■改正障害者雇用納付金制度
〜申告期限は、平成28年4月1日から5月16日まで〜
平成27年4月から改正障害者雇用納付金制度が始まり、今年の4月から申告・納付が開始となります。どんな制度で、何をしなくてはならないのか? を解説します。
そもそも、障害者雇用納付金制度とは何でしょう?
簡単に言うと「決められた人数の障害者を雇用しているか確認をして、少なければ罰金(納付金)を払い、多ければご褒美(調整金・報奨金)が貰える」というものです。
「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)において「障害者雇用率制度」が設けられており、法定雇用率以上の障害者を雇用することが義務となっています。障害者を雇用するにあたっては、バリアフリー化したり、個別の雇用管理が必要となったりと…、会社に様々な経済的負担が伴い、障害者雇用義務を履行している会社としていない会社では経済的負担に差が生じてきます。障害者を多く雇用している会社の経済的負担を軽減し、会社間の負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めることを目的として設けられたのが「障害者雇用納付金制度」です。
まずは自社の法定雇用障害者数を確認してみましょう。
法定雇用障害者数(雇用義務数)は、
常時雇用している労働者数 × 2.0%(現在の法定雇用率)
※ 1未満の端数は切り捨てで求めます。
常時雇用している労働者数は、
一般の労働者数 +(短時間労働者数×0.5)の合計となります。
※短時間労働者(週所定労働時間が20時間以上30時間未満)については、1人を0.5人としてカウントします。
法定雇用率以上の障害者雇用をしている場合は、「調整金」または「報奨金」支給の対象となります。
調整金 |
報奨金 |
常時雇用している労働者数が100人を超え、
法定雇用率以上の障害者雇用をしている |
常時雇用している労働者数が100人以下で
法定雇用率以上の障害者雇用をしている |
1人当たり 月額27,000円 |
1人当たり 月額21,000円 |
どちらも支給申請が必要となり、申請時期は納付金の申告・納付時期と同じです。(支給時期は同年10月となります。)
法定雇用率の対象となる障害者は「身体障害者」「知的障害者」「精神障害者」となります。(精神障害者は雇用義務対象ではありませんが、実雇用率の算定には含めることが出来ます。)障害者であるか否かについては身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の有無で判断されます。
雇用障害者数のカウントの方法は次の通りです。
週所定労働時間 |
30時間以上 |
20時間以上30時間未満
(短時間労働者) |
身体・知的障害者 |
1人 |
0.5人 |
身体・知的障害者(重度) |
2人 |
1人 |
精神障害者 |
1人 |
0.5人 |
※障害者雇用義務を履行しない事業主は、企業名が公表されます。
※重度身体障害者とは、身体障害者等級の1級か2級者。又は3級の障害を2つ以上重複して有する人をいいます。
※重度知的障害者とは、知的障害者判定機関により、重度知的障害者であると判定された人をいいます。
また、4月からは「障害者差別解消法」が施行されます。会社の対応としては、
- 不当な差別的取り扱い禁止
- 障害者に対し、合理的配慮を行うようにする(努力義務)
がポイントとなります。
この法律に違反した場合、すぐに罰則を課すことはないようですが、繰り返し障害者に対して権利利益の侵害にあたるような差別が行われた場合は、報告が求められ、虚偽報告や報告を怠った場合には罰則の対象(20万円以下の過料)となります。
■採用面接におけるトラブル防止策
〜採用面接時の情報収集〜
就職活動は、求職者にとって大きな人生の転機です。一方、雇入れる会社にとっても「良い人材」「間違いない人材」を確保することは、重要なミッションです。「超」売り手市場となってきた昨今、『人手が足りないから…』という理由で採用を急いだ結果、思わぬトラブルとなるケースが多くなっています。ここでは採用面接におけるトラブル防止策の一環として、採用面接時の情報収集について具体的に説明します。
採用面接時の情報収集 健康や体調についてどこまで質問してよいか?
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採用面接時に「健康や体調についてどこまで質問してよいのか?」というお問合せをいただくことがあります。履歴書には「健康状況 良好」とあるのに、実はメンタルヘルス不全を抱えていて、1ヵ月もしないうちにまったく出勤してこない状況になってしまったという相談が、近年増えてきました。せっかく期待して採用した社員がすぐに「労務提供不能」=欠勤を繰り返すなどの状況になってしまうと、会社にとって大きな痛手です。
現在、労働法では「採用時の健康診断」について明確な禁止条文はありません。ただし、これは慎重に行う必要があります。
これまでに争われた判例があります。
新卒者の採用選考時に、健康診断を実施。本人の許可なくB型肝炎検査も行ったところ陽性が判明、内定取り消しとした。その後「無断の血液検査でB型肝炎を理由に内定を取り消された」として1,500万円の損害賠償を求め訴訟となった。東京地裁の判決は、「同意を得ない検査はプライバシー権を侵害し、違法」とし、会社側に健康診断についての損害賠償(150万円)を認めた。検査結果と不採用との因果関係については、「当時、内定が確実な段階ではなかった」などから、「感染だけを理由に不採用になったとは言えない」と、これを否定した。≪国民金融公庫事件(東京地裁 平成15.6.20判決)≫
ポイントは、
- 本人の同意なく健康診断を実施したところに問題があった
- 検査結果がただちに内定取り消し(不採用)になったことについては、否定されている
つまり、上記の見解と同じく、本人に健康診断についての同意が取れていれば実施は可能かと考えられます。
「採用調査」「人事調査」「雇用調査」、言葉は違いますが、『採用時に求職者の身辺調査を行いたいが、法律上問題はないのでしょうか?』というご質問をいただくことがあります。
本人の能力とは直接関係のないものについての調査は行わない方が良いでしょう。ただ、例えば、前職の退職理由を知りたい(確認したい)場合について等は、本人に面接で確認をする→内定や最終面接前に「退職証明書」または「離職票」を提出してもらうといった方法があります。提出を拒む場合には、求める書類提出がないという理由で、次のステップ(最終面接等)に進めないことを伝えても問題はありません。
採用・面接にあたって、アンケートなどを活用してみましょう。当社を知ったきっかけは何ですか? 当社を選んだ(応募した)のは、どんな理由ですか? 前職を辞めた理由? などと合せて、現在の健康状態(持病や不安等があるか?)について回答してもらいましょう。記入については「回答したくない場合には記入しなくても結構です」としておき、また、採用面接の際には、虚偽の申告があった場合には、内定や採用を取り消すことがあることについての同意を得ておきましょう。
これでもし、「健康状況 良好」と回答があったのに実はメンタルヘルス不全であった場合は虚偽申告となりますし、回答がない(空欄)の場合は良好ではないと推測が出来ます。
労働者には職業選択の自由がありますが、会社にも採用の自由はありますので、見極めるためにも、選考時の情報収集は労働者に配慮しつつも確認出来るところはしっかり確認していきましょう。
監修:社会保険労務士 小泉事務所
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