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未来を可視化する
長谷川章のアート眼
vol.4
社会の未来を語るキーワード「シンギュラリティ」をテーマに、
長谷川章のアート眼が捉えるものを連載していきます。
人類が生命を超え、加速する未来を可視化する鍵を探ります。
長谷川 章(はせがわ あきら)氏
デジタルアートクリエイター

1947年石川県小松生まれ。日本民間放送連盟TVCM部門最優秀賞を始め、ACC賞など数々の賞を受賞。
NHK大河ドラマ「琉球の風」を始めNHKニュース、中国中央電視台(CCVT)ロゴ、企業TVCMなど、数千本を制作。
 Akira Hasegawa
なにもないとはどういうことか? [後編]

ふたたび、我々はすべてを知っているか?

さてもう一度考えてみましょう。我々はすべてを最初から知っているのでしょうか?もっと飛躍してこう考えたらどうでしょう。
この物理空間とは別に、情報空間のようなものがあり、我々は情報空間から物理空間へ写像を行っているに過ぎない。
これは突飛に思えますが、単純な例で考えれば当然のことです。
我々には意識があります。意識は幻想であるかもしれませんが、ある種の情報であることは確かでしょう。

意識が物体となって現実化する現象を、我々はいつも眼にしています。それは、何かを新たに作り出すときです。
作り出す前に人は必ず想像しなければなりません。意識の中にないものを作り出すことはできないからです。
インターネットもiPhone も、誰かが想像したからこの物理世界に存在しているのです。

これを、情報や意識が先にあり、それらの情報が抽象度を下げて物理空間で具体化したと捉えることもできるでしょう。
情報が先で、物理は後です。意識が先で、宇宙は後とも言えます。

調べてみるとこのような考え方はすでに存在しており、宇宙を計算結果だとするシミュレーション仮説や、宇宙が二次元平面の三次元投影だとする
ホログラフィック宇宙などがこの考え方と似ているでしょう。
ところで、情報空間と物理空間のどちらが大きいでしょうか?おそらく情報空間の方でしょう。
想像と現実、意識と世界、どちらが大きいかと考えれば、直感的にもそのようになるはずです。

我々は物理世界よりも大きい情報空間を知っています。ならば、我々が物理世界をすべて知っていてもおかしくはないでしょう。

このように言うこともできるかもしれません。

我々は情報宇宙を入力し、物理宇宙へと投影する際のフィルムかレンズのようなものである。
そのような観点から私が展開してきたのが、Digital Kakejiku というアートです。


DKとはなにか

私は23年間、Digital Kakejiku(DK) というアートを展開してきました。
そのコンセプトはだいぶ異なりますが、DKは現在でいうところのプロジェクションマッピングの先駆けとも言えるものです。

2006年、最大級のエレクトリックアートサンノゼZERO ONE ART フェスティバル2006 が行われました。
世界のトップアーティストがモニタ上で、また映画館のスクリーンで作品を上映し、しのぎを削っていましたが、
それらを観覧して映画館を出た途端、サンノゼの街がDigital Kakejikuで染まっていたのです。

一同の度肝を抜いて殿堂入りを果たし、さらに翌年、アメリカパブリックアート2007のベストアーティスト賞を受賞しました。
それから十数年経って、今日のプロジェクションマッピングとなって波及していったのです。
いまでは世界で10万人のプレーヤーたちがプロジェクションマッピングを行い、その経済効果は1兆円を越えていると言われています。

しかし、DKは既存のプロジェクションマッピングとは一線を画しています。DKはなにかの表現ではないからです。
一般的にプロジェクションマッピングはなんらかの物語や、あるいはなにかの感情、情景を作り出したりしていますが、
DKはそのようなものではありません。

アートは、絵画や彫刻、版画、写真などのように被写体や風景を固定するか、あるいは逆に映画やアニメーションのように動かして
何かを表現するかの両極が主流だったと言えるでしょう。
DKはここに、固定でも流動でもない、「移ろい」という新しい表現カテゴリーを創造したのです。

DKに時間は流れていません。
それは何かの表現ではありませんし、そこに物語はありません。
そこにはなにもないのです。

「なにもない」を体感できるアート、それがDigital Kakejiku です。

いままで「時間はない」「世界は我々が作り出している」「世界に投影している」ということを言ってきましたが、
まさにその思想を具現化したものがDKなのです。

人々がDKをみるとき、いったい何を見て、何を感じているのでしょうか?
ある人は、そこに壮大な大自然を見たといいます。またある人は、自分が空っぽになったといいます。
さらにある人は、時が経つのを忘れていたといいます。

さまざまな人が、それぞれのなにかをDK に見出します。DK は鏡のようなものだと言えるでしょう。
人々がそこに見るのは、その人の中身なのです。
その人の脳であり、体であり、その人自身――あなたはDK に、自分の中身を投影したのです。
時間はなく、我々が考えていたような確固たる世界はなく、そもそもあなたという主体すら不確かなものです。

そもそもなにもないのですが、それでもあなたは、あなた自身を感じ取っているはずです。
その「あなた」とは何でしょうか?
あなたとは、一瞬一瞬の差異(ギャップ)を感知するフィルターのようなものだと考えればいいでしょう。

あなたという主体はなく、差異を捉える運動こそがあなたです。
それが、本当のあなたなのです。
そもそもなにもないのですが、それでもあなたは、あなた自身を感じ取っているはずです。
その「あなた」とは何でしょうか?
あなたとは、一瞬一瞬の差異(ギャップ)を感知するフィルターのようなものだと考えればいいでしょう。


本当の私に帰る

DKとは、本当の私を捉え、本当の私に帰る装置です。

時間はなく、世界はなく、あなたという主体はありません。
あなたは空っぽですが、フィルターとは通過を許すゆるやかな境界であり、空っぽなものなのです。
そのことに気づけば、あなたはすべてを通過させるフィルターとなることもできるでしょう。
なにもないことに気づくことこそが、自然と調和する道筋なのです。

こういう例を出してもいいでしょう。
健康で安らかなときには、手足も、内臓も、目や耳も、脳などの存在にはまったく気づきません。
不調を起こしたとき初めて、痛みを発する部位が存在を主張してくるのです。

なにもないということこそが最大の安堵なのです。

時間や空間やそのほかさまざまな束縛から、もう解放されてもいいはずです。
そのとき初めて、あなたはあなたに戻ります。

それを気づかせるのが
Digitail Kakejiku なのです。




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