はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第39回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はイスタンブールの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.39 

イスタンブール:古今東西
  大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

長い道のり

CAAD Futures 2017国際会議参加のため、イスタンブールを訪問した。受理された論文「Integration of a Structure from Motion into Virtual and Augmented Reality for Architectural and Urban Simulation(建築・都市シミュレーションのためのStructure from Motion(SfM)技術のVR/ARへの統合)」を発表するためである。

SfMは、異なる位置から撮影された複数枚の写真から、3次元構造を推定する技術であり、論文では、SfMで作成する大量の3次元モデルをVR仮想空間に入力する方法と、SfMで3次元構造を推定する際に生成されるカメラ情報を利用したARシステムの開発内容について示した。さらに、それぞれ、水木しげるロードリニューアル計画(境港市)と極洋電機本社ビル計画(大阪市)で検証したものである。CAAD Futuresは、建築分野のコンピュータ設計に関する学会であり、1985年に設立されて以来、奇数年に会議が開催されてきた。今回は第17回を迎えた。

【図1】CAAD Futures 2017 集合写真

この1年、トルコやイスタンブールでは、テロやクーデター未遂事件が複数発生しており、国・大学・個人の方針で、学会参加を取り止めた研究者・学生も多かったようだ。よって、出席者はそれほど多くなかったのだが、むしろ、顔の見える人数で、議論と交流を深めることができた【図1,2】。

イスタンブールへは、成田空港から12時間強のフライト。大阪からだと成田でのトランジットを含めて21時間かかった。論文が受理・出版されるまでの長い道のり、大阪からイスタンブールまでの長い道のり、さらに、ホテルから学会場・イスタンブール工科大学までの長い道のり(新市街の路面電車が工事中のため2kmほど歩く必要があった)… いい思い出がひとつでも増えれば。

【図2】CAAD Futures 2017 クロージング

ボスポラス海峡

学会初日と2日目の夜、レセプションとカンファレンスディナーがそれぞれ行われた。会場は異なるが、いずれも、アジアとヨーロッパをつなぐボスポラス海峡に面したイスタンブール欧州側のレストラン【図3】。窓から臨む海峡のパノラマはなんとも贅沢。対岸は、アジアの西端である(本当のアジア西端はトルコのババ岬)。我々は、アジアの東端から来たのだから(同じく、ロシアのデジニョフ岬)、アジアのビッグさをひしひしと感じた。

ボスポラス海峡は、黒海とマルマラ海を結ぶ。この下流となる、マルマラ海とエーゲ海を結ぶダーダネルス海峡と併せて、黒海と地中海を結んでいる、交通の要衝である。そのため、大小、様々な種類の船が行き交っており、この風景を眺めているだけでも飽きない。

食事中、都市の歴史の話題となった。ローマとイスタンブールの研究者が話をリード。トルコには、世界最古の都市遺跡「カタル・フユク」があり、その時代は何と紀元前7500年頃。ギリシャやローマの都市よりもはるかに古い。そんなわけで「Rome is young!」という名言が飛び出した。

学会最終日には、ボスポラス海峡を1時間ほどクルージング【図4】。最優秀プレゼンテーション賞