同研究所が設立されたのは、1953年。当時は、電動設備や家電製品をはじめとする電器・電機の研究開発を主に行っていました。1990年頃、周氏はその中でコントローラーや自動化を研究開発する部門「自動化分所」に所属。そこで扱われる商品は他部門と比べ小型で、加えて小所帯(約50名)の組織ながら、「コンピュータや情報処理と関連し、(可能性を窺わせる)先進的な仕事(を担っている)」との自負があったといいます。
1990年以降になると、中国の科学技術の発展と国内市場の伸張を背景に、同分所では汚水・排水処理の自動化、次いで交通システムの開発・統合なども段階的に手掛けるようになりました。そうした流れの中で、同分所はやがて100名超の組織へと拡大。ついに2008年、現行の「上海電科智能系統股份有限公司(SEISYS)」として独立しています。
設立当初、SEISYSは道路を中心とするスマート交通をメインに活動。それが、その後10年以上を経る中で、1)あるエリア内の道路をはじめ都市間を繋ぐ高速道路、地下鉄や路面電車、バスといった公共交通を含むスマート交通、2)ビルの管理をはじめとするスマート建築、3)汚水・排水処理関連業務をはじめとするスマートシティに加え、近年は4)ビッグデータに基づくAI(人工知能)関連業務へと拡大。現在は750名超の社員を有し、上海本社のほか、南京(江蘇省)、杭州(浙江省)、天津、成都(四川省)の4事務所およびウルムチ(新疆ウイグル自治区)の合弁会社を拠点にほぼ全国(30超の一級行政区)で独自にマーケティング活動を展開しています。
スマート交通を中心とする事業部の取り組み
SEISYSにおいて、周氏が所属する「高速橋隧事業部」は、文字通り高速道路や橋梁、トンネルのスマート化を担当。同分所には現在、約100名の社員が在籍。そこでは特に高速道路の電気設備のモニタリング、高速道路の建設からメンテナンスに至るフェーズを通じた情報管理、およびETC(電子料金収受システム、中国語では「自由流システム」)のシステム構築とその情報の管理・運用などの業務にウェートが置かれています。
「中国では近年、全国規模でETCシステムの建設が推進されています」
これは、同国において省など行政区の境界ごとに料金所を設置。そこを通過する都度、支払いを行う必要があることから、人手を介する窓口が多い場所では休日などに大規模な渋滞を発生することが社会問題化。その解決策としてETCの増設が注目されてきたことがあります。同事業部では、主に上海をはじめ天津、新疆ウイグル自治区、浙江省、湖北省におけるETCのシステム構築と情報管理に従事。それらを通じ、従来は料金所を通過する車両の20%程度に過ぎなかったETC利用を、2019年末までに90%程度のカバー率にしたいとの目標が掲げられている、と周氏は語ります。
「(これにより)例えば、上海から杭州へ行く場合、従来(の人手を介する窓口利用)だと3〜4時間を要することもあったのが、ETCに置き換わることで1〜2時間に短縮するものと期待されています」
また、スマート道路の機能の一端に関連し、氏は高速道路上での事故発生時の対応に言及。例えば、従来であれば事故を発見した周辺のドライバーもしくは同乗者がその情報を伝える必要があったのに対し、スマート道路では高解像度のカメラやセンサーなどを道路側で備えており、事故発生の把握、救助の手配、道路状況に応じた交通情報の提供などを効率化できる、といいます。
これらシステムの構築には、関連するハードやソフトの先端技術に対する知見が不可欠。もとよりスマート交通システム(あるいはITS)分野に非常に注目してきたこともあり、「VICSやETC
2.0など日本のITSについても勉強してきました」という周氏は、そうした情報のリサーチや必要な資源の調達、人員配置に配慮しながらシステム構築を図ることが自らの役割、と位置づけます。
3D VRとマルチユーザー協調操作に基づく道路交通操作緊急救助訓練シミュレーションシステム
