はじめに
福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第41回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はローマの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.41
ローマ:一日にして成らず
大阪大学大学院准教授 福田 知弘
プロフィール
1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授、博士(工学)。環境設計情報学が専門。国内外のプロジェクトに関わる。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)学会 元会長、神戸市都市景観審議会委員、NPO法人もうひとつの旅クラブ理事。「光都・こうべ」照明デザイン設計競技最優秀賞受賞。主な著書に「VRプレゼンテーションと新しい街づくり」「はじめての環境デザイン学」など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/
郷に入っては郷に従う
eCAADe2017国際会議出席のためローマへ。台風18号の影響が心配されたが何とか飛び立ち、アムステルダム経由でローマ・フィウミチーノ空港に到着。
夕陽を眺めながら電車に乗り、スーツケースを転がしながら、予約したゲストハウスへ。しかし、ビルの入り口がロックされており、中に入ることができない。別の入り口を探してみたが見当たらず、しばらく佇んでいると中から人が出てきたので、ビルに入ることはできたが、今度はゲストハウスの受付ドアが閉まっている。ドアに書かれた電話番号を控え、ビルの足下にある八百屋に駆け込み、電話をかける。オーナーが電話に出てくれたので解決したかと思いきや、当日は日曜でもう帰宅してしまったとのこと。予約者リストにも筆者の名前はなかったとのこと。受話器の向こうでオーナーは色々と気遣いを見せてくれ、結局、近所にある別のゲストハウスを探して当ててくれた。
スーツケースと100mほど歩いて訪れた新たなゲストハウスは、線路沿いにあった。受付で説明はなかったが、マンションの民泊らしく、いわゆるミングルの仕様。最大4人乗りの狭いエレベータを降りて玄関を入ると真ん中の共用スペースにキッチンとダイニングがあり、両側が各自の部屋である。割り当てられた部屋は申し分ない広さであったが、今度は、WiFiが繋がらない。なので調べものができない。受付スタッフと何度もやり取りをして、WiFiルータを何度か再起動して、ようやく繋がった。WiFi依存症というのだろうか、WiFiが繋がらない環境に不安を感じてしまうようになっていたことに気がついた。
後で聞いてみると、予約サイトから宿へ予約が通っていなかったそう。ローマでは珍しくないらしい。旅の初日は何かとハプニングが多いものだけれど、When in Roma, do as Romans do.(郷に入っては郷に従う)を身体で覚えよ、ということなのかな。
ローマの夜明け
夜が明けて、近所のコーヒショップで朝食。長旅とチェックイン・トラブルからリフレッシュすべく、近所を散歩してみると色々なお店を見つけた。ピザ、オリーブ、モッツァレラチーズ。何れも量り売りなので、注文は中々大変だったが、地元のおばさんの買う様子を見よう見まねで、色々と買ってみた【図1】。
【図1】量り売りで買い物
食べ物はさすがに美味しいし、安い。お店の人は話し好きで何かと親切。というわけで、部屋のベランダでランチしてみた【図2】。
【図2】ベランダでランチ
このゲストハウスが入るマンションは修繕工事中らしく、隣の部屋から向こうは外壁工事中で作業カゴがぶら下がっていた。改修中のマンションを覆うネットがイタリア国旗でユニーク【図3】。
【図3】イタリア国旗のネット
eCAADe 2017
ローマ大学でのeCAADe開催は、1986年以来、31年ぶり【図4,5】。今回、eCAADe2017学会の論文募集時に31年前のポスターが掲載されていた。中央にコルビュジェのモデュロールが描かれ、その両側に教育と研究セッションの発表者がそれぞれ記されていた。その中に、今回も基調講演されたJohn Gero先生、Tom Maver先生、Yehuda Kalay先生、筆者の恩師である笹田先生の名前があった。このことは、今回強く参加したい動機となった。
【図4】eCAADe2017 オープニング
【図5】ローマ大学中庭の泉
もう一つの参加動機は、ローマ大学のキャンパスがコロッセオの目と鼻の先にあるということ。両者の距離はわずか250m。大阪大学のキャンパスで言えば、研究室から生協にいく感覚で、コロッセオに辿り着けるキャンパス。地下鉄コロッセオ駅の改札を出ると目の前にコロッセオがガバァーと広がる。本当に羨ましいロケーション【図6】。
【図6】コロッセオ
eCAADe2017には博士前期課程の井上君と共に参加した。論文発表2編(内、1本は井上君)とセッションの司会、2018年のCAADRIA2018の紹介などを行った。ブレイクではイタリアらしいジェラートのサービス【図7】。パラッツォ・ブランカッチョで開かれたカンファレンスディナーでは、1986年当時も主催者として委員をされていた先生にもお会いすることができた【図8】。当時の恩師との思い出をローマの地で懐かしく窺うことができた。
【図7】eCAADe2017 コーヒーブレイク
【図8】パラッツォ・ブランカッチョ
ローマで散歩
パンテオンは再建以来、途切れることなく建物利用が続いている石造建築物としては世界最古。約44mの巨大なドームの頂に穿たれた9mの天窓を眺める。天窓から光が射し込んできて、ドームに刻まれた台形様の凹部に複雑な陰影を落としていく。当然ながら、太陽は少しずつ移動しており、しばらく眺めていると、その陰影は面白いキャラとなった。何だか、ピクセルで構成されたインベーダーのよう【図9】。このインベーダーは影でできたものであるが、もし本物のインベーダーが天窓から侵入してきたら、と想像は膨らむ。
【図9】パンテオン
ポポロ広場は、ローマの北の入り口にあたる。30度ピッチで合計3本の軸線が引かれている。人間が自然に目にできる視野は60度と言われており、人間の視野特性を考慮して、スペイン広場へと続くバブイーノ通り、コルソ通り、リペッタ通りと3本の街路が設けられた【図10】。
【図10】 ポポロ広場
スペイン広場は、世紀の名画「ローマの休日」であまりにも有名だ。17世紀にこの広場に面してスペイン大使館があったことから、この名前がついた。下にあるスペイン広場と上のトリニタ・デイ・モンティ広場とが137段のスペイン階段で結ばれている。地形の高低差をそのまま活かして創られているので、スペイン階段を上るにつれ景観がどんどん変わっていくのが面白い【図11】。
【図11】 スペイン広場
真実の口も映画・ローマの休日のシーンが有名。但し、大阪・京橋にあるレプリカの方が、はるかに大きく、目線より上の方に飾ってあるので何だか重みがある。大阪人が本物に出会ってがっかりしないか、心配ではある。
トラットリア(レストラン)や青果店に近寄ると、今日はポルチーニが入ってるよ、としばしば勧められた【図12】。秋の旬。1kgで30ユーロくらい。夕食時、一番乗りで入ってみるとその時は客もまばらで不安になったりするのだが、食事が終わりトラットリアを出てみるとビックリするほどの長蛇の列。そして街角には湧水や噴水が本当に多い。散歩してチョット涼を取るのに助かるし、犬の散歩にも助かりそう【図13】。
【図12】ポルチーニ
【図13】噴水
面電車に乗って、ザハ・ハディッド設計のMAXXI 国立21世紀美術館へ【図14】。
【図14】MAXXI
2010年に完成したイタリア初の国立現代美術館。2011年冬に参加した、中国・広州オペラハウス(都市と建築のブログ Vol.18)の完成式を思い出した。当日は、ザハ氏の記念講演があり、広州オペラハウスだけでなく、数多くの作品を講演で紹介されていた。当時の近作としてローマのMAXXIを詳しく紹介していた。21世紀の建築と美術を紹介する美術館らしく、建築部門では伊東豊雄氏の中野本町の家 White Uの1:1模型やザハ氏の追悼展が行われていた【図15】。
【図15】MAXXI内観
一日にして成らず
日本と比べて不便と感じる点もある。地下鉄の券売機では、チケットのまとめ買いができない。また、観光地・コロッセオ駅の券売機の1台は壊れており(3日間とも壊れたままであった)、残りの2台は紙幣の挿入ボックスはあるものの、紙幣が入らない。「紙幣は使えませんよ、硬貨をご用意ください」と案内されていないから、長い列を待って券売機の前に来て状況を初めて理解することになる。脇のキオスクはホクホクなのかもしれないが…
そんなこんなでローマは飽きることがない。
3Dデジタルシティ・イタリア by UC-win/Road
「ローマ」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・ローマのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。
(Up&Coming '18 春の号掲載)