っているが、自動車の場合は、他社も同様であろう。
一部の日本企業では、円高と言う為替の変動を理由に根こそぎ海外生産に移転してしまうケースがあるが、これでは日本の技術が根無し草になってしまうのではないかと恐れている。あくまでも、日本にマザー工場を残したうえで、海外工場に技術移転をすると言う原則を忘れないようにしたいものである。
もう一つ大事な事は、現地政府の政策を良く見極めてかつ説得交渉する事である。豪州政府は、労働党と保守党の政権が変わるたびに産業政策の振れが大きいのが問題であった。GM、フォード、三菱、トヨタの4社は豪州の将来の為にも、関税5%以下では国産自動車は生き残れない、自動車製造は残すべきであると何回も政府と交渉し主張したが、残念ながら自由化の方向で関税ゼロを目指す事になり、4社そろって現地生産をやめざるを得なくなったことは、豪州の産業政策の為に惜しむものである。

■豪州製自動車の中近東輸出発表会
  豪州トヨタ社長時代の筆者(左端)
  トヨタ奥田社長:当時(中央)
  豪州ハワード首相:当時(右端)

「輸入完成車の関税を5%まで下げたら豪州の国産車の工場は閉鎖せざるを得ない」との筆者の発言記事が現地新聞”The Australian”で取り上げられた。その後実際にその通りになり、三菱→フォード→GM→トヨタ(2018年)の順番で工場閉鎖が決定。但し各社とも輸入車の現地での販売・サービス活動は継続。 トヨタオーストラリアで150万台目の現地生産を祝って!
小森社長と従業員代表トニーが握手。
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(Up&Coming '15 秋の号掲載)
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