パッケージソフトを活用した設計演習 |
東京都市大学(旧:武蔵工業大学) 総合研究所 教授/吉川弘道
工学部都市工学科 准教授/栗原哲彦 客員研究員/青戸拡起 |
東京都市大学(旧:武蔵工業大学)工学部都市工学科では、鉄筋コンクリート橋脚の耐震設計計算を効率的に短期間で習得させるために、市販のパッケージソフトを活用しています。教育現場での商用パッケージソフトの効果的な活用についてご紹介します。
■授業概要:
本学科では、鉄筋コンクリート工学や設計に関する演習科目として、3年次に「都市基盤施設設計演習」を設けています。これは、90分×2コマの授業を14週実施し、そのうち10週にて鉄筋コンクリート橋脚の耐震設計を演習します。我々3名の教員スタッフに加え、当研究室の4年生ならびに修士1年の学生TA(Teaching
Assistant)を4名つけているのが特徴です。
設計対象は、鉄筋コンクリート製T型単柱式橋脚(図1)で、道路橋示方書に準じた耐震設計計算を行います。その中で、(株)フォーラムエイトの橋脚の設計(1ライセンス)、UC-win/Section(6ライセンス)、モバイルUC-1(各自の携帯電話)を活用しました。使用するツールが、全員に行きわたらないことがポイントです。
■実施課題
下のように、3つの課題を順次与え、各課題についてレポートを提出させました。全体の構造寸法は共通とし、断面寸法、材料強度、鉄筋径を、受講生ごとに異なる組合わせを設計条件として与えました。
課題1:橋脚基部の断面解析
・代表断面(柱基部)の形状寸法と鉄筋径を与える。
・断面配筋図を作成、断面特性(M−φ関係)を計算。
課題2:RC橋脚の耐震設計 −その1:既設橋脚−
・許容応力度法、地震時保有水平耐力法による耐震設計計算
・現在の設計基準を満たさない橋脚
課題3:RC橋脚の耐震設計 −その2:耐震補強−
・その1/既設橋脚に対して、断面/鉄筋の増量。
課題1は、まず、断面を設計します。鉄筋の間隔、かぶり寸法、鉄筋の長さに悩みながら、断面配筋図・加工図を作成します。そして、「UC-win/Section」を利用してM−φ関係の計算を行います(図2)。ソフトウェアは6本しかありませんから、まずは、教員とTAが一組目を教え(写真1)、その学生が次の学生に、そしてその学生がまた次の学生に、と順次教えていきます(写真2)。時間にして90分×2コマあれば、受講生60名全員の作業がほぼ完了します。
本課題1では断面の配筋と断面耐力の算定を行うもので、設計照査(OK or NG)は行いません。また、単鉄筋(圧縮鉄筋と側方鉄筋を無視)による断面の曲げ耐力を手計算によって計算し、ソフトウェアの算定結果と比較しました(これも、実務にて自然に行う作業と思います)。
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▲図1 杭基礎の設計 |
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▲図2 建築杭基礎オプション |
課題2では、この課題1にて決定した断面を使って、許容応力度法および地震時保有水平耐力法による耐震設計計算を行います。許容応力度法において、手計算によるRC断面の応力算定はやや複雑となり、「モバイルUC-1」を活用します。また、地震時保有水平耐力法においては、M−φ関係を手計算で算定することはまず不可能ですから、「UC-win/section」の出番となります。ただし、これ以外のすべての計算過程は手計算で行います(写真3)。
実は、課題2では、地震時保有水平耐力法による照査がOUTとなるような条件を「橋脚の設計計算」であたり、学生には事前に設計条件として与えています。よって、本課題3では、照査結果がOKとなるよう、配筋を変更させ、課題2と同様に許容応力度法〜地震時保有水平耐力法のレポートを再度、完成させます。
■授業を終えての感想
このような授業の運用により、次のような効果がありました。
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・学生60名全員の設計条件を変えていますので、もちろん他人に頼ることはできず、自力で頑張っていました。
・手計算で苦労して解を得ることも大変重要ですが、実務計算に使うツール(商用パッケージソフト)を活用/習熟することにより、限られた
授業時間で多くの演習をこなすことができました。モバイルソフト、パソコンソフトともに、当初は訝しげな学生もすぐに慣れ、嬉々として
画面に向っていました。
・ソフトウェアの入力方法を他学生に教える際に、横拘束筋、せん断補強筋、曲率など、初めて知る専門用語を自然と使うようになり、その
定義と工学的な意味合いも確実に身についていきます(少なくともそのように見えました)。呑み込み早い学生が、遅れている学生に説明
している様は、一端のエンジニアのようでもあり、頼もしくもありました。
・断面特性や応力計算など、手計算では極めて困難な計算にパッケージソフトウェアを活用することにより、次のステップに進むことができ、
設計計算の流れを早いうちに理解させることができました。
・さらに、他人に教える要素を盛り込むことで、耐震設計計算の流れを、限られた時間だけで効果的に理解させることができました。学生が
授業時間外に行うのは、計算書のまとめとワープロ作業程度です。
・わざと、照査結果がOUTになる設計条件を与え、設計変更あるいは補強計算を行うことで、耐震設計計算の核心を理解させることができた
と思います。特に横拘束筋の重要性(効き具合)は、この時に気付くことになります。(逆に、講義にて何回説明しても結局は身に付かず、
演習の試行錯誤を通して理解することできると確信しました)。 |
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(Up&Coming '09 新緑の号掲載) |
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