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創業以来構造物の設計を軸に発展、災害復旧でも豊富な実績 株式会社溝田設計事務所は1980年4月、福岡県久留米市に有限会社溝田設計事務所として設立。1996年4月に組織変更し、現行社名へと改称しています。当初は橋梁関係の下請け業務を専門とする会社としてスタート。1998年頃からは地元自治体向けに建設コンサルタントの元請けとしての業務を手掛け始め、段階的にその比重を拡大。現在ではほぼ100%、元請け業務が占めるに至っています。 また創業以来、橋梁などの構造物を強みとして多くのノウハウを蓄積。そうした経緯もあって、新設橋梁の設計や既設橋梁の拡幅・補修・補強の設計、それらの維持管理および点検などを軸に発展。近年は橋梁を始め道路、河川、上下水道の設計、既設橋梁の長寿命化や修繕計画、農業土木を含む災害復旧などに事業の対象分野を拡大。特に災害復旧では、現場に足繁く通うとともに、地域の災害に関する知見を培ってきた地場コンサルとしての優位性もあり、構造物関連と並び同社が力を入れる事業分野(溝田社長)と位置付けられています。 同社は業容拡充と組織再編を重ねてきた中で、現在は技術部、営業部、業務部、品質管理部門および情報システム部の5部により構成。併せて、本社(久留米市)を始め、福岡、大牟田、八女、筑後、柳川(以上、福岡県)および佐賀(佐賀県)の6営業所を設置。それらの拠点に50名の社員を配置しています(数字は2024年8月現在)。 一方、同社では水田洋司・九州産業大学名誉教授を顧問に招聘。同氏を講師とする勉強会など各種テーマをカバーした社内教育を通じ、社員のスキルアップを推進。その傍ら、NPO法人九州プロレスの取り組みを支援する九州元気隊メンバー(ゴールド)に参画。地域貢献にも精力的に努めています。 新設部署を核にVTuberによる発信や3D CADスキル向上に力 溝田社長は2010年、それまで在籍していた清水建設株式会社を退職し、同社に入社。以来、広範に及ぶ設計業務全般に自ら携わってきています。そうした中で「3D CADや2D CADはもちろん、WordやExcelなどのソフトにも様々な機能があるのに、それらをフルに使いこなせていない」「社内でそれらを少しでも使いこなせるような役回りをやっていこう」との着想を醸成。同氏は自身の社長就任と同時に、その中核を担う「情報システム部」を新設しています。そこでは前述の各ソフトや3Dプリンターの機能周知に加え、近年注目されるAIを普段から使える社内環境の整備、社内の情報セキュリティ強化も担当。同部は、専任・兼任合わせて6名の社員により構成(部長は社長が兼務)されます。 「恥ずかしながら自分の父が『建設コンサルタント』なのに、入社するまでその正式名称すらよく知らなかったのです」と明かす溝田社長。そのような観点から「建設コンサルタントへの入り口を一段下げ」る形で、「土木の設計ってこんなことをやっているよ」ということを知ってもらおうと模索。1年ほど前からは、同社公式キャラクターの2Dアバター(女の子「久留米 愛架」、男の子「宮野 陣」)がYouTube上で、建設コンサルタントの「ちょっと真面目な話を面白おかしく」紹介するVTuber(バーチャルYouTuber)を展開。シナリオは社長も自ら書き、声優は社員が務めています。これには、将来の土木の世界を担っていくかもしれない学生にその一端を伝えられれば、との思いが込められています。 さらに、発注者に納品する2D図面の成果を基に、社内で3D CADを使って自主的に3D化。それを3Dプリンターで吐き出し、例えば、別途作成した高欄を付けて着色。地元説明にも利用可能な橋梁模型の制作サービスを今年から試行。これには、専ら地元自治体向け業務に対応し、3D CADのスキルを向上させると同時に社員の図面に対する理解を深める狙いもある、といいます。
