道路土工指針改訂状況について (その2) |
7月上旬に発刊されました道路土工の「要綱」、「切土工・斜面安定工指針」の主な改訂内容とその対応(斜面の安定計算)について、ご紹介します。
■指針改定の趣旨
主な改訂項目は表-1に示す(A)〜(D)に整理されます。設計思想として、性能規定型設計の導入および雨水貯留浸透施設の導入が追記されているのが大きな特徴です。性能規定型設計については要求性能の規定が体系化されましたが、具体的方法論については動的有限要素法およびニューマーク法の解析手法名が挙げられるに留まり、鉄道基準のように具体的解析法の詳細指定は無いようです。これは、性能規定型設計の本来の意図通り、具体的方法論についは設計者自身による自由な発想での解析を行うという理念に基づくものであると思われます。
▼表-1 土工指針の主な改訂主旨
(A) 指針の再編・再体系化 |
・「道路土工要綱」・8指針から、「道路土工要綱」・6指針に再編
・「道路土工要綱」を最上位として「基礎編」・「共通編」に大別。その下に「盛土工指針」・「切土工・斜面安定工指針」
を、更にその下に「軟弱地盤対策工指針」・「カルバート工指針」、「擁壁工指針」。 |
(B) 条文スタイルの採用 |
指針構成は「道路橋示方書」や「河川砂防技術基準」と同様に、セクション冒頭で要点の枠書きが設けられる形式に
変更 |
(C) 性能規定型設計の土工指針初の導入 |
・今後の技術開発の促進と新技術の活用に配慮した指針を目指し、性能規定型設計の考え方を土工指針として
初めて取り入れられた
・性能規定型設計への適用に関する法的強制力は弱い |
(D) 雨水貯留浸透施設の導入 |
旧版にない新たな項目として「雨水貯留浸透施設」に関し、平成17年に策定された「特定都市河川浸水被害対策法」に基づいて、道路建設における雨水貯留浸透施設設置の考え方が導入 |
|
■道路土工要綱の改訂内容
「基本編」では道路土工に際して遵守すべき法令等、道路土工の計画・調査・設計・施工・維持管理における基本的な技術理念が記載され、「共通編」では複数指針に渡る共通事項として、「調査の方法とその活用」・「排水」・「凍上対策」・「施工計画」・「監査と検査」について、現在の技術動向や課題が記載されています。
旧要綱に無い新たな追記項目は、共通編4章での「雨水貯留浸透施設」が挙げられます。
▼表-2 道路土工要綱の構成
区分/内容 |
備 考 |
基本編
法令・技術理念について規定 |
・性能規定型設計導入に関する項目が追記
・照査に用いる地震動は「道路橋示方書」のレベル1・レベル2地震動の
規定が追加
・従来仕様型設計を許容する内容となっており、性能型規定は法的強制力
の弱い努力目標的な位置付け |
共通編
複数指針の共通事項に関する規定 |
・「特定都市河川浸水被害対策法」に基づく、「雨水貯留浸透施設」の規定
が追加 |
巻末資料
照査に用いる作用力や計算法等に
関する具体的規定 |
・「道示、V耐震設計編」でのレベル1、レベル2地震動における地震動作成
方法に関する記載が追加
・降雨特性値曲線や最新確率降雨強度ならびに流出解析方法に関する記
載が追加
・雪熱伝導率や凍上試験方法等の計算法の記載が追加 |
■豪雨の考慮
「道路土工要綱」全般を通じて、集中豪雨を考慮した排水・浸透対策が追記され、旧版要綱に比して流出計算および水理計算による排水・浸透現象に対する記載が拡充されております。同指針改訂により、雨水流出解析ソフトウェア(xpswmm)や3次元浸透流解析(VGFlow)の必要性が増すものと考えられます。
▼表-3 流出解析・浸透流解析関連の規定
道路土工への豪雨の考慮 |
内 容 |
資料-4
全国確率時間降雨強度(Rn)図 |
集中豪雨を考慮した、n年確率60分降雨強度Rnの、全国約1,300地点のアメダス観測地点における33年間(1976〜2008年)の降雨資料から、確率年3、5、7、10、20、30年に対する値が掲載 |
資料-5
流入時間の算出法 |
雨水流出計算については合理式による計算が、流入時間についてはKinematic Wave等で計算する規定が追加 |
■「切土・斜面安定工指針」の改訂内容
「切土工・斜面安定工指針」は、平成11年版「のり面工・斜面安定工指針」を切土部のみに特化したものです。安全性を高めることが設計の基本とされ、対象土構造物は性能明示が難しいことから、具体的手法としては従来の極限平衡法および震度法による静的解析法の記載に留まっています。
新たな項目としては、地すべり解析部分で「三次元解析法に関して、いくつかの解析法が存在する」という記載程度であり、動的変形解析の具体的記載は含まれおりません。対策工設計手法についても静的解析法のままであり、安定計算における補強効果の考え方は従来通りであると考えられます。
性能規定型照査の具体的方法論については、道路土工に対する性能規定型照査は"出来るようになった"という扱いであり、強い法的強制力を有すものではないと考えられることから、従来の仕様型設計と性能規定型設計とが併用されていくものと考えられます。
▼表-4 照査方法に関する記載の対比表
旧 指 針 |
新 指 針 |
備 考 |
指針名 |
規 定 |
|
指針名 |
規 定 |
|
道路土工
要綱 |
仕様型設計 |
○ |
道路土工
要綱 |
仕様型設計 |
○ |
仕様型・性能型の両者を
許容 |
性能型設計
耐震性能
浸透性能 |
×
× |
性能型設計
耐震性能
浸透性能 |
○
△ |
のり面工・
斜面安定工
指針 |
仕様型設計 |
○ |
切土工・
斜面安定工
指針 |
仕様型設計 |
○ |
仕様型のみの記載 |
性能型設計
耐震性能
浸透性能 |
×
× |
性能型設計
耐震性能
浸透性能
|
×
× |
|
|
盛土工指針 |
仕様型設計 |
− |
来春発行予定 |
性能型設計
耐震性能
浸透性能 |
−
− |
■「斜面安定計算」の対応状況
土工指針改定に際して指針改訂前に、プログラム標準機能として性能規定型照査機能に対応済みの状態として先行リリースしておくことを念頭に開発を進めて参りました。
今回の改訂により、土工指針としては初めて性能規定型設計が導入されております。「斜面の安定計算」では、耐震性能型照査に対応するニューマーク法や豪雨に対する浸透性能照査に対応する浸透流解析機能により、指針改訂前に性能規定型照査機能対応を実現しています。
■参考文献
1)道路土工要綱 (社)日本道路協会、H21.6
2)道路土工−切土工・斜面安定工指針 (社)日本道路協会、H21.6
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(Up&Coming '09 秋の号掲載) |
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