河川や道路・橋梁、港湾分野等半世紀を超す実績
三井共同建設コンサルタント株式会社(以下、MCC)は、三井グループの建設コンサルタント会社として1965年に創立。以来、着実に業容を拡充する中で、これまでに本社(東京)を中心として東北・東京・中部・関西・九州の5支社、(各支社管内の国内6事務所に海外・地域事業部が管轄する「ハノイ事務所」を加えた)7事務所および31営業所を展開。それらに402名の従業員を配置しています(数字は2017年1月末時点)。創業50周年を迎えた2015年には、本社を現行のゲートシティ大崎(東京都品川区)に移転しています。
幅広い社会資本整備事業および民間業務向けに、事業の企画立案から調査・計画、設計、監理までをカバーする同社は、1)道路・橋梁、2)河川・下水道、3)環境・港湾、4)ジオ・エンジニアリング、5)情報システム、6)都市・民間、7)海外・地域の7事業部を構成。そのうち、河川および道路・橋梁分野が全売上の約7割を占めます。また、国内はもとより海外のプロジェクトにも積極的に手掛けており、これまでに50ヵ国以上での事業実績を誇ります。
3Dデータの社内普及・活用開発を研究所が主導
「(様々な事業部門へ)最新の技術を取り入れたい、それを研究してみたいという社員を中心とした複数の研究グループがあり、それらの活動を支援すること」。同社MCC研究所所長の山崎崇氏は、社内向けに新技術の開発や技術情報の提供を担う自身らの役割の一端をこう説明します。
そうした取り組みの中で3Dモデルを使うCIMや、そこから派生するi-Constructionに対応しているのが、「CIM活用研究グループ」です。3Dデータを扱う当社等のソフトウェアをテスト的に使いながら、それぞれの特徴や実践的な使い方を比較・研究。そこで得られたノウハウを社員へフィードバックし、その普及に努めています。同グループをけん引するMCC研究所の石原孝雄氏は、「まず(いろいろなソフトを使って)やってみようと。それで使えるモノは広めていけばいい」とのスタンスに立脚。CADに関しても「もう3Dでやる時代」との考えから、全新入社員に対して従来のように「2D・CADをやってから」というのではなく、最初から3D・CADを使えるよう指導する流れを形成してきました。
それと並行し、石原氏らは実際の業務をベースに3Dデータの活用方法を探る取り組みに注力。例えば、橋梁プロジェクトではPC鋼材や鉄筋など様々な要素が輻輳する橋脚周辺部の3Dモデルを作成。干渉チェックなどに利用しています。また、UAV(無人航空機)を用いた空中写真測量を通じ、取得した点群データから詳細な3Dの地形モデルを作成。高盛土の施工においてこの3Dモデルを活用し、現況と設計の差分を基に必要な土量の計算を行っています。
MCC研究所におけるその他の社外活動としては、他の建設コンサルタントや測量会社、施工会社、関連メーカーとともに「社会基盤サービス研究会」を組織。関係者間でそれぞれのニーズに合ったモデルの作成や受け渡し、生産効率の向上に繋がる活用について勉強しています。
防災関連の海外展開や大学との共同研究に力
現在、UC-win/Roadを主に利用している原田氏が所属する「海外・地域事業部」と「河川・下水道事業部」。前者は同社の扱う海外のインフラ案件や合意形成のプロセスが求められる国内プロジェクトに、一方、後者は山地から海岸までに至る河川流域に関する業務に、それぞれ対応しています。
同氏が海外のインフラ案件として着眼しているのは、道路防災点検。一般的に、発展途上国では土石流や盛土の崩壊など、土砂災害が実際に起きた後での事後対策であるため、その被害が顕著で生活に支障がでるとともに、予防保全としての対策より結果的にコスト増となりがち。そこで、日本国内でこれまで蓄積された技術知見を活用した防災点検により災害を予測し、事前に適正な対策を講じておくことで被害を軽減する仕組みづくりを行おうというものです。
また、同氏は、現在、京都大学大学院農学研究科研究員および立命館大学理工学部非常勤講師としても活動。社内では防災や砂防を主に担当し、両大学との共同研究では土砂と水の移動現象(例えば、土石流)に関する予測や対策を専門としています。
