ミラノへ
新型コロナウィルスの影響もあって、近年の「都市と建築のブログ」は、日本の旅を取り上げてきた。前向きに捉えるならば、国内の魅力をじっくり再発見することができたように思う。それから3年余りが経ち、ようやく移動が自由にできるようになってきた。再び、海外も取り上げていきたい。
イタリア・ミラノへ。ウクライナ情勢の影響を受け、東京・羽田を飛び立った飛行機は通常ルートとは逆の東に向かって進み、北アメリカを超えて、ヨーロッパに入った。パリまで14時間50分、乗り継いでミラノ・リナーテ空港へ。
ミラノは、イタリアではローマに次いで第二の人口を有する都市であり、近郊を含む都市圏人口としてはイタリア最大である。商業都市としてもイタリア最大であり、ファッション・デザインの世界的発信地である。
街なかを眺めていると、最上階のペントハウスがとても気持ち良さそうな建物に出会う(図1)。歩道には建築されたバール(カフェ)空間がつらなっている。ちょうど、緑や花が笑う季節(図2)。
|
|
1 ミラノ市内・最上階のペントハウスが気持ち良さそう |
2 緑や花が笑う季節 |
ミラノデザインウィーク
ミラノサローネ(Salone del Mobile.Milano)へ。「サローネ」とはイタリア語で「見本市」の意味。この、世界最大級の家具デザイン見本市は、イタリア家具工業連盟の子会社により運営されており、今年は61年目を迎える。扱う展示物は、家具のみならず、テキスタイル、オブジェ、照明器具など拡がりを見せており、販売もされている。また、それらのデザインプロセスや制作、プレゼンテーションはデジタルが不可欠である。
サローネの期間中、市内の多くの施設には、フォーリサローネ(Fuori Salone)のサインが掛けられている(図3)。フォーリサローネとは、「サローネの外」という意味であり、ミラノサローネとフォーリサローネを合わせたイベント群は「ミラノデザインウィーク」と呼ばれて、市中が賑わいをみせている。それぞれの展示ブースがとにかくカッコよく、「空間」としてデザインされている。
いくつかの会場をご紹介しよう。
|
|
3 フォーリサローネ |
|
|
4 フォーラムエイトブースにて、MIT石井先生、伊藤社長、武井副社長と |
|
5 フィエラミラノ |
|
スーパースタジオ
(株)フォーラムエイトのブースでは家具メーカー「テクノ」がデザインした椅子P40とXRとのコラボレーション。MITメディアラボ石井裕教授とお会いすることができた(図4)。LEXUS(レクサス)など日本やアジアの企業も多く出展していた。
フィエラミラノ
ミラノ近郊にある巨大な展示会場。ミラノサローネのメイン会場である。入り口に立つと、直線のメインストリートがどこまでも伸びており、終点が見通せない(図5)。地図で測ってみると、メインストリートは端から端まで直線が1.3kmも続いていた。両側に展示会場が並び、バールも充実している。照明や家具のプロダクトも展示ブースも休憩スペースも勉強になる(図6)。ここは、2026年トリノ冬季オリンピックのスピードスケート会場としても予定されているそうだ。
|
6 フィエラミラノ展示会場 |
|
ロッサーナ・オルランディ
2002年、ネクタイ工場の跡地にオープンしたデザインギャラリー。「ロッサーナ・オルランディ」とは、このギャラリーの経営者の名前であり、ギャラリーの名前でもある。小部屋が続いており、フェイラミラノの展示会場とは対象的でもある。敷地は緑豊かであり、中庭があって、展示物の背後にある窓からの自然光が美しい(図7)。
|
|
7 ロッサーナ・オルランディ |
ミラノ・トリエンナーレ美術館
3年に一度開かれる国際美術展「ミラノ・トリエンナーレ」の会場。1階から2階へと続く中央階段の空中に架かる橋がユニーク(図8)。チェコ共和国の展示会場では、焼きたての煎餅を頂いた。味も食感も、まさにゴーフル。また、屋外の芝生広場でも、様々なアートが展示されていた。ちょっと、腰をかけたくなって、赤い椅子に近づいてみたものの、意外に大きくて空気椅子となった(笑)(図9)。
|
|
8 ミラノ・トリエンナーレ美術館 |
9 空気椅子 |
ルイ・ヴィトンとエルメスとミラノ大学
ルイ・ヴィトンは、歴史ある建物まるごとが会場。屋外展示会場の自由曲面のオブジェは天候や時間帯との相性もあってか、カッコいい(図10)。
|
10 ルイ・ヴィトン |
旅行用トランクをディスプレイケースに変身させた「キャビネット・オブ・キュリオシ
ティーズ by マーク・ニューソン」をなぜか何度も勧められたが、中々の値段(汗)(図11)。エルメスは、鉄筋とコンクリートを敢えて見せる展示空間(図12)。
|
11 旅行用トランクが変身したディスプレイケース |
|
|
|
12 エルメス |
|
|
イタリアトップクラスの大学であるミラノ大学も、サローネの展示会場となっていた(図13)。
|
13 ミラノ大学 |
|
|
ガレリア
ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガレリアは、ミラノで有名なドゥオーモ(大聖堂)とスカラ座を結ぶ道である(図14)。ガレリアの内部からは、スカラ広場の中心にある彫刻を見通すことができ、都市軸を認識することができる。ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世は、イタリア王国の初代国王。
|
14 ガレリアの十字路より |
