不正競争防止法は、不正競争を防止し、不正競争に係る罰則や損害賠償を定めた法律です。この法律では、複数の行為が不正競争として定義され(法2条)、規制対象となっています。不正競争に該当する行為と認定されると、差止めや損害賠償の他に、懲役・罰金等の制裁を科されることとなります(なお、不正競争の種類によって、制裁の種類も異なります)。
■不正競争行為の概要
不正競争防止法は様々な行為を不正競争として定義していますが、以下、国内の事業者間で不正競争防止法の規制対象となりうる行為の概要を、実際の裁判例とともにご紹介致します。
■1.周知な商品等表示の使用等 (法2条1項1号〜3号)
他人の商品・営業の表示等で需用者の間に広く認識されているものや著名なものを使用する行為等に対する規制です。
例えば、ペットボトル飲料「黒烏龍茶(クロウーロンチャ)」を製造するメーカーの請求により、煮出し用のティーバック商品である「黒烏龍茶(ブラックウーロンチャ)」や「黒濃烏龍茶(コクノウウーロンチャ)」を製造販売した事業者の損害賠償債務が認められた事案があります(東京地判平成20年12月26日)。
■2.営業秘密の侵害 (法2条1項4号〜9号)
窃取等の不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、若しくは第三者に開示する行為等に対する規制です。
例えば、顧客名簿を無断でコピーし、その名簿をもとに独立開業後顧客の獲得を行った元従業員に対し、名簿のコピーの廃棄及び損害賠償を命じた事案があります(大阪地判平成8年4月16日)。
■3.技術的制限手段を解除する装置等の提供
(法2条1項10号〜11号)
視聴や記録、複製が制限されているコンテンツの視聴や記録、複製を可能にする(回避する)一定の装置又はプログラムを譲渡等する行為に対する規制です。
例えば、インターネットからダウンロードした違法コピーソフトを携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」で起動させることができる「マジコン」と呼ばれる機器を輸入・販売していた事業者に対して、当該機器の輸入・販売の差止めと廃棄が命じられた事案があります(東京地判平成21年2月27日)。
■4.ドメインネームの不正取得等 (法2条1項12号)
図利加害目的で、他人の商品・役務の表示(特定商品等表示)と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有またはそのドメイン名を使用する行為に対する規制です。
例えば、株式会社電通の「dentsu」を含むドメイン名を取得・保有した業者に対するドメイン名の使用等の差止め等の請求が認められた事案があります(東京地判平成19年3月13日)。
■5.商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
(法2条1項13号)
商品、役務やその広告等に、その原産地、品質、内容等について誤認させるような表示をする行為に対する規制です。
例えば、食肉加工事業者が鶏や豚などを混ぜて製造したミンチ肉に「牛100%」などと表示して販売し3,900万円を詐取した事案について、元社長に対し懲役4年の実刑が科せられた事件があります(札幌地判平成20年3月19日)。
■6.信用毀損行為 (法2条1項14号)
競争関係にある他人の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為に対する規制です。
例えば、ガムの歯に対する再石灰化効果が競業他社のガムよりも高いなどの比較広告を行った事業者に対し、広告の差し止めが命じられた事案があります(平成18年10月18日知財高判)。
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民事的措置 |
刑事的措置 |
差止請求
(3条) |
差止請求
(3条) |
損害額の推定規定(5条) |
相当な損害額
の認定
(9条) |
罰則
(21条) |
法人重課
(22条) |
被侵害者の
商品単位の
利益額
×
侵害品譲渡数量
(1項) |
侵害者が
得た利益額
(2項) |
使用許諾料に
相当する額
(3項) |
周知な商品等表示の
使用等
(法2条1項1号〜3号) |
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営業秘密の侵害
(法2条1項4号〜9号) |
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△
技術情報のみ |
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△
一部 |
技術的制限手段を
解除する装置等の提供
(法2条1項10号〜11号) |
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ドメインネームの
不正取得等
(法2条1項12号) |
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商品・サービスの原産地、
品質等の誤認惹起表示
(法2条1項13号) |
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信用毀損行為
(法2条1項14号) |
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▲不正競争防止法の禁止行為と救済措置
監修:中本総合法律事務所