はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第50 回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は鎌倉の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.50 

鎌倉:いざ!
  大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/



せめてバーチャルな旅を

新型コロナウィルスの拡大防止に向けた外出自粛要請により、リモートワーク、Web会議、オンライン授業など、インターネット接続による作業や会議、授業を余儀なくされている方は大勢いらっしゃると思う。最近は小康状態であるが、人と人の出会いや、実際の場所への訪問は、衛生面のみならず心理面でも遠ざけられてしまった。

筆者も2月末ごろより予定が次々と変更になり、出張は一気になくなった。様子見が続く状態は落ち着かなかった。一方、椅子に座っている時間は長くなったので「晴耕雨読、今は書く」と決めて、論文などをできるだけ書くことを心がけた。

いまだ落ち着かない今日この頃であるが、都市と建築とブログで、バーチャルな旅で少しでも楽しんでいただければ幸いである。昨夏、訪問した鎌倉へ。

円覚寺

北鎌倉駅で降りて円覚寺へ。鎌倉五山の第二位に列した古刹である(図1)。石段を上がると堂々とした三門が現れる(図2、3)。境内は奥深く、深い谷間に立地している。美しい緑が連なっている(図4)。

鎌倉時代のはじめ、栄西が当時の中国である宋から禅宗をもたらし、日本で臨済宗を開いた。それに伴い、禅宗様(ぜんしゅうよう)や唐様(からよう)と呼ばれる、宋の建築様式が伝えられた。

円覚寺は臨済宗のお寺であり、国宝・舎利殿は典型的な禅宗様の建築といわれる。随分前の普通切手に描かれていた。子供の頃、切手を収集していたこともあり、建物中段あたりの高さから描かれた舎利殿の二層の屋根は印象的であった。上部の大きな屋根の強い反りと扇のような柔らかなカーブ、下部の庇のような屋根(裳階・もこし)、そして、上下の屋根の間にある組物(詰組・つめぐみ)のバランスが素晴らしい。これらは禅宗様を純粋に表しているらしい。

1 円覚寺総門
2(左)、3(右) 円覚寺三門 4 円覚寺境内

5 円覚寺舎利殿

訪問時は、梅雨が明けた頃で蒸し暑く、猫も山門から動けないほど(図6)。あじさいの見ごろは終わっていたのだが、本堂脇の沙羅双樹の案内に切り花が活けてあったり、珍しい色のユリが咲いていた(図7、8)。本堂を挟んで手前は枯山水、奥は後庭園となっており、まるい「悟りの窓」からは奥の風景が切り取られている(図9)。

興味深かったのは、本堂から間もない、開山堂の脇にある「やぐら」と呼ばれる横穴式の墳墓である(図10)。鎌倉には数多くのやぐらが残っているが、明月院のそれは、間口7メートル、奥行き6メール、高さ3メートルもある鎌倉最大のもので、内部の壁面は彫刻されていた。

舎利殿は通常、非公開のため、訪問時は、離れた場所から、なんとか垣間見ることができた(図5)。また来なければ。

明月院

円覚寺から5分ほど歩くと、明月院である。花の寺といわれ、山門へ続く石階段に沿った見事なアジサイから、アジサイ寺として親しまれている。アジサイの美しい青色から、明月院ブルーとも呼ばれている。

6 山門の猫
7 沙羅双樹とアジサイ 8 珍しいユリ 9 明月院 悟りの窓
10 やぐら

杉本寺

老夫婦が昭和の味を守られているお店で、建長(けんちん)汁を頂く(図11)。けんちん汁が鎌倉発祥だと初めて知った。

けんちん汁で元気をもらったのか、明月院から杉本寺まで、かれこれ3kmほど歩いた。蒸し暑い中、交通機関を使うこともできたが、足を止めたくなくなった。道中、建長寺、鶴岡八幡宮は多くの人が訪れていた(図12)。

11 けんちん汁 12 鶴岡八幡宮からの眺望

杉本寺は、鎌倉で最も古いお寺。創建は、天平6年(734年)、奈良時代にあたる。道路からずいぶん石段を上がってたどり着いた仁王門と本堂を結ぶ参道の石段は、まさに苔のじゅうたん(図13)。訪問時は、石段の入り口に竹が渡されており、立ち入れず。そのため、苔は生き生きと、青々としていた。回り道となる坂道を上ると、茅葺の本堂、中には、十一面観音像(図14)。やぐらもある。随分、歩いた甲斐があった。

近くにある報国寺は竹林で有名。ここのやぐらは大きい上、連なっており、足利家時(室町幕府を開いた足利尊氏の祖父)、足利義久の墓がある(図15)。アプローチの直角に曲がりくねった木は印象的(図16)。

13 杉本寺
15 報国寺のやぐら
14 茅葺の本堂
16 報国寺境内

鎌倉大仏

鶴岡八幡宮への参道、若宮大路は、幅30mほどある。大路の中央には、段葛(だんかずら)と呼ばれる歩道が整備されており、車道より一段高くなっている。また、参道は、鶴岡八幡宮を遠くに見せようと遠近法が仕掛けられてあり、八幡宮に向かって近づくほど狭くなっている。

