(Up&Coming 2010年9月号) |
「Engineer's Studio(R)」解析結果がE-ディフェンス、実大橋梁耐震実験の破壊解析コンテストで優勝!平成22年度橋梁耐震実験研究成果発表会レポート
2010年7月8日、実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)を用いた橋梁耐震実験研究発表会がWTCコンファレンスセンター(東京都港区浜松町)で開催されました。主催は、独立行政法人防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター。E-ディフェンスとは、20m×15mの震動台の上に実物大の構造物を載せて水平二方向・鉛直方向に同時加振することができる大規模実験施設(兵庫県)です。最大1200トンまで載せることができ、兵庫県南部地震クラスの地震を再現できることから、世界最大と言われています。
研究成果発表会のタイトルは、「〜E-ディフェンスを用いた大型実験から何がわかったか〜」。橋梁耐震研究分野の第一線で活躍されている講演者の研究発表を、定員120名の部屋に入りきれない程の人が聞き入りました。
●発表内容の一部
運上茂樹氏(国土技術政策総合研究所地震災害研究官):
発表の中で2010年2月に発生したチリ地震の被害状況の特徴のお話。上部構造が移動して落橋に至る事例が多かった。原因は上下部構造に固定しないゴムパッド支承。日本では支承は力を伝達する構造部材という設計思想を選択している。
高橋良和氏(京都大学防災研究所准教授):E-ディフェンス震動台に縮小RC橋脚模型16体を設置、一斉に同時加振して動的応答特性の不確定性を検証。最大応答変位ではばらつきが少ないが残留変位でばらつく試験体があった。
川島一彦氏(東京工業大学工学部教授):
主鉄筋の段落とし、定着長に関する規定の歴史、コンクリートの許容せん断応力度τa1の変遷(7→4.5→3.9
(kgf/cm2))のお話。また、インターロッキング式橋脚と矩形断面橋脚の耐震性比較。鉄筋本数が少なく施工が容易な矩形断面の耐震性は十分にあることを示唆。
●ブラインド解析コンテスト
昼休みの後、結果発表と表彰が行われました。ブラインド解析コンテストは、実験に先だって、構造寸法・材料強度・入力地震動データだけを用いて数値解析を行い、その後実施される実験結果を予測するものです。今回はC1-6実験を対象として、3つの部門が設定されました。1つ目は「免震モデル解析部門」で日本から3グループが参加。2つ目は「破壊モデル解析部門」で、日本・アメリカ合衆国・中国・ペルーから計8グループが参加。3つ目は「総合評価部門」で両部門を総合的に評価します。
コンテスト結果は、「免震モデル解析部門」と「総合評価部門」が両方とも該当なし。「破壊モデル解析部門」は弊社フォーラムエイトと東京都市大学吉川弘道教授らで構成した合同チームのグループDが最優秀者でした。今回解析に用いたソフトはEngineer's Studio(R)です。実は前回(2009年3月)でもUC-win/FRAME(3D)を使用して「ファイバー部門」で優勝しています。
審査員の方の発表「破壊モデル解析部門」では、4つのグループ(A、B、C、D)の解析結果がどの程度実験結果を予測しているかが示されました。時刻歴応答変位、橋脚天端のオービット(軌道)、水平方向の加速度−変位関係のいずれもグループDが突出して実験結果と一致していました。審査員の方の感想は「新しい材料(高じん性モルタル)にもかかわらず、基本的な材料特性だけを入力して、ここまで実験と一致することに驚いた」とのこと。表彰式の後、最優秀者の発表が行われました。当日の発表内容を以下に掲載します。
●解析対象
まず、今回のコンテストの対象実験について簡単に説明します。対象は、柱基部に高じん性モルタル(HPFRCC:High
Performance Fiber Reinforced Cementitious Composite)を用いた、次世代型高耐震RC橋脚で"C1-6試験体"と呼ばれるものです。実験は橋脚単体ではなく、上部構造を模した部材やウェイト、およびこれらを支持する端部橋脚という構成で行われましたので、解析モデルもこれらをすべて含んでいます。(図1)
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▲図1 試験体の写真と解析モデル |
●解析モデル
解析は、当社Engineer's Studio(R)のファイバー要素を用いて行っています。モデルは節点数約600、ファイバー要素数7の規模です。
ファイバー要素のヒステリシスのうち、HPFRCCのものはなかったので、圧縮側は「Hoshikuma」、引張側は「バイリニア型」のものを開発し、簡易的にひずみ硬化型の引張応力とひずみの挙動を再現しました。(図2)
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▲図2 HPFRCCのヒステリシス |
