この原稿を書いているのは2020年3月上旬。日本における新型コロナ・ウィルス(COVID19)の感染拡大に対して、最大の注意喚起が行われている時期だ。
安倍首相が全国の小中高校に対して、春休みが終わるまでの臨時休校を要望。文化イベント、スポーツ・イベントの中止、延期、縮小も要請された。その結果、それ以前から縮小を決めていた東京マラソンは一般参加者3万8千人のレースを中止。沿道での観戦も自粛してテレビ観戦が奨められた(その結果、例年100万人の観客が沿道に集まるが、今年は10万人以下に留まった)。
またプロ野球オープン戦の全試合と大相撲大阪場所などは無観客試合。サッカーJリーグやラグビートップ・リーグの試合なども延期。世界各地で開催予定だったオリンピックやパラリンピックの予選大会なども、多くの大会が中止や延期に追い込まれた。
そんな状態が、いつ頃「正常」に戻るのか? この原稿を書いている時点では、まったく予断を許さない。そこで心配になるのが7月24日に開会式を迎える東京オリンピック・パラリンピック。はたして「正常」に開催できるのか……。
IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長は、2月27日の時点で日本のいくつかのメディアのインタヴューに答え、「仮定や憶測の炎に油を注ぐことはしない」と断ったうえで「東京オリンピックを予定通り開催できるよう全力を尽くす」と発言。IOCの重鎮でもあるディック・パウンド元副会長が発言した「中止もあり得る」「イギリスとカナダへの開催地変更も……」「判断の期限は5月末」といった発言を、やんわりと否定した。
もっとも、IOC会長がそんな発言をしたからといって、東京オリンピック・パラリンピックの「正常な開催」が保証されたわけではない。すべてはCOVID19の世界的感染が治まるかどうか……にかかっている。おまけに今や世界最大のメガスポーツイベントとなったオリンピック・パラリンピックには、簡単に中止や延期ができない事情もあるのだ。
小生は、橋本聖子オリパラ担当大臣も口にした東京オリンピック・パラリンピックの年内延期、それも3か月延期(10月24日開会式)が最善策に思う。そうすれば「スポーツの秋」の開催ともなり(1964年の東京五輪も10月10日開幕だった)、札幌に移転したマラソンや競歩も東京で行えるはずだ。
が、この意見はアメリカのテレビ局(NBC)が絶対に許さないという。なぜなら10月下旬になるとMLB(大リーグ)のワールドシリーズもあれば、NBA(バスケットボール)やNFL(アメフット)も開幕する。それほどのビッグイベントに加えてオリンピックまで……となるのは絶対に避けたいというのがアメリカのテレビ局の強い意向なのだ。
現在IOCの予算総額の約2分の1がテレビの放送権料。その2分の1以上を支払っているアメリカのテレビ局の意向は無視できないという(1964年の東京大会のときは衛星放送が生まれたばかりで同時中継は開会式しか行われず、アメリカのテレビ局の意向を斟酌する必要もなかった)。
そもそも世界のどの都市も、オリンピックの開催に立候補するときは、開催を7〜8月に……という規則を守らなければならない。それもアメリカのテレビ局の事情で決められた規則で、東京や北京などアジアの都市でのオリンピックでは、アメリカで人気の水泳や陸上競技の多くの種目の決勝が午前中(という選手がコンディションを整えるのに苦労する時間帯)になっている。それはアメリカ東部時間のゴールデンタイム(午後7〜9時)に合わせるためだとされているのだ。
それら「選手優先(アスリート・ファースト)でなく「アメリカのテレビ優先」すなわち「マネー・ファースト」のルールを続けていていいのか? という新たな問題提起のためにも、COVID19をきっかけに東京から「選手優先」の新ルールを提案しよう! というのが小生の意見だったが、残念ながらそれは一顧だにされなかったようだ。
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