特に、土砂災害へのソフト対策や土石流(昔は“山津波”と呼称)への防災対策における自社の強みを敷衍。両大学との共同研究を通じ、高速道路盛土を土石流の堤防代わりに安全に有効活用するための構造(土砂と水との分離)を提案しています。さらに、工学的アプローチへICTを積極利用。土木の核となる水・土の各分野を繋ぐ領域に着目し、例えば、越流侵食決壊など、河道閉塞(天然ダム)決壊のメカニズムを対象とする解析技術を研究。土堤防の決壊メカニズムは複雑であるため、現象解明の一つとして、大学との共同研究として現地にて大型の決壊実験を実施。さらに、これらの現象を再現および予測するために解析モデルを提案しています。特に、越流侵食と土中の浸透流を複合的に予測する解析技術については、海外においても認められています(例えば、国際シンポジウムでExcellent
paperを受賞)。
多様な分野へのUC-win/Road活用と広がる可能性
MCCではもともと10年ほど前、道路・橋梁分野向けにUC-win/Roadを導入。主に、道路計画の説明等に利用してきました。その後、UC-win/Road自体の機能拡張に加え、操作に習熟した社内スタッフの育成もあり、近年、その有効活用が多様な分野で原田氏らを中心に急速に広がりつつあります。
例えば、計画区間に含まれる砂防堰堤がドライバーディストラクション(一次運転タスク以外のことに意識が向けられることによって、運転タスクパフォーマンスが低下すること)とならないよう考慮を求められた道路の設計業務では、ドライバーの視点で完成後の砂防堰堤がどう見えるか(走行車両からの内部景観)をVRで再現。天候や時間帯、走行速度などを様々に設定して事前に関係者に体感してもらうことが意図されました。道路の担当部署と連携して2015年に取り組み、これにより懸念された点はほとんど問題にならないことを検証して説明しています。
また、大学と共同に研究している「土石流シミュレータ(Kanako)」をソルバーとし、当社では「UC-win/Road 土石流シミュレーションプラグイン・オプション」を製品化しています。原田氏らはこれを活用し、土石流の災害リスクと砂防ダムの機能、計画された砂防ダムやその施工概要を分かりやすく説明する「VRを用いた地域住民への土石流対策事業に関する説明手法の提案」を作成。この作品は「第14回 3D・VRシミュレーションコンテスト・オン・クラウド」(2015年)でノミネート賞に加えて、アイデア賞を受賞しています。
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VRを活用した特殊工法の説明。地中での作業もリアルに再現している |
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VRを活用した対策工法の比較検討(景観比較検討)事例 |
VRへの対応、維持管理の重要性
「UC-win/Roadは若い世代から取り組ませたい」との考えから、原田氏は自身が教える学生らにその利用を促進。それに応え、立命館大学の学生らは沿岸域の開発に水質浄化の重要性を謳った「Urban redevelopment using water space」を作成。同作品は「第6回 VDWC」(2016年)でノミネート賞を受賞しています。
とはいえ、VR作成には相当の労力を要するのに対し、国内ではまだプロジェクトの説明用VRが相応の評価に繋がらないケースは少なくありません。そこで原田氏は、初めに全体を粗いVR(ただし、一部を詳細作成)で作成して顧客に提示。その反応を見ながら、すべてを詳細に作成するかどうかネゴ・シエーションしていくというアプローチに言及。VRへの理解の輪を着実に拡大していくことの重要性を述べます。
一方、「CIMの最終目標は維持管理の段階でモデルをいかに使うか」であり、そのためにどんなデータが必要かを判断していかなければならない、と石原氏は指摘。山崎氏は、その際の観点として、20年先・30年先の国の経済や状況を視野に入れるべきと説きます。
それぞれの分野に応じて最適解はあると思います。しかしながら、今後は、設計したものがどう維持管理されていくかなど、自分たちの先のステージまで想像しながら、先の人に繋がるようなやり方が大事になってきているという気がします」
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