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Academy User by Ieiri Lab. vol.1

京都大学大学院

建築学専攻 建築構法学研究室

コンクリート構造物の実験結果から設計法を編み出す
京大・西山研の研究を支えるフォーラムエイトの解析ソフト

Academy Information

京都大学大学院 建築学専攻 建築構法学研究室
URL ● http://www.rc.archi.kyoto-u.ac.jp/
所在地●京都市西京区京都大学桂キャンパス
研究内容●コンクリート造系建築物の高性能・高機能な建築部材や構造の開発や、設計法などの研究

京都大学大学院 建築学専攻の建築構法学研究室は、コンクリート造の建築物を対象に建築部材や構造の開発や設計法の研究を行っている。校舎の地下にある実験室で重さ7tにも及ぶ巨大な建物模型の破壊実験で得られたデータを、フォーラムエイトの解析ソフト「UC-win/WCOMD」や「Engineer's Studio®」で解析し、合理的な設計法の開発を目指している。


▲建築構法学研究室のある京都大学桂キャンパス

実験結果の理論的解釈をサポートする解析ソフト

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▲10t吊りの門形クレーンや巨大な反力壁などがある地下の実験室 ▲コンクリート構造物の破壊実験に使用するジャッキ

京都大学大学院 建築学専攻の建築構法学研究室は、西山峰広教授と坂下雅信助教のほか、研究員や大学院生、学部生など約15人が、技術職員のサポートを受けながら、コンクリート造の建築物を対象に建築構法の研究に取り組んでいる。

建築構法学研究室の研究手法の特徴は、実物の構造物の挙動を明らかにするため、実験を重視していることだ。校舎の地下には10t吊りの門形クレーンや巨大な反力壁などを備えた実験施設がある。

ここに縮尺3分の1、重さ7tといったコンクリート構造物の供試体をセットし、強力なジャッキで外力を与え、破壊する過程を数百個のセンサーや写真などで記録していく。供試体の鉄筋を組んだり、センサーを取り付けたりする作業は、学生自身の仕事だ。

10tクレーンの操作には免許がいるため、博士課程の学生はクレーン免許を取得し、修士課程の学生はクレーンのフックを供試体につなぐ「玉掛け作業」の技能講習を受けている。

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破壊実験後の供試体。鉄筋にはひずみセンサーが取り付けられていた

まさに、工事現場のような実験室なのだ。

この実験の計画や実験結果の理論的解釈を行うために、フォーラムエイトの構造解析ソフト「UC-win/WCOMD」や「Engineer's Studio®」が使われている。

UC-win/WCOMDで実験自体を事前にシミュレーション

 
▲Engineer's Studio®による解析結果を説明する坂下雅信助教 ▲建築構法学研究室の学生と。実験結果を解析するため、
研究室にはコンピューターやモニターがところ狭しと並んでいる

「これだけ大きな供試体になると、配筋、打設、養生など、実験前に数か月の準備期間が必要になるので、慎重に実験の計画を立てる必要があります。実験も構造物の形や鉄筋量などの違いが、うまく実験結果の差として現れるよう、UC-win/WCOMDで実験自体をシミュレーションし、パラメーターを設定しています」と坂下助教は説明する。

UC-win/WCOMDとは、東京大学コンクリート研究室の前川宏一教授によって開発されたソルバーを搭載した鉄筋コンクリート構造物の2次元非線形動的解析や静的解析を行うプログラムだ。

このプログラムが使われているのは、柱と梁で囲まれた耐震壁にドアや窓などの開口部がある構造物の挙動の解析だ。このような壁では、開口によって地震時の力の伝わり方が複雑になり、構造物の耐力や建物の崩壊・倒壊時の破壊パターンは、開口部の位置や柱・梁と壁の鉄筋量によっても変わる。

これらのパラメーターをどのように設定すれば、うまく実験結果の違いとして現れるのかを、UC-win/WCOMDによって事前にシミュレーションし、供試体の設計に生かしているのだ。

「UC-win/WCOMDはCADのように作図すれば、解析用のモデルが作れるので、供試体の形や鉄筋量などを変えて何度も解析を行えます。また、ソフトは東京大学コンクリート研究室の前川宏一教授が開発したソルバーを使っているので、解析結果も信頼できます。実験に力を入れる建築構法学研究室にとって、簡単に扱えるこのソフトはとても重宝しています」(坂下助教)

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▲開口部の位置や数を変えた供試体の例 (資料:建築構法学研究室)

また、実験後にもUC-win/WCOMDは役立っている。例えば壁にせん断破壊が発生したとき、その位置や方向を説明するのに、UC-win/WCOMDによる応力解析結果と比較することで、実験で起こった現象を理論的な解析結果で裏付けながら説明するといった使い方だ。

建築構法学研究室では、この実験結果から、開口部を階ごとに左右反対の位置に設ける「千鳥配置」では強度が劣る事例があることなどを明らかにした。現在は、開口部のある耐震壁の応力や耐力を評価する手法として、梁や柱を「壁付き部材」としてモデル化する方法の研究を進めている。

部分的な降伏や破壊をEngineer’s Studio®で解析

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▲京都大学大学院建築学専攻の校舎の地下で行われた
ピロティ構造のコンクリート構造物の破壊実験

1階部分に耐震壁のないピロティ構造のように、柱と梁で構成される骨組に部分的に壁板が組み込まれた架構形式の場合、耐震壁は設計で想定する構造性能を十分に発揮できない場合があります。現状は、崩壊機構を考慮した合理的な設計手法が整備されていない。そこで建築構法学研究室は3分の1縮尺で4階建てのピロティ構造の供試体を作り、実験した。

「2階部分の耐震壁に対してその下の梁が弱いと、架構の耐力や剛性が低くなると考えられますが、一般的な解析方法だとこのような挙動を予測できません。この壁や梁の挙動を追跡するのに、Engineer's Studio®を使いました」(坂下助教)

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▲ピロティ構造のコンクリート構造物の破壊方法(写真・資料:建築構法学研究室)

Engineer's Studio®は、フォーラムエイトがプレ処理から計算エンジン、ポスト処理までを独自開発した3次元有限要素法(FEM)解析プログラムだ。建物の部位をはり要素や平板要素でモデル化して、構造物の非線形挙動を解析することができる。また、UC-win/WCOMDと同様に、前川教授が理論開発した「前川モデル」もオプションとして用意している。

「Engineer's Studio®の特徴は、柱や梁などの部材の内部を縦、横に細かく分割した『ファイバー要素』の集合体として扱えることです。そのため、部分的に部材が降伏したり、破断したりする挙動を忠実に再現できます。しかし、使い方は簡単で、画面上に絵を描くようにするだけで入力データを作成できます」(坂下助教)

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▲実験で明らかになった破壊パターン。
壁の部分に斜めのせん断破壊が発生している
▲実験結果を説明する坂下助教

ゴールは実験結果を設計手法に生かすこと

建築構法学研究室では、これらの実験結果を解析し、様々な条件での構造物の挙動を解明するための研究を続けている。そのゴールは、研究成果を単純化して、指針などの設計の規基準に反映させることだ。

「われわれの研究は、実際の建物の設計に生かせるようになってこそ、意味があります」と坂下助教は語る。フォーラムエイトの解析ソフトは、実験結果と理論解析をつなぐ役割を担いながら、建築構法学研究室の研究を裏方として支えている。

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▲ファイバー要素を使ったモデル化の方法を説明する坂下助教 ▲Engineer's Studio®による
ピロティ構造の解析結果
(資料:建築構法学研究室)

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