東京地下鉄サイン文字と Signs in Japan誌編集長の実績をもつ鎌田経世、非常口サインデザインの大切さを啓蒙したルポライター坂野長美と共に筆者は、入選作アイデアをもとにデザイン作業をスタートさせ、58点のデザインバリエーションを制作した。委員会で図2が選ばれた。ただし避難誘導システム分科会田辺委員長からは、伸ばした足の先に陰をつけるように条件づけられた。 |
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■58点のデザインバリエーション |
■図2 |
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そのままでは壁の陰と接近しすぎる。足の角度を変えるだけではバランスが崩れる。全身を微調整して図3の形にした。再度科学テストにかけてデータを確認した消防庁は1980年、図3を日本案としてISOに提出した。ISOでは数年前から各国の案を審議しており、ソ連案(図4)が国際規格案に決定していた。 |
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■図3 |
■図4 |
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朝日新聞は「万国共通図案めぐり日欧戦争」と題したスクープを報道。NHKテレビではデザインの押さえどころを筆者が解説した。毎日新聞は「非常口どっちがわかりやすい/日ソ対決」と書き立てた。ソ連からは正式抗議文が日本に届いた。政府の意向を受けて筆者はデザインの立場から反論した。視認テストによる日ソ両案の比較データや英文報告レポートも効果あってソ連は自らの案をとりさげた。けれどもフランスとイギリスから日本案の一部修正要求が出た。ピクトグラムの下端を閉じる(図5)、左右の壁下にも足先と同じ白いスリットを入れる(図6)というもの。前者を前提に1987年、日本案の国際規格化が決まった。 |
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■図5 |
■図6 |
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前者の修正によってピクトグラムは閉じられてしまう。閉じない場合は、走る人型を囲む空間が見る人を包む空間とつながって走る人は見る人の投影になる。ISOの安全標識は全て丸、三角、四角の枠で囲む。枠の形と色で避難、火災、指示、禁止、警告を区分するため、四角は四角に閉じなければいけないと思い込む。形は全てエッジで認識されるので新聞の文字を枠で囲んだら読めなくなるのだ。
もう一つの修正案も問題。走る人の足が床から離れて避難の動きを表わし、建物とその陰は離れない。この動と静の重要な対比が修正によって破壊されてしまう。論理性を重んじる欧米文化は形の形象化には適していないようだ。 |