フォーラムエイトでは、2年に1回開催される国際学会SPSD(空間計画と持続可能な開発)に協賛し、論文投稿および出展を行っています。SPSDは国際的な研究コミュニティとして、最新の研究結果と持続可能な発展の成功例を共有する研究者、計画コンサルタントが集まり、都市政策、計画・設計およびその支援システム、交通計画、景観設計、地理学などの分野にまたがって開催されます。2011年の金沢、2013年の北京、2015年の台北に続いて4回目を迎えた今回は、韓国ソウル特別市のソウル大学校(Seoul National University)で開催されました。ここではその模様をレポートします。
2017年空間計画と持続可能な開発国際学会 in ソウル大学 -ハッピーシティ、ハッピーライフ-
ソウル特別市とソウル大学校
大韓民国の首都であるソウル特別市は、かつての朝鮮王朝の首都「漢城府」でもあります。観光名所や歴史・文化施設に恵まれた非常にダイナミックな大都市であり、最近では複数の重要な公共プロジェクトが世界的に注目を集めています。
ソウル大学校は、1924年の日本統治時代に創設された京城帝国大学が戦後に京城大学と改称され、その1年後に9つの専門学校と再編統合してひとつの国立大学として開設されました。現在は冠岳区にある冠岳キャンパスに医科、歯科、農科、獣医科を除く全学部が移転しています。冠岳キャンパスは、ソウル市中心市街地から離れた、もともとは駐留米軍のゴルフ場であった敷地を利用して建てられました。自然豊かな緑に囲まれた高台に位置し、研究・学習には最適な場所です。
下の写真は、冠岳区新林洞南部快速路にある交差点です。三角安全島を利用して、横断歩行者は右折車と分離可能になります。右折車が随時曲がれる一方、直進車と左折車は上りと下りに分かれて、別々のフェーズで交差点を通過し、左右の歩行者もまた別々のフェーズで交差点を横断しています。
2017年8月19日
国際会議SPSD、ソウル大学環境大学院
午前9時から丸一日かけて行われた国際会議は、ソウル大学 環境大学院校舎にて開催、4つの基調講演と8セクションの論文発表に分かれていました。
多目的ホールにて、SPSD委員会委員長を務めるソウル大学 環境大学院のKyung-Jin Zoh教授による挨拶では、ソウル大学校とソウル特別市が目指す「ハッピーシティ、ハッピーライフ」のビジョンなどが紹介されました。続いての2時間にわたる基調講演では、ソウル、北京、東京、台湾からの教授が互いの分野からこのビジョンに対しての応答を行いました。
まず最初に、ソウル大学名誉教授Ki-Ho Kim氏は建築家として、スマートグリーン都市が気候変化と分極化の時代に幸せを見出す方法について述べました。
KIM教授は韓国、アメリカの事例から、1,000世帯単位のスマートグリーン都市のプロトタイプをプロモーションしています。これは都市計画と技術計画を早期の段階から統合し、持続可能なライフスタイルを促進するためのひとつのアプローチとなるでしょう。
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Kyung-Jin Zoh教授(左)、Ki-Ho Kim教授(右) |
次に、清華大学教授の毛其智氏は都市計画分野より、中国型の幸せとして「Chinese Dream」という政府による百年計画の目標を説明し、中国全土の都市開発の現状と、よりクオリティが高く効率的で持続可能な開発の特性・目標について紹介しました。
続いて、千葉大学准教授の秋田典子氏はランドスケープ分野より、宮城県石巻市雄勝町の小さな庭から始まり、住民と地域の協力を得て、幸せな未来と希望を取り戻すことを目指す震災復興活動を紹介しました。
最後に、台北科技大学教授の彭光輝氏は都市設計の立場から、生活の質、幸せな都市とユニバーサルデザインのコンセプトおよびガイドライン、実践的政策を紹介し、ユニバーサルデザインによって生活の質を向上させることを模索した台北市の事例を紹介しました。
それぞれ異なる分野からの発表でしたが、まちづくりは人間の幸福と深い関連があり、質の高い計画、活気のある都市は人々をより幸せにするという学びが得られました。
基調講演の後は、各セッションの部屋で幅広い分野からの研究者による講演が多数発表されました。フォーラムエイトは、「最新の技術により推進される計画の方法論」のセクションにて、「VRとHMDを用いた津波避難体験システムの構築」と題した発表を行いました。クラウド型の次世代津波ハザードマップとHMDを利用した津波避難訓練システムの連携で、地域に相応しい避難計画の策定やコストダウンの避難訓練に活用できるでしょう。
全セクションの論文発表が終わった後、環境大学院校舎の屋上ガーデンにてディナーが始まりました。校舎自体はエコビルディングの一つの事例であり、屋上緑化が美しく整備されています。
19時半頃から空が徐々に暗くなり、雨も降り始めたため、参加者は屋内に移動し、フロント階のオーペンスペースに設置された宴会場に集合しました。SPSD委員長のZoh教授により開演が告げられ、ソウル大学音楽学院の学生による韓国伝統音楽ショーが始まりました。伝統的なラブソングである春香伝や、朝鮮民謡のアリランなどの素晴らしい演奏に聞き入りながら、楽しさで時の過ぎゆくのも忘れるほどでした。
