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ユニバーサル・コミュニケーションデザインの認識と実践

太田 幸夫
ビジュアル・コミュニケーションデザイナー、太田幸夫デザインアソシエーツ代表
特定非営利活動法人サインセンター理事長、多摩美術大学 前教授
LoCoS研究会代表、日本サイン学会理事・元会長、日本デザイン学会評議員
一般財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会評議員
A.マーカスデザインアソシエーツ日本代表
 

Vol.5 東京オリンピックの案内ピクトグラムが世界を開く
   
道路標識のように法律で規定されない東京オリンピックのためのピクトグラム59種類が1963年、デザイン評論家勝見勝デザインディレクターのもとで開発されている。競技種目と公共施設を案内するためのピクトグラムである。日本のデザイン分野のトップから若手までが勝見勝ディレクターのもとに総動員され、シンボルマーク、ポスター、入場券、招待状、メダル、バッジ、賞状広報誌、プログラム、報告書、身分証、制服、記念コイン、切手、トーチ、歓迎装飾、会場案内などをデザインした。会場案内等に使われたピクトグラムデザインの開発は、その後50年間の全てのオリンピックと万博など国際イベントのモデルケースとなり、国際化時代の要請に応えて国語の壁を克服するのに貢献した。

国際グラフィックデザイン協議会によるICOGRADA国際会議が1966年、世界から650名をユーゴスラビヤ・ブレッド市に集めて一週間、ピクトグラムをはじめとする視覚コミュニケーションをテーマに開催された。日本から勝見勝が唯一人ゲストとして特別講演に招かれ、’64東京五輪でのピクトグラム開発と活用成果を発表した。留学先で視覚言語を研究していた筆者は、イタリアからその国際会議に出席し、帰国後は勝見が創立に貢献した東京造形大学に招かれてピクトグラムを中心とするデザイン教育にたずさわった。

勝見の勧めもあって1972年、「目で見ることばの研究所」Pictorial Instituteを創設した。東京オリンピックで使用した案内用ピクトグラムを国際社会に広め各国の専門家と協力して視覚言語の啓発活動を展開した。勝見が言い残した「国際リレー方式」は、二つの認識に基づくピクトグラムによる国際資産の創造をめざすキャッチコピーであった。ひとつは視覚言語にふさわしいデザインレベル、もう一つは社会資産として不可欠なアノニマスデザインであった。アノニマスとは無名性のこと。この二つはともに日本が世界に誇る紋章デザインにそのルーツがある。紋章のデザインは現在でも世界最高峰のビジュアルデザインとして息づいている。

筆者が直接デザインに関わった国際規格の非常口サインピクトグラム(本誌107号)とも通底するそのルーツは日本政府の電子出版でも筆者への取材で明らかにしており、PictogramとHighlighting Japanの2語入力により英語と日本語で検索できる。

紋章の美しさと訴求力は絵画のような作者の自己表現によるものではない。1200年余の歴史の中で全ての日本人は一生で最大の慶びと悲しみに際して紋付を身にまとって正装する。そして父母や先祖に対する感謝と誇りの気持ちを新たにする。作者不明の審美性はすべてそのモチーフ(題材)のもつ造形美を最大限表現した結果によるものだ。形の無駄をすべて排して単純化しテーマの本質を浮き彫りにする「無私」は容易でない。一職人である上絵師が精魂傾けなければ出来ることではない。東京五輪で競技種目を一人でデザインした山下芳郎はそれを遣り遂げた。各スポーツ競技の特徴を白と黒で立派に形象化した。レストランやトイレなど施設案内ピクトグラムは、若手デザイナー 10名余りが勝見のもとで恊働制作した。その結果、創る人と使う人の評価がどちらも活かされて無名性のデザインが生まれた。

ところがその後の大阪万博と札幌冬期・ミュンヘン五輪を除く各国の国際イベントでは50年間、開催国の宣伝を担う装飾的、商業的、個性的ピクトグラムが幅をきかせて「国際リレー方式」は実現しなかった。勝見の視野には1930年代、ウイーン市アイソタイプ研究所の偉業、O.ノイラートが残したアイソタイプが位置づいていた。

その視覚情報・絵ことばの業績を引き継ぎ、案内誘導絵文字サインの段階から視覚言語を国際的に整備して、教育や学歴に左右されない、見れば分かる視覚コミュケーション環境を各国共通に整えて国語の壁を乗り越えるビジョンがあった。これはVRの科学的・国際的役割と同質のビジョンと言ってよいだろう。

2回目の東京五輪が間近だ。「国際リレー方式」を日本で実践し、そのレベルアップしたデザイン成果を国際社会にプレゼントすることを提案したい。そして災害大国日本の安全と安心を構築しなければならない。

筆者は3.11の複合災害発生まで30年余り、各省庁の委員会で安全標識などピクトグラムの国際国内規格に協力し経産大臣より「国際標準化功労者賞」を授与されている。けれども複合災害で効果が見られなかった。目下、民間主導型「避難誘導サイン・トータルシステム」を構築して全国展開を準備中だ(上記Highlighting JapanとPictogramをキーワードにして検索可能)。それら分かりやすさと安全の2重のおもてなしによる新生日本によって世界からの客をお迎えしなければならない。

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