|
UC-win/Roadを利用し、長大橋の緊急救援訓練用シミュレーションを開発
前述のように周揚華 副総工が、自らその会場建設に携わった上海万博とリンクして進められ、当時はまだ完成前だった上海虹橋総合交通ターミナル周辺(「虹橋ハブ」)の完成後の様子をVRで表現した動画を偶然目にしたのは、2010年。虹橋ハブは、空港との連絡機能、高速鉄道のターミナル駅、地下鉄の乗換駅、長距離バスや市内路線バスのターミナルなどが集積し、複雑な道路構造を形成。それを、建設過程の段階でVRによりリアルに再現。そのVRを基に交警において標識や案内システムの在り方などが検討されている現状に触れ、安全面やコスト面からもそうした手法のメリットが強く印象付けられた、といいます。
その後しばらくの間、業務上でVRを用いる機会はなかったものの、2016年に杭州湾海上大橋で緊急事態が発生した際に、どうすれば各部門が効率的に連携し、避難や救援に繋げられるかを問うプロジェクトを周氏が担当。UC-win/Roadの活用が着想されました。
杭州湾海上大橋は2008年に竣工。橋長35,673mと、海上橋としては当時、世界最長、今日でも港珠澳大橋(橋長49,968m)、青島膠州湾大橋(同41,580m)に次ぐ世界第三位の規模を誇ります。
そのような環境で大事故や火災が生じた場合、指揮本部と警察(交警)、消防、救急医療、橋梁設備のメンテナンス、レッカーなど関係する多様な部門が連携・協力しつつ、避難や救援を効率よく実施することが不可欠。そのためまず、UC-win/Roadを使い、VRで現場の3D空間を再現。その上で、例えば、火災や事故が起きた場合に「誰が最初に現場に入り、そのあとどのような順番で続くか」といった手順について、シミュレータを利用して訓練する、というアプローチを考案。周氏を中心に緊急救援の訓練用シミュレーションシステムが開発されています。
そこでは、お互いの動きは直接見ることが出来ない半面、モニターセンターでは全体の動きを見られるなど、同訓練の特殊な要件も反映。複数部門の関係者がそれぞれ異なるネットワーク端末を通じ、同じVR空間で指示や情報通信、協調作業などをシミュレーションしながら、効率的な連携・協力の在り方を訓練。さらに訓練の結果を実際の作業手順の改善に繋げるべく意図されています。
「こういったシミュレーションにより全体の訓練の流れが見える中で(自身らの活動の)良い点や改善すべき点が明らかになり、一層スムーズな協調に繋がるのではと思います」
その意味で、当初は訓練用のシミュレーションを想定していたのが、被験者の予期せぬ事件に応じた臨機応変の処理能力について評価、あるいは試験するツールとしての可能性に注目。そうした機能も付加されています。また、同システムの開発で、氏らはUC-win/Roadを初めて使うこともあり、当社担当者のサポートを得つつ、その操作を習得。複数の関係者がシミュレータを操作する際、画像の内容を正確に同期させる部分などで少し難航したものの、最終的にはクリアできたと振り返ります。
|
|
|
UC-win/Roadによる訓練用ドライブシミュレータ |
|
UC-win/Roadの可能性に注目、今後の適用に期待
「これからも、UC-win/Roadの応用を積極的に考えていきたいと思っています」
今回デザインフェスティバルを通じ、様々な適用事例に接したことでその豊かな機能性を改めて実感。例えば、道路整備や汚水・排水処理のプロジェクトにおける地上および地下空間をリンクした3D・VRによる確認などは可能性が窺われる、と周氏は位置づけます。
さらに、開発キット「UC-win/Road SDK」を利用した実車データとの連携なども視野に、自身らが最も力を入れるスマート交通分野でのUC-win/Roadの新たな活用への考えにも言及します。
|
|
開発メンバーのグループショット |
システム運用のリハーサルの様子 |
|