鎌倉駅から江ノ電に乗って、鎌倉大仏へ。大仏の御前には、夏らしく、スイカやホオズキが供えられていた(図17, 18)。奈良の大仏は大仏殿に安置されているが、こちらは500年以上も屋外に「露座」している。

20円の拝観料を払い、大仏の内部(胎内)に入ることができる。これは、奈良ではできない、貴重な経験。内部はすっかり空洞で、見上げると、頭のぶつぶつ(螺髪)までよく見える(図19)。人間だと思うと、変な気がしてこないではないが、あくまで鋳造物である。そして、胎内から観察すると鋳造の様子がよくわかるし、首がお疲れのようで補強されている様子も納得できた。

17、18(右上) 鎌倉大仏 19 大仏の胎内より見上げ

いざ鎌倉

「いざ鎌倉」とは「さあ大変だ、一大事が起こった」「働くべき時」という意味のことわざである。鎌倉幕府に重大事が起こると御家人が「それ鎌倉へ」と駆けつけたことが由来なのだそうだ。すなわち、緊急事態を指す。正に、今の状況ではないか。

新型コロナウィルス影響はまだ続きそうであるが、これ以外にも災いが毎年のように起きている。世の中が大規模化、高度化、複雑化しているからか、災いが起こると何かと大変になっている。環境の変化に対応できるよう、日ごろから備えをして、すぐに行動できるようにしておこう。


50回を迎えて

お陰様で、都市と建築のブログは50回目を迎えました。いつもお読みくださり、ありがとうございました。これまで紹介した地域は、国内14、アジア13、中東1、ヨーロッパ12、北米3、南米3、オセアニア4となります(図20)。

過去のメールを読み返してみると、フォーラムエイトさんより寄稿のご相談を頂いたのが2009年5月。当初の依頼は、建築関係の話題提供を、でした。当時、自身のブログ「ふくだぶろーぐ」で、訪問した都市や建物を紹介していたこともあってのこと。

ただ、現実の都市や建築を紹介することだけでは、フォーラムエイトさんの広報誌の一コーナーとして浮いてしまわないだろうか?と感じ、筆者が紹介する都市や建物を、フォーラムエイトさん側でVR制作してもらえないかとお願いした。都市のデジタルデータを蓄積していけば、国内、海外の主要都市がいずれデジタルシティ化されていくであろう、という想いがあった。その提案をすぐに受け入れてくださった。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
20 「都市と建築のブログ」訪問マップ

50回までたどり着けることができたのは、読者のみなさまと、フォーラムエイトのみなさまのお陰である。感謝申し上げたい。実際にやってみると、世界は広いと改めて感じた。

10年以上続けていると、VR技術はかなり進化したと感じる。都市のデジタルデータは当初、UC-win/Road Web Viewerで閲覧できるよう提供されていた。2011年頃より、VR-Cloud®と呼ばれるクラウド型VRでの閲覧が開始された。近年では、高精細、高解像度なレンダリングや、360度パノラマVRにも対応している。また、素敵なイラスト、紙面のレイアウトデザインも毎回楽しみである。

最後に、50回を記念して、都市と建築のブログは、書籍「都市と建築ブログ総覧(仮)」として11月に出版する予定である。これまでの記事に加えて、筆者の最近の取り組みなども紹介できればと企画中である。どうぞ、お楽しみに!



3Dデジタルシティ・鎌倉 by UC-win/Road
「鎌倉」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、歴史的な寺社が数多く残る古都、鎌倉を作成しました。歴史の風格を感じさせる人気の観光名所となっている鶴岡八幡宮や、国宝であり内部の見学もできる鎌倉大仏、金運アップのご利益で人気のある銭洗弁財天をご覧いただけます。鶴岡八幡宮では、大石段の脇に2010年まで存在し、樹齢1000年とも言われた大銀杏を3D樹木で再現しており、景観表示切り替えで現在と過去の様子を見ることができます。また、スクリプトやシナリオを実行することで、大仏の内部を見学したり、3Dキャラクタがお金を洗う様子なども見ることができます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
鶴岡八幡宮
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鎌倉大仏はスクリプトで内部見学を体験 3Dキャラクタがお金を洗う銭洗弁財天

VR-Cloud®で体験!特設ページ にて、3Dデジタルシティの操作・閲覧が可能です。



CGレンダリングサービス

UC-win/Road CGサービス」では、UC-win/Roadデータを3D-CGモデルに変換して作成した高精細なCG画像ファイルを提供します。今回の3Dデジタルシティのレンダリングでは「Shade3D」を使用しました。銭洗弁財天にある洞窟(奥宮)の間接光の表現や、濡れた石畳の表現など、高品質な画像を生成しています。

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(Up&Coming '20 盛夏号掲載)
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