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このようにして収集したデータをもとに、高速道路環境をリアルに再現。車線の数や標識なども忠実に作成しています。 「UC-win/Roadの長所は、VR環境上に新しい道路や標識を作ったりするのに非常に適していることです。それに、道路座標を実世界の座標系に簡単にリンクさせることができるというのも非常に優れている思います。どの位置を走っているのかを、Google Mapsなど複数の道路を重ね合わせて簡単に再現して確認できるため、大変便利です」 高速道路環境では、速度を頻繁に変更しながら走る先行車両との車間距離を保てるかどうかを測定したり、緊急停止が必要なイベントを用意して急ブレーキもしくは車線変更の判断が適切にできるかどうかを見たりと、被験者の運転能力を計測するシナリオを作成。UC-win/Roadのログ出力プラグインを利用して被験者の運転時の挙動(アクセル、ブレーキ、ハンドル操作など)を収集しています。 市街地の運転環境では、現地で実際に行われている自然主義的運転試験の内容を正確に再現。道路標識や信号、バス停、建物の種類や高さまでもが現実そのままに構築された街の中を走る20分程度のコースとなっており、さまざまな種類の信号、ラウンドアバウト(環状交差点)、自転車や歩行者への対応などの測定を行います。
このシナリオの作成にあたっては、実際の試験を設定しているクイーンズランド州運輸省の担当者も協力し、実態に即したリアルな運転環境を構築しました。 「これら2つのシナリオを作ったあと、さらに細かいバリエーションも作成しています。被験者には条件を変えて何度かシミュレータの運転をしてもらうわけですが、その際、実験を繰り返しているうちに発生するイベントやそのタイミングが予測できるようになってしまうからです。そのため、スタート地点を変化させたり、イベントの発生タイミング、発生ポイントをさまざまに変えたりして、なるべく正確なデータが収集できるように工夫しています」
ドライブシミュレータを活用し多様な運転能力データを収集 このようにして作成された運転シナリオを使って、Larue博士はさまざまな人の運転能力についてのデータを収集しています。 まず、比較のためのベースデータとして健康状態が良好な人々のグループの運転データを収集。つまりアルコールや医薬品の影響を受けておらず、その他の疲労などといった運転阻害要因を持たない人々が、どのような運転挙動を見せるかについて、ドライブシミュレータを用いてデータを収集しました。 健康な被験者を対象とするこの実験の結果は、2~3ページのアブストラクトを2024年9月30日から10月3日にタスマニア州ホバートで開催されるオーストラリア交通安全カンファレンス2024(Australian Road Safety Conference 2024)に提出しており、アクセプトされれば発表を行う予定です。 ここで集められたデータは、基準の値(ベンチマーク)として、医療用大麻やアルコールなどの運転阻害要因が具体的にどのような影響を及ぼすかの比較検証に使われます。 医療用大麻の影響評価安全運転のための新指標 現在、Larue博士が取り組んでいるのは、医療用大麻を服用した状態での運転に関する研究です。 オーストラリアでは、医師による処方箋があれば医療用大麻を使用することができます。ただし、医療用大麻を服用した状態での運転は法律で固く禁じられており、車社会のオーストラリアでは、医療用大麻の使用の増加に伴い、これを問題視する声が大きくなっています。 「確かに医療用大麻の服用は運転能力に影響を及ぼしますが、時間が経過してそのような影響がなくなったと思われる状況でも、多くの場合、薬の成分は体内に長く残り続けます。法律的には、成分が残っている限りは一切運転することができません。もちろん、事故リスクを増加させないルールを作ることは重要ですが、その一方で、運転能力の低下が認められない人たちには運転を許可できるようなルールが理想的だと考えています。どの程度であれば安全な運転が可能か、その指標を作成するために、これらの研究を続けています」 被験者には、使用する医療用大麻の分量を変えて(まったく服用しない状態も含む)、4パターンの異なる条件下で運転シナリオを体験してもらいます。あらゆるデータを収集し、医療用大麻による影響を検証します。 しかし、データ取得には医療用大麻ならではの難しさもあるといいます。 「今のところ、すでに医師の処方を受けていて、日頃から医療用大麻を使用している人たちの協力により、実験を進めています。これは処方薬ですから、私達が薬に触れることは一切できません。そのため、被験者自らが医療用大麻を持参して専用の部屋で服用しなければならない、といったような制約が多いのです。本当はテストコースを使って実車での実験ができればよいのですが、そのための保険手続きがかなり煩雑であるため、現在は保留となっています」 このような点から、ドライブシミュレータを使った実験のメリットを、Larue博士は評価しています。 「今のところ、アルコールと医療用大麻を主な対象としていますが、その他の医薬品や疲労の原因となる物質なども、研究の視野に入れています」 さらに、60歳以上のドライバーを対象としたプロジェクトも開始しました。このプロジェクトでは、認知力を測定するテストとドライビングシミュレーターによる運転シナリオ体験を組み合わせて、60歳以上の方がどのように運転を行い、運転中に認知力に関してどのような障害があるかについてを確認する研究を行っており、現在も進行中です。 生体計測デバイスとの連携で拡張する研究の可能性 現時点ではUC-win/Roadのログ出力機能のみを使用していますが、今後の計画として、さまざまな生体計測デバイスも導入した実験も考えられているそうです。 近日中に始動させる次のプロジェクトでは、アイトラッカー(視線計測デバイス)を導入し、飲酒運転の研究に使用する予定とのこと。 「まずは、アイトラッカーが研究に有効かどうかを検証していきたいと考えています。アルコールについての研究はすでに多く行われており、どれくらいのアルコールがどのように運転に支障をきたすか、といったことが非常にはっきりしています。ですから、既存のデータと比較することで、シミュレータとアイトラッカーを使って取得したデータの信憑性をある程度示せるのではないかと予測しています。このプロジェクトをもとに、被験者のどのような行動が、運転において許容できないかを判断するベンチマークを作り上げていきたいと考えています」 アイトラッカーのほか、さまざまな生体計測デバイスをシミュレータと連動させ、運転阻害要因を検出するモデルを開発したいとLarue博士は述べます。現在は、脳波を計測するデバイスの導入も検討しています。 「最近では、Pythonを使ったUC-win/Roadの機能の拡張についても検討し始めています。ドライビングシミュレータと生体計測デバイス連携させることで、さまざまな角度からデータを収集したいと考えています。UC-win/Roadの活用により、今後のこういった研究がさらに発展することを期待しています」
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(Up&Coming '24 盛夏号掲載) |
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