●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。コストパフォーマンスの高い鋼橋を設計するときは、様々な荷重に対する鋼橋各部分の応力度が設計基準をクリアするようにさせつつ、使用する材料の厚さを薄くすることが求められます。材料の厚さを減らせば、当然応力度は上がるので、材料厚と応力度という相反する条件を両方とも満足させるぎりぎりの線を模索しなければいけません。
例えば、I形断面の橋桁の場合、設計者は支間長や「ウエブ(腹板)」と呼ばれる縦部材の高さと厚さを決め、I桁のフランジ幅とフランジ厚を仮定します。そして様々な荷重に対して応力計算を行い、応力度に余裕があればフランジ幅や厚さを減らし、応力度がアウトであれば増やすという作業を繰り返しながら、最適なフランジ幅と厚さを求めていきます。
この作業は多く行うほど、コストパフォーマンスの高い設計ができますが、設計時間も限られているため無限に繰り返すことはできません。ある程度の線で妥協することになります。 鋼橋の使用中に通常、想定される荷重を超えた大地震による荷重などを受けた場合には、橋に多少の変形が残ったとしても使い続けたり、最悪の場合でも落橋による被害を防いだりするために「限界状態設計法」による検討が求められます。これには座屈応力度やせん断降伏応力度など、弾性設計とは別の観点での設計照査が行われます。
●製品の特長
フォーラムエイトのUC-1シリーズには、こうした鋼橋の設計を合理的に行える「鋼鈑桁橋自動設計ツール」と、「鋼断面の計算(限界状態設計法)」があります。 「鋼鈑桁橋自動設計ツール」は、コストパフォーマンスの高い鋼橋設計を文字通り、自動的に行ってくれるソフトウェアです。その機能は大きく3つあり、(1)非合成I桁断面の自動設計、(2)合成I桁断面の自動設計のほか、(3)I桁連結板自動設計も含まれています。
適用基準は非合成I桁が「道路橋示方書・同解説U鋼橋編」(平成24年3月 社団法人日本道路協会)、合成I桁が「道路橋示方書・同解説U鋼橋編」(平成24年3月 社団法人日本道路協会)と「連続合成2主桁橋の設計例と解説」(平成17年8月 社団法人 日本橋梁建設協会)、そしてI桁連結板は「ガイドライン型設計 適用上の考え方と標準図集(改訂版)」(平成15年3月 社団法人 日本橋梁建設協会)です。
ガイドライン型設計とは、鋼橋のコストダウンを行うため構造の合理化を推進する目的で平成7年10月に当時の建設省(現・国土交通省)が定めた「鋼道路橋設計ガイドライン(案)」に基づく設計を意味します。
▲ガイドライン型設計のイメージ
例えば、「一部材内では同一断面として断面変化は現場継ぎ手部で行うこと」「上下のフランジ幅や腹板厚は桁全長にわたり同一幅にすること」「板厚差のあるフランジの高力ボルト継ぎ手は原則としてフィラープレートを使うこと」など、鋼橋の構造をシンプルにする原則が決められています。
(1)非合成I桁断面の自動設計は、ウエブとフランジを溶接して一体化した桁が対象です。腹板高と腹板厚は設計条件として入力し、フランジ幅とフランジ厚を自動設計します。
▲非合成I桁のループ計算イメージ
その計算手順は、初期計算でフランジの幅や板厚を仮定して応力度照査を行い、“NG”となった場合には幅と板厚を修正して再度、応力度照査を行う、というループ計算を繰り返します。そして応力度照査がOKとなったときのフランジ幅とフランジ厚を出力します。
これまでは人間が手作業で行っていたフランジ幅と厚さの変更と応力照査の繰り返しを、プログラム内でループさせて行うので、設計応力度ぎりぎりの極限設計を追求することが可能です。このとき、圧縮側のフランジの許容応力度を算定では、座屈も考慮します。
フランジ厚を変えるときに配慮しなければならないのは、フランジの「外逃げ」と「内逃げ」です。「外逃げ」は腹板の高さを一定に保ち、フランジの板厚がその外側に足したものが桁全体の高さになります。一方、「内逃げ」は桁全体の高さを一定に保つように、フランジの板厚が増えると腹板の高さを差し引くように寸法を調整します。
▲フランジの外逃げ(左)と内逃げ(右)
(2)合成I桁断面の自動設計は、ウエブとフランジを溶接して一体化した桁が対象です。腹板高と腹板厚を固定し、フランジ幅とフランジ厚を自動設計するのは(1)非合成I桁断面と同じです。
▲非合成I桁のループ計算イメージ
一方、非合成I桁との違いは、I桁と合成されるコンクリート床版の配筋も入力することです。そして、フランジの幅と厚さを自動決定する際に、I桁とコンクリート床版の合成前、合成後の2段階でループ計算を行い、それぞれの最適値を計算するところが違います。
また(3)I桁連結板自動設計ではI桁同士を接続する部分の腹板と圧縮・引っ張りフランジの連結板の大きさと厚さ、高力ボルトの本数や配置を自動的に設計します。
腹板のボルト配置はまず、堀との初期配置間隔や縁端距離を入力した後、応力度を満足する最適な配置パターンを生成します。このときもガイドライン型設計のメリットを生かし、I桁に働く曲げモーメントをフランジと腹板が分担させる方式で計算します。腹板の必要ボルト数が減るので、従来型は腹板の連結板をフランジ近くと中央部で分割する必要がありましたが、1枚の連結板ですみます。
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▲従来型設計では主桁の曲げモーメントを複板ですべて支える
考え方だったため腹板端部のボルト数が増え、連結板を分割する必要があった |
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▲ガイドライン型設計は腹板端から第1列のボルトまでに作用する
曲げモーメントをフランジが分担するので連結板は1枚で大丈夫 |
また、フランジの連結板は、ボルト穴の数を増やすと断面積が減り、応力に対する耐力も減ります。そこでフランジ先端部はボルト穴の数を減らして耐力を増加させるように考慮した設計を行います。
▲自動設計されたフランジの連結板。
フランジ先端部はボルト穴の数を減らして耐力を増やすようにしている
こうして設計された結果、得られたフランジや連結板のデータはコピーして他の計算処理に使えるほか、断面図や荷重などの入力データや応力度などの計算結果を1ページにまとめた「総括表」として出力したり、計算過程を追える程度に簡略化した概略計算書として出力したりすることもできます。
▲計算過程を追うことができる概略計算書
セミナーで取り上げられたもう1つの製品「鋼断面の計算(限界状態設計法)」は、鋼製連続合成桁橋(I形)や単純合成桁(箱形)を対象として、限界状態設計法による計算設計を支援するプログラムです。
想定外の地震荷重などが橋桁に作用しても崩壊などの致命的な被害を防ぐようにする「終局限界状態」と、橋桁に変形が残るほどの大きな荷重が作用したときにも使用できるようにする「使用限界状態」という、2つの視点で設計を照査します。
入力データとしては、橋桁断面各部の長さや厚さなどの寸法や設計曲げモーメント、抵抗曲げモーメントなどを使います。
▲鋼製連続合成桁橋(I形)(左)および単純合成桁(箱形)(右)の断面諸元
準拠する基準は、「設計要領第二集(橋梁建設編)」(平成23年7月 中日本高速道路)、「道路橋示方書・同解説 U 鋼橋編」(平成24年3月 ※一部参照)、「鋼・合成構造標準示方書 総則編・構造計画編・設計編」(平成19年3月)です。
終局限界状態では、橋桁全体が全塑性モーメントに到達する「コンパクト断面」か、局部座屈により全塑性に至らない「ノンコンパクト断面」かを判定します。そして土木学会標準示方書の「4条相関則」による曲げとせん断による組み合わせの照査や、「バスラー(Basler)の式」による腹板のせん断に対する照査などを行います。また、使用限界状態では、永久変形に対する安全率や腹板の弾性座屈、床版コンクリートのひび割れ幅の照査を行います。
計算結果は画面に表示されるほか、断面力一覧や照査結果一覧、計算過程を電卓で追える計算書として印刷することも可能です。
▲計算過程を追うことができる概略計算書
●体験セミナーの内容
2月24日の午後1時30分から、品川のフォーラムエイト東京本社で体験セミナーが行われました。講師を務めたのは、フォーラムエイトUC-1開発第1グループの辰己恵三さんです。
前半は「鋼鈑桁橋自動設計ツール」、後半は「限界状態設計法」について製品概要の解説と操作実習を行い、最後に今後の展望と質疑応答が行われました。前半の「鋼鈑桁橋自動設計ツール」の実習では、プログラムの機能に従って非合成I桁断面や合成I桁断面、I桁連結板の自動設計を行いました。
▲非合成I桁の入力画面 |
▲連結板実習の結果 |
▲限界状態設計法の照査結果画面 |
●イエイリコメントと提案
コストパフォーマンスの高い橋梁を設計するためには、各部の幅や厚さを極限まで薄くする一方で、各荷重に対する応力照査をすべてクリアする必要があります。これまでのように断面を仮定して入力し、応力の計算を行い、その結果をまた入力データにフィードバックする、という方法では効率的でないばかりか、途中でデータの入力ミスなど、ヒューマンエラーが発生する可能性も大きくなります。
その点、「鋼鈑桁橋自動設計ツール」は応力照査結果をフィードバックして再計算するループ部分が全自動化されているので、効率的でヒューマンエラーも起こりません。そして短時間でコストパフォーマンスの高い橋梁が設計できるのが大きなメリットです。一方、こうした極限設計では、設計のリダンダンシー(冗長性)が少なくなり、想定外の荷重がかかったときには壊れやすいという弱点も抱えがちです。
今回のセミナーでは、自動設計と組み合わせて限界状態設計法のツールの講習も行われましたが、まさにこの弱点を理論的に照査することで、地震などの災害時に“打たれ強い”橋梁を実現する設計手順を示したものといえるでしょう。
●製品の今後の展望
土木業界ではCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)という3Dによる設計手法が急速に普及しています。建築物と違って、土木構造物は構造計算結果によって大きく形や寸法が変わり、線形もクロソイド曲線など複雑なので、まず図面を書いてから3Dモデルを作る方が効率的と言われてきました。
こうした状況を克服して、最初から3Dモデルを作っていくためには、構造解析ソフトの結果をCIM対応の3次元CADに直接、インポートできるようにすることが必要です。
フォーラムエイトの製品群にはCIM関連の様々なソフトがあり、相互のデータ連係も進んでいます。「鋼鈑桁橋自動設計ツール」には、計算結果の形状データのコピー機能が備えられていますが、これを他の設計ソフトとともに3次元CADに引き継げるようにすると、図面を描かなくても土木構造物の3Dモデルが簡単に作れるようになるのでは、と期待しています。
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