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現実の事故現場に近い実験環境の再現にシミュレータを導入 現在、研究室では四輪自動車と二輪バイクのドライビングシミュレータを使用。5年前に、3画面の小さなディスプレイにゲームのハンドルとブレーキ、アクセルがついた簡易型ドライビングシミュレータを導入したのが最初となり、その2年後に、大画面でハンドルから実際にステアリングの反力とかブレーキの反力が得られるようなシミュレータシステムを追加で導入しています。四輪のシミュレータはUC-win/Roadと連携し、ゲームハンドルからステアリングやブレーキの反力が得られるようなシステムをカスタマイズ。より実車環境に近い実験を通して、現実の交通事故原因に可能な限り近づくことができるのではと考え、導入を進めてきたといいます。 「このドライビングシミュレータを活用した研究において、長野県警から提供を受けた交通事故データを独自に分析していくうちに、二輪の事故については、数は突出して多くないもののなかなか減少していないという状況に気付きいたのです。詳細を調べてみると、他県から観光で訪れているライダーの人が単独で起こしてしまう死亡・重傷事故がかなりの数を占めており、山道特有の事故状況として大きなテーマのひとつであると考えて、二輪事故の検証用として、昨年にはバイクシミュレータを新たに導入しました」(國行氏)。 二輪事故の発生要因検証にバイクシミュレータを活用 他県から観光ドライブで長野県を訪れる場合、いわゆるリターンライダー(若い頃バイクに乗り、その後ブランクがあった人が40~50代となって、再びバイクに乗り始めること)という中高年男性が多いのがひとつの特長です。単独でカーブを曲がりきれずに起こしてしまうタイプの事故が低減できていないという状況があり、改めてその分析に取り組むにあたって導入したのが、フォーラムエイトのバイクシミュレータでした。特定の場所をVRのデータで再現し、実際にライダーの方がどのように運転してカーブを曲がっていけるか/曲がれないのか、ということの究明を目的として、活用されています。 「具体的には、道路の線形、つまり、上り下りやカーブによって、どのような要因があるかを検討しています。山道で起きる事故の要因で最も大きいのは速度超過で、カーブ手前に直線道路の長い区間があると、飛ばし過ぎてカーブを曲がれなかったり、カーブ自体も認識が遅れてしまったりということがあります。また、中高年になり、若い時とは違って身体能力が低下しているのに無理をして、不適切な操作をしてしまう場合も考えられます」(國行氏)。 研究室では、このバイクシミュレータで簡易的な左カーブ/右カーブのコースを作成して、初心者ライダー、一般的なライダー、模範ライダー(白バイのライダー)にそれぞれ運転を体験してもらい、実際の山道を走って運転操作に優劣の差が出る要因が何であるかを検討しています。実験を通して、二輪は四輪と異なってライダーが自らバランスを取りながら運転していかなければならないため、身体を傾けて旋回しようという動きがが必要になり、この動作において、中高年の体力低下、運転操作の不十分さが事故原因につながっている可能性が明らかになってきました。 「山道では、不慣れであったり、急な変化によって十分に対応しきれないことがあります。バイクシミュレータを使うことで、ハンドル操作と体の傾き・運転姿勢も含めて、こういったところがしっかり評価できるので、結果として道路をどのように走行できているかと照らし合わせながら、事故原因を抽出できるのではないかと考えています」(國行氏)。 UC-win/Roadでの実験環境構築 國行氏の研究室では、事故多発エリアのデータをもとに現地取材を行って、ワインディングや上り下り、ガードレール、周辺の植栽、法面、崖など、UC-win/Roadで実際に限りなく近い環境のデータを作成し、バイクシミュレータで使用。学生も、少しソフトウェアの操作に慣れてくれば、2、3週間程度で実験に必要なデータを概ね作成しています。 例えば、観光ドライブウェイで有名な美ヶ原のデータでは、事故発生現場周辺の山道を再現しており、シミュレータで走ってみて、速度が出すぎたり、カーブを曲がるのに不適切な操作があるところを検知して、なぜ事故が起きたのかの解明につなげています。特に、ハンドルだけではなく体を傾けてび運転がバイクの操作としては重要なポイントで、このシミュレータではそこがうまく評価できるところがメリットであるといいます。 また、実験の手法として、現実とまったく同様の事故現場を再現するのではなく、そこからカーブの形状をややシンプルに落とし込んで、曲率の違いや右カーブ/左カーブの違いなどによりバリエーションを組むことで、曲率が急だったからなのか、または勾配のせいなのか、右カーブの方にこういう要因があったからなのか、といったところまで落とし込むことができると、國行氏は説明します。「実際に様々な人を集めて行っている運転シミュレーション実験では、わざと現実よりもシンプルな道を作っています。実験で確かめたいことに合わせて、現実とは少し違ったデータをVRで再現し、シンプルな形に落とし込んだ上で検証することで、事故因子の解明につながると考えています」。 また、事故原因に近づくため、よりリアリティのある状況を再現するという意味で、今後はVRゴーグルとの連携も検討したいという國行氏。顔の動きや道の状況の確認といった動作も、さらに現実に近づくのではないかといいます。 学生コンペCPWCへの取り組み 國行氏の研究室では、「学生クラウドプログラミングワールドカップ」に継続して取り組んでおり、第12回となる今年は、「道路線形に応じた安全な速度を訓練・促進する速度警告システム」をテーマとしたデータを作成しています。 「僕たちはドライビングシミュレータを活用した研究を進めているチームなんですが、ハザードマップを作成している他のチームとも協力して進めています。まず中山間部のVRデータを作成し、他のチームがハザードマップから得た最適な速度、安全な速度を活用して、このコースを安全な速度で走るとそれを示すカラーがフィードバックされるというシステムを構築しています」(安達蒼馬さん、山川正陽さん、藁科諒翔さん)。
長野県では、旅行やドライブなどで山間部を走行する観光客が多いということもあって、一部の中山間地域では、カーブでスピード超過による事故が多く発生しています。安全運転を身につけるためのシステムを提供し、このような事故をを低減することが、今回の取り組みの目的となっています。カーブの曲率によって変化する適切な速度が設定されていることがシステムの特長だといいます。
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(Up&Coming '24 秋の号掲載) |
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