耐震計算や動的解析、地盤FEM解析など各種ソフト適用を通じ信頼構築 「受注した業務が複雑な力の流れを示すような構造物であれば、これは動的解析をしなければいけないよね」というようにフォーラムエイトに相談し、必要なソフトがあれば導入するというパターンが多い、と溝田社長はこれまで培ってきた信頼関係に触れます。 溝田設計事務所が最初にフォーラムエイト製品を導入したのは1995年、当時のDOS版・3.5インチ版の深礎杭の計算ソフト「深礎フレーム」に遡ります。以来、耐震計算関連を中心に「UC-1シリーズ」の基礎工、橋梁下部工、仮設工、水工、道路土工などの分野にわたる各種ソフトを利用してきています。 そのような中、溝田社長が入社2年目(2012年)頃に関わったインテグラルアバット構造とラーメン構造の案件で動的解析が必要となり、当社セミナーを利用するなど集中的に勉強。併せて、当時の立体骨組み構造の3D解析「UC-win/FRAME(3D)」を導入。フォーラムエイトのサポートもあって、初めて取り組んだ動的解析で発注者の高評価に繋がった、と振り返ります。その後、後継の3D積層プレート・ケーブルの動的非線形解析「Engineer’s Studio®」も購入し、新設橋梁向け業務などに活用してきています。 また、2015年頃に受注した樋門・樋管の業務は、同社が取り組む地盤FEM解析の最初のレベル2地震動対応の案件だったことから、フォーラムエイトに相談。レベル2地震動を対象とする堤防と樋門の耐震設計について、やはり当社セミナーを含め学習。堤防の地盤FEM解析用として汎用的な地盤の2D解析を行う「弾塑性地盤解析(GeoFEAS®)2D」と、構造部分の解析用として「柔構造樋門の設計・3D配筋」を同時に導入。当時、地盤を1Dで解析するケースもある中、敢えて費用や手間を要する2Dで解析。当社サポートとの密な連携を通じ高度な解析を実施し、発注者から信頼を得る契機になった、と溝田社長は述べます。 さらに近年、豪雨災害による河川の氾濫被害が多数発生。ただ、小規模河川の災害リスクは十分把握されておらず、それらの情報を欠くためハザードマップとして誤解を与えかねないことが課題として浮上。これに関連して、膨大な数の小規模河川に対し特定の氾濫形態向けには比較的簡易な水害リスク評価手法が提示されてきた反面、それ以外の氾濫形態向けには他の氾濫解析手法の適用が必要。そこで同社は2023年前半に「xpswmm 雨水流出解析ソフトウェア」を使用。小規模河川の現況と改修計画後の河川断面に対し、浸水氾濫シミュレーションにより水害リスクを評価。その成果をまとめた作品は「第10回ナショナル・レジリエンス・デザインアワード(NaRDA)」(2023年)で審査員特別賞を受賞しています。
新たな浸水氾濫解析ソフトの開発に期待、UC-win/Roadとの連携も視野 構造設計のみの業務に対し、契約条件として特に求められていなければ、2Dの地盤FEM解析は行わないという選択肢も可能なはず。つまり、どこにも「しなくて良い」とは書かれていない反面、「絶対にしなさい」とも書かれておらず、だったら「しなくても良いだろう」という発想はあり得る(溝田社長)。ところが同社では、そのような場合にも自社で当該技術について勉強し、敢えて正確性や安全性を担保するために高度なソフトを導入。その解析結果を構造設計の成果物に反映してきた経緯があります。 グレーゾーンへの対応を巡っては各社で大きな差異が生じがち。溝田社長は、そこでは「うちは一番丁寧なやり方」で取り組んだとしつつ、そこが非常に判断の難しいところでもある、と説きます。 また、小・中学校の近くに河川もしくは小さな水路があるというケースは少なくない。一方、既存のソフトはほぼ海外製品に依存。そのため、そのコストや利用性が制約となり、特に予算に余裕のない中小規模の自治体では浸水氾濫解析のハードルは高いのが実情。いわば、国内に数多くある「守らなければいけないところ」に本来必要な解析を使えない現状に疑問を感じてきた、と溝田社長は述懐。その意味でフォーラムエイトが現在開発中の、国内のニーズにきめ細やかに対応する新しい浸水氾濫解析ソフトには大きな期待を示します。 加えて同氏は、フォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」の可能性に注目。例えば、同社が力を入れる浸水氾濫解析の成果をUC-win/Roadと連携させ、3DVRで可視化。効果的な避難のシミュレーションへの展開も視野に入れます。「そういったところまで持っていくのが、私たちコンサルのあるべき姿かなと思うのです」
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執筆:池野隆 (Up&Coming '24 秋の号掲載) |
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