宴も終わりに差し掛かり、SPSD創立者である金沢大学都市計画研究室教授の沈振江氏と、次回SPSD2019の開催担当である千葉大学准教授の秋田典子氏による中締めが行われ、日本からの参加者が大半を占めていることもあり日本式の一本締めとなりました。
2017年8月20日
テクニカルツアー ソウル路&ソウル歴史博物館
4つのグループに分かれて行われたテクニカルツアーでは、ソウルの中心市街地コース、麻浦油タンク文化公園でのスポーツおよび文化コース、松島と仁川の旧市街地コース、安山始華の海浜コースのそれぞれにおいて、発展を遂げるソウルの都市像を観察しました。筆者が参加したのは「中心市街地コース」です。
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午前中はソウル路7017の設計事務所を訪問。スタッフからソウル路7017プロジェクトについて紹介がありました。ソウル駅の東西側を結ぶ17mの高架道路は、1970年代に建設されましたが、道路は構造面での問題のため閉鎖されました。その後既存の構造物を解体するのではなく、新たな17本のソウル路7017として生まれ変わりました。現在のソウル路は、人間中心主義の都市再生を果たし、都会のど真ん中に憩いの空間や思索のための空間を提供しています。
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ソウル路の植物、左は「冬の美人」と呼ばれたカイズカイブキ |
ソウル路7017の歩道には、中心市街地で最も多様な韓国産の植物があしらわれています。983メートルの長さのパブリックな庭園回廊を改装した後、645種類の植栽を通じ、少なくとも50種類の樹木、潅木、花などが韓国名の順番で集められました。その中には睡蓮などの水生植物も含まれており、自然の降雨では水量が足りません。剪定、定期的な害虫駆除など、数十人の団体により相当の維持管理コストをかけて、美しい空中庭園が維持されています。
最終的には、庭全体に24,000の植物(樹木、低木、花など)が含まれ、それらが成長した後にはさらに大きなスペースに移植する予定でした。「10年前は清渓川、10年後はソウル路」と言われるように、ソウル路はまだ生まれたばかりの赤ん坊のようなもので、今後ますますの成長が期待されています。次回訪問する際には、何が変わって何が変わらないままでいるのか、大変楽しみです。
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ソウル路のパノラマ写真 |
上の写真の歩道橋は、鉄道で分断された東西の街を結びつけるだけでなく、店舗、ギャラリー、カフェ、劇場、インフォメーションセンター、レストランなどの機能を持つスペースを備えており、新設歩道橋、エスカレーター、エレベータと階段によって、周辺のホテル、ショップ、庭園を結び付けています。
午後には、ソウル歴史博物館を訪問。この施設は1616年に建立された慶煕宮の跡地のうち、発掘されなかった敷地を利用して建設され2002年にオープンしました。一般市民が寄贈したものや、重要文化財などの収蔵品が展示されています。
また、博物館の屋外にも多くの展示物が設置されています。景福宮の正門であった光化門や朝鮮総督府舎の一部、また1930年頃から1968年まで実際にソウルを走っていた路面電車(381号)などが展示されています。電車の中では観光客が昔の人を象った彫刻と戯れてており、時間の流れが感じられました。
2012年にリニューアルされたソウル歴史博物館では、ソウル市全域を1/1500スケールの模型で再現し、都市模型映像館に展示されています。道路沿線と重要なポイントは実物に近い模型とライトで表現し、低層住宅街はホワイトキューブの模型で表現されています。また、城底十里のまちなみは模型とプロジェクションマッピングを用いて展示され、古地図の上に新しい生命を生み出しました。
歴史展示室では、ソウルの過去と現在を模型などで見ることができます。一般市民からの寄贈が多いことからもわかるように、非常に愛されている博物館で、特に子供たちが館内で自由で遊んでいる姿がよく見られます。
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都市模型映像館 |
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プロジェクションマッピングで川の表現 |
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このように、産学連携体制の整備・充実によるさまざまな研究に触れることができ、大変貴重な機会となりました。当社も引き続き、SPSDおよび提携企業との協業を通して、地域活性化に貢献すると同時に、新たなビジネス展開を視野に入れた活動を進めて行く方針です。
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