今回の実験は、最初に支承を免震構造として数回加振し、次に固定支承へ変更して数回加振します。さらにその後、ウェイトを増し入力加速度のレベルを上げ加振するということでした。Engineer's
Studio(R)では、解析の途中で免震から固定支承へ変更することはできず、また、ウェイトを途中で増すこともできません。しかし、後の耐震実験を考えると、免震支承の実験では橋脚に損傷が生じるような加振はしないだろうと考え、免震構造の結果は無視して、耐震解析を行うこととしました。荷重レベルの増加という問題に対しては、事前に同様のモデルを作成し、複数回解析を行ない検討しました。その結果、最後の最も大きな荷重レベルに着目した場合、途中の結果は大きく影響しないことが分かりました。(図3)
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▲図3 初期損傷の評価方法 |
●解析結果
まず、本加振100%、2回目の橋脚天端での変位履歴です。本加振とは重量100%の状態を指しています。橋軸直角方向の最大値と、橋軸方向の最小値を記録した時間で解析と実験結果の違いがありますが、周期や振幅はよくあっています。橋軸方向の最大変位は約90mmで、柱基部から梁天端までの高さ7.5mの1.2%程度です。道路橋示方書で規定される許容残留変位は1%ですので、それとほぼ同等のレベルです。(図4)
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▲図4 本加振-100%-2回目の変位履歴 |
次に付加マス後、125%、2回目の橋脚天端での変位履歴結果です。上記実験から、重量を増し、さらに加速度も1.25倍になっています。この解析では、周期・振幅ともに非常によくあっていることが分かります。橋軸直角方向の最小値を記録したのは解析・実験ともに4.395秒と5/1000秒の精度で一致しています。(図5)
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▲図5 付加マス後-125%-2回目の変位履歴 |
橋脚を真上から見た時の軌跡(オービット)では、実験結果をよくトレースできています。(図6)この図では、橋軸方向(LG)プラス方向、橋軸直角方向(TR)マイナス方向で最大値を示しており、これはあとで述べます、ひずみ分布の状況と一致しています。
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▲図6 橋脚天端の変位オービット |
柱基部に発生するモーメントの履歴波形では周期や振幅で良く一致していることが分かります。(図7)
柱基部のモーメント履歴と、モーメントを慣性力作用高で除して算出した荷重と変位の関係を示します。(図8)
この図に示されるように、荷重変位曲線が紡錘型を呈しており、高いエネルギー吸収能力を保有していることが伺われます。
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▲図7 柱基部のモーメント履歴 |
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▲図8 荷重変位曲線 |
各加振終了時の、橋脚基部断面のひずみ分布状況です。(図9)荷重レベルを大きくなるにしたがい、ひずみも大きくなることが分かります。また、前記のオービットと同様、南西方向に損傷が集中していることが分かります。
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▲図9 橋脚基部のひずみ分布 |
●考察
- 作用荷重レベルが大きくなるほど、解析結果と実験結果はよく一致する。
- 付加マス後、125%、2回目の解析結果は実験結果より小さい。HPFRCC部ではコアとかぶりを区分していないのが要因の一つとして挙げられる。
- 最大330mm(≒4.4%)の変位が生じたにもかかわらず、残留変位は25mm(≒0.3%)であった。
- 荷重変位曲線は紡錘型を呈しており、高いエネルギー吸収能力を有している。
●最後に
今回の実験は兵庫耐震工学研究センター内の実大三次元震動破壊実験施設(愛称:E-ディフェンス)で行われました。E-ディフェンスは搭載重量1200ton、搭載面積300m2と世界最大で最高性能の震動台です。本ブラインド解析コンテストは、数値解析技術の向上に寄与するため、独立行政法人
防災科学技術研究所 橋梁の大型実験実行部会のブラインド解析WGのもと行なわれました。関係各位にはお礼を申し上げます。また、同研究センターのホームページには、実験の動画やコンテストの結果なども掲載されています。(http://www.bosai.go.jp/hyogo/index.html)併せてご覧ください。
今後も、当社は積極的に研究プロジェクトに参画し、解析技術の向上を図ってまいります。
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