●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。建設業界で3次元CADを利用して設計や施工を行う建築のBIM(Building Information
Modeling)や土木のCIM(Construction Engineering Modeling)が普及するとともに、「3Dプリンター」の活用も進んで来ました。
3Dプリンターとは、3次元CADなどで作った建物や土木構造物の3Dモデルデータから、石こうやプラスチック、透明材料などを固めて、実際の模型を作ってくれる不思議な装置です。様々な3Dプリンターが市販されており、安いものだと10万円くらいから、高いものでは数千万円にも及ぶ機種まであります。
その造形方法はどれも似ています。建物や土木構造物の模型を下から0.1mm位の厚さにスライスしていき、その断面に沿って材料を厚さ0.1mm位に「プリント」していきます。この作業を延々と繰り返すと縦方向に積み上がっていき、最終的に立体的な模型になります。 |
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石こうの粉末を固めて造形するタイプの3D
プリンター「Zpriner650」。フォーラムエイト
東京本社のショールームにて |
複雑な曲面からなる建物や、細かい部材が立体的に組み合わさった構造物、多数の建物や土木構造物からなる都市など、人間では作るのが難しい模型でも、3Dプリンターなら数時間で作ってくれます。中には造形すると同時に、模型の各部分にインクジェットプリンターと同じ方法で色を付けてくれる3Dプリンターもあります。
BIMやCIMが普及し、設計時の建物や構造物を3Dモデルで確認できるようになった現在でも、模型はいまだに重要な役目を果たしています。
確かにCG(コンピューターグラフィックス)を使うと、設計時に完成後の建物をリアルに見ることができますが、複数の人が同時に同じ画面を見ることになります。一方、模型は同じものを複数の人が様々な角度から見られるので、設計や施工上の問題点などを発見しやすくなります。
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3Dプリンターで作った街並みの模型。
楕円形の建物がフォーラムエイト東京本社がある
品川インターシティA棟 |
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3Dプリンターで作った振動実験の供試体の模型。
3Dモデルに色やテクスチャーを着けておけば、
造形時に着色されて完成する |
●体験セミナーの内容
3次元CADで作った建物や土木構造物の3Dモデルから、3Dプリンターで模型を作るまでの一連の流れを学ぶ「3Dプリンティング&VRセミナー」が9月16日、フォーラムエイト東京本社のセミナールームで開かれました。このセミナーには一般社団法人
最先端表現技術利用推進協会(表技協)が後援し、前半の講師は同会会長でアンビエントメディア代表の町田聡さんが務めました。
表技協とは立体視やプロジェクションマッピングのほかCG、VR(バーチャルリアリティー)、AR(拡張現実感)など、誰かに伝えるための道具として様々な表現技術を駆使する人が集まる団体です。そのメンバーは建築や土木、防災だけでなく、医学や芸術、宣伝広告、地域活性化まで幅広い分野から集まっています。 |
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3Dプリンター体験セミナーで講演する最先端
表現技術利用推進協会会長の町田聡氏 |
活動の中では3Dプリンターの活用も重要な役割を担っています。例えば同会が東京・目黒の円融寺で大みそかに行っているプロジェクションマッピングでは、作品の評価を行うため3Dプリンターによって作った円融寺の模型でテストをしました。その模型を立体スクリーンとして使い、プロジェクションマッピング作品を投影することによって、実際の見え方を検証したのです。
この模型には、階段や手すり、ひさしなどが実物同様に作られているほか、木造の壁や床などの材質感も再現されています。映像を投影したときにどう見えるかを実物同様に確認することができました。
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円融寺で大みそかに行われているプロジェクション
マッピング作品の上映会 (資料:町田聡氏) |
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プロジェクションマッピング作品を検証するために
3Dプリンターで作られた円融寺の模型 |
続いて町田氏は、3Dプリンターを活用する流れを次の4段階に分けて説明しました。(1)作るものを決める、(2)3Dモデルデータの準備、(3)3Dプリンターで出力、(4)仕上げです。
3Dプリンターで建物や土木構造物の模型を丸ごと作ることができます。しかし(1)の解説では、直線や平面でできている部分は従来の板材や棒材で作り、複雑な形状の部分だけをパーツとして3Dプリンターで作り、組み合わせるという方法があることも町田氏は紹介しました。
続いて(2)では、3次元CADやデザインソフトで3Dモデルをゼロから作成する方法のほか、ウェブサイトなどで公開されている3Dモデルをダウンロードして使ったり、一部を改造・合成して使ったりする方法があります。また、3Dレーザースキャナーや写真測量によって実物の建物や構造物を計測し、そこから3Dモデルを作ることができます。
3)では、3Dプリンターには様々な材料が扱える機種があることを説明しました。紙や樹脂シートを模型の断面に沿って切り抜きながら張り付けていく「シート積層法」や樹脂、ワックスを熱で溶かして造形する「熱融解積層法」があります。さらに液体の光硬化性樹脂に光線を当てて固めていく「光硬化法」や、石こう粉末を薄くしきならして接着剤で固めていく「接着剤噴射法」、樹脂や金属の粉末を焼き固めていく「粉末焼結法」などがあることを説明しました。
最後の(4)仕上げでは、中空部分を支える仮の「サポート材」を取り除き、表面を滑らかに磨いたり、着色したりする工程を説明しました。
●3Dモデルから造形までの流れ