南北200m、東西100m、幅14.5mある2本の通路の上空30mにアーケードが連なっている。垂直性が強く意識された空間であり、その十字路は、巨大なガラスドームで覆われている。ガレリア両側の建物ファサード(立面)は各階ごとに統一されており、地上階は店舗、中間階は事務所、上層階は住居となっている。
十字路の足下には、牡牛のモザイクがあり、窪みにかかとを合わせて1回転すると、幸せが訪れる、旅行者はミラノにまた戻れる、という都市伝説がある。訪問時はまだ混雑しておらず、よろけながらも3回転したので(伝説には、1回転、3回転などあるらしい)、次回もまた訪問できることを楽しみにしたい。
実は、ガレリアに来たのは2回目であった。15年以上前に訪問した時は夕食を終えた夜であり、誰もいなかった。ホットコーナーと呼ぶべき十字路の一角のショップのひとつがファストフード店でびっくりしたことを今でも覚えている。今回来てみると、やはりと言うべきか、ブティックに変わっていた。
|
|
ドゥオーモ
ミラノ大聖堂(ドゥオーモ)は世界最大級のゴシック建築。1386年に始まった建設は5世紀もの時間をかけて1813年に完成した。一番高い所にある、金のマリア像は地上108mにある(図15)。
108mといえば、大阪の通天閣と同じ高さ。
|
|
15 ドゥオーモ・金のマリア像 |
コロナ禍が始まったばかりの2020年4月12日、イタリアのテノール歌手、アンドレア・ボチェッリはイースター・サンデーのコンサートを、無観客の中、ミラノのドゥオーモで開いた。新型コロナウィルスがまだどのようなものか、誰もわからず、ロックダウンや死者の報道が次々となされる中、また、この3年後にミラノを訪問するとは想像すらできない中、このコンサートを観ていた。冒頭、誰もいないミラノ市街やイタリアの都市をドローンで撮影した映像が流れる。そしてボチェッリは、ドゥオーモ内部で「アヴェ・マリア」などをオルガン伴奏で、ドゥオーモの前では「アメイジング・グレイス」をアカペラで歌った。
そして、今は、大勢の人々がドゥオーモ広場で思い思いに過ごしている。
スカラ座脇のカフェで休憩(図16)。内部はクラシカルで豪華な空間。窓からスカラ広場を眺めると、窓の向こうのポルティコ(ポーチ)には半屋外席、その向こうには屋外のパラソル席があり、その向こうには、スカラ広場、ガレリアの入り口と続いており、人々のアクティビティを多層的に眺めることができる。
最後の晩餐
レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「最後の晩餐」は有名すぎて、複製画やインターネットサイトで「どこでも」「いつでも」鑑賞することができる。
本物は、ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院の食堂に描かれたもので、レオナルドの数少ない完成作品のひとつといわれる。
筆者が本物を鑑賞したかったひとつの理由は、「最後の晩餐」が当初描かれた食堂の空間を意識して、描かれているためである。「最後の晩餐」は、一点透視図法により描かれているのだが、展示空間(旧食堂)のある位置から見ると、絵画の天井のラインと実際の空間の壁と天井との境目がつながり、まるで、展示空間が絵画の奥方向へと広がって見えるように描かれている。絵画が空間と一体化した「ここだけ」の体験(図17)。
|
|
16 カフェからの眺め |
|
|
|
17 最後の晩餐 |
見学するには、ツアーに参加する必要があり、いくつかのツアーグループがガイドの案内に沿って、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の内部を見学しつつ、グループごとに時間をずらせながら、展示空間に入室した。展示空間の入り口は入室時間が来たら開き、時間が来ると退室しないといけない。見学時間は15分と限られているが、意外に長く感じられた。 現実世界に戻ってくると、学校が終わった頃であろうか、教会前の広場では子どもたちがサッカーを楽しんでいた(図18)。街なかで、ジモティの生活風景に出会うとなんだかホッとする。
|
|
8 サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会前の広場 |
|
垂直の森
市内の建物には、集合住宅であっても個性的なファサードをしたものを良くみかけた。しかし、全体の景観から大きくはみ出しているわけではない(図19)。歴史ある建物は、壊して新たに建て替えるのではなく、外観や構造を維持しながら、内部空間を改修する。そのため、新たな使い方としては、間口が狭すぎたり(クリーニング屋や自動車修理工場など)、コンクリートやレンガの壁に囲まれて開放的な店の佇まいとすることが難しい場合もあるようだ。
イタリア語で「垂直の森」のことを「ボスコ・ヴェルティカーレ」というそうだ。
ボスコ・ヴェルティカーレは、ポルタ・ガリバルディ駅前の再開発計画「ポルタ・ヌォーヴァ」のひとつとして、2014年に完成した超高層マンション。27階建て・高さ110mと19階建て・高さ76mのツインタワー。特徴的なのは、大きくせり出したテラスに多くの植物が植えられている。遠景からも近くで眺めても、まさに垂直の森である(図20)。完成から8年ほどが建ち、竣工の頃に撮影された写真と見比べると森の成長ぶりがうかがえる。思い切ったデザインで、緑地面積の増加や、緑による日射の遮蔽に伴うCO2削減に貢献しているのであろう。一方で住民サイドに立てば、緑の維持管理をどうやっているのか、コストはどれほどなのか気になってしまう。
これから、ミラノの郊外へ向かう。
|
|
20 垂直の森 |
|