柔構造樋門の設計で省力化やエラー防止の改善メリット
2010年に入社して以来、様々な河川構造物の設計に携わる過程で当社の各種設計ソフトも使用してきたという、北海道水工室主任の佐々木洋人氏。ただ、実は樋門に関しては元々、樋門に付属する門柱や胸壁、翼壁、函体、しゃ水工などに対しそれぞれ別のソフトやエクセル、あるいは自社制作の独自プログラムを使用。言わばバラバラに計算していたため、何か修正が入る都度、それらすべてに修正を加えなければならず、手間のかかる作業になっていたと振り返ります。
しかし自身が現水工室へ異動後、5年ほど前から「柔構造樋門の設計・3D配筋」の利用機会が増えてくるとともにソフトへの理解も深化。一つのソフトで前述の付属構造物すべての条件を入力し、ワンストップで計算できるメリットを実感。例えば、樋門の設計では函体の横に胸壁が接しているといった構造になるため、従来は他の構造物向けに計算した結果を別の構造物向け計算にも反映させる必要があり、それを手作業で対応していました。それが同ソフトは、そうした計算結果をワンタッチでインポートする機能を搭載。当該作業の省力化はもちろん、転記の際に生じ得るヒューマンエラーも防止。また、同ソフトの2D図面作成機能をベースに少し改造を加えることで、配筋図の作成に使えるなど設計計算の後工程での利用にも配慮。導入当初は使い方自体を試行錯誤していたものの、現在は設計の効率化を支援する心強いツールになっていると位置づけます。
Engineer's Studio®は各部門で有効活用
2007年に河川構造物のレベル2地震動対応を求める耐震性能照査指針(案)・同解説が策定。水門をはじめ、樋門、排水機場等、河川構造物には多種多様な構造形式があり、3Dで解析・表現できる、汎用的なFEM解析のソフトをと探す中、Engineer’s
Studio®(ES)と遭遇。その、1)河川構造物の多様な形状をモデリングできるようなカスタマイズ性の広さ、2)道路橋示方書に準拠し河川構造物の基準にも適合した照査の設定が可能、3)解析結果や条件設定をビジュアル的にも確認可能
― などの面から導入を決定。現在では北海道水工室において河川構造物の耐震設計に欠かせないツールとされるに至っています。
一方、特に解析作業は出来るだけ社内で行うこととしており、自ずとESを使用する機会が多くなっているという東京本社構造部。同部主任の三谷昂大氏は7年ほど前に関わったコンクリートアーチ橋の耐震補強設計で初めてESを使用。入社3年ほどでまだ知らないことが多くある中、解析モデルを一から作成。モデルが出来上がっていく過程が視覚的に分かり、動的解析を動画で確認できることなどから、作業を楽しむ感覚が醸成されました。また、最近取り組んだ斜張橋の設計業務では、景観に配慮しつつ合理的な構造を検討するため、ESを使って解析モデルを作成。複雑な構造解析とともに、主塔や橋桁の形状などを細部も含めて形を変えながら景観検討を実施。発注者を交えた合意形成でもその有用性が発揮されています。
北海道支社北海道水工室では、Engineer’s Studio® で特殊な水門形状のモデリング(左)、固有値解析(右)を行った |
今後の設計業務におけるツール活用、3Dパラメトリックツールへの注目
「効率化とエラー防止(つまり品質確保)という2つの目標を達成するため、このようなツールをどう使っていけば良いか、そこを深化させていきたい」。北海道水工室の古野貴史室長は広くソフト利用への考え方をこう語ります。
建設業界では今後、CIMへの対応がますます求められ、設計業務も3Dモデルの活用をベースとする検討へとさらに移行していく流れがあります。そこでは設計計算や2D図面、関連する3Dモデルをいかに整合性のある形で連携させるかが課題になる、と鵜飼氏は言及。その意味で、フォーラムエイトが今月新リリース予定の「3Dパラメトリックツール」が3D設計シーンにもたらす可能性に大きな期待を示します。
また、フォーラムエイトの設計ソフトは入力がしやすく、それに応じて正解に近い初期値も設定されているため、仮に専門的な知識がなくても数値を入れていけば、ある程度正しい計算データを作成できてしまう面があります。ただ、それは「計算上OK」という数多くの正解の一つに過ぎず、設計として妥当なのかどうかという判断をしてくれるわけではない、と佐々木氏は指摘。
「それゆえ、CIMを含め、構造計算などのソフトはあくまで我々を手助けしてくれるツールなのだ、という認識を強く持つことが大事なのです。効率的に業務を進めるためのツールは欲しいのですが、ツール一辺倒になると技術力が失われてしまう側面もあります。自己の技術的な研鑽をまず土台とし、その上でICTを活用していくというアプローチが重要なのではと思います」
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【北海道支社水工室】左から、佐々木洋人氏、古野貴史氏、田中健太氏 |
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