セミナー後半の講師を務めたフォーラムエイト VRサポートグループの清水駿太氏です。
フォーラムエイトではバーチャルリアリティーシステム「UC-win/Road」や3次元動的解析システム「Engineer's Studio®」、土木設計システム「UC-1シリーズ」、そしてBIMソフト「Allplan」などを開発・販売しています。
この日のセミナーは、フォーラムエイトのソフトを操作しながら土木構造物の3D形状や属性情報をソフト間で連携させ、CIMによる設計ワークフローを体験これらのソフトで作った3Dモデルを3Dプリンターで模型を作成する「3D模型サービス」を行っています。使用している3Dプリンターは、3D
Systems社製の「Zpriner650」という機種です。石こうの粉末を薄い層に式ならしながら、着色された接着剤で固めていく「接着剤噴射法」の3Dプリンターです。造形範囲は254×381×203mmですが、模型を分割するとさらに大きな模型も作れます。
UC-win/Roadで作った都市の3Dモデルから模型を作る場合、まずUC-win/Roadのモデルをプラグインソフトで「3DS形式」に書き出します。そのデータをモデリングソフトに読み込み、不要な部分を削除したり、各部材の厚さが模型で造形する場合に薄くなりすぎないように調整したりします。
細かい枝や葉っぱが付いた樹木も造形に適さないので単純化します。また、建物などテクスチャーも写真のままだとぼやけてしまうので、メリハリの付いたイラスト風のテクスチャーに修正します。
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▲実際の都市 |
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▲3Dプリンターで実際に造形した模型 |
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▲元の樹木モデル |
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▲単純化した樹木モデル |
●3Dプリンターで実際に造形
この日、セミナーと並行して、フォーラムエイト東京本社のショールームにある3Dプリンターでは、街並み模型の造形が行われていました。そして講義終了後には、既に造形が完了していました。清水氏は、造形後の模型を取り出す作業をセミナー参加者の前で実演しました。
造形終了後の3Dプリンター内部には模型らしきものは見えません。しかし、固まっていない部分の粉を取り除いていくと、次第に模型が姿を現しました。3Dプリンターの脇に設置されている粉落とし装置でエアブラシによって「デパウダー作業」を行うと、都市模型が姿を現しました。
この日、セミナー参加者は3Dモデルを元に、3Dプリンターで模型を作成する一連の過程について、実作業を交えて学びました。 |
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▲3Dプリンターを囲むセミナー参加者 |
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▲固まっていない部分の粉末を慎重に
取り除いていく |
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▲掘り出された街並みの模型 |
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▲エアブラシを使って固まっていない部分の
石こうを取り除く |
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▲姿を現した都市模型。この後、表面にワックスを
含侵させて固める |
フォーラムエイトのショールームでは、このほか、3Dプリンターで作成した模型を使った様々なシステムも見学しました。例えば、大阪大学大学院・福田知弘准教授のアイデアと技術協力により開発された「UC-win/Road模型VRシステム」です。都市模型と流体解析結果、そして実際に風を起こすファンが連動し、3Dプリンターで作った都市模型のある部分にレーザーポインターを照射すると、その個所での風の流れをCG画面で見ながら、ファンで風速も実体験できるものです。
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▲都市模型(手前)と流体解析結果を表示するモニター
(中央)、 風速を再現するファン(上)が連動する
「UC-win/Road模型VRシステム」 |
●イエイリコメントと提案
3Dプリンターは、3Dモデルから模型を作れる画期的な機械ですが、いざ使ってみると、一般のレーザープリンターやインクジェットプリンターとは比べものにならないほど、熟練を要することがわかります。
例えば、3Dモデルに1カ所でも小さな穴が開いていたり、面が裏返ったりしているとエラーになります。また、建物の窓や壁をそのままスケールダウンすると、2mm以下の厚さになることもあり、3Dプリンターで造形できる厚さより薄くなってしまうことがあります。こんなときは、部分的に厚みを増やしてやることも必要です。
造形後に中空部分を支える「サポート材」や固まっていない石こうを取り除く作業には、熟練を要し、まさに職人技と言っても過言ではありません。このように3Dプリンターはまだまだ、使いこなすのにスキルが必要な機械なのです。フォーラムエイトが提供している「3D模型サービス」は、こうした問題を解決してくれるものです。分割した模型など、難しいものも作ってくれます。3Dプリンターで造形する部分は、外注するという方法も、有力な選択肢になるでしょう。
3Dプリンターは大型化が急速に進みつつあり、コンクリートを材料として造形する「3Dコンクリートプリンター」も建設機械として実用化されつつあります。型枠なしで自由な形のコンクリート部材を作れるようになると、建設コストや工期も大幅に圧縮されるでしょう。今後は実際の工事でも3Dコンクリートプリンターをどう活用するかに、注目が集まってくるに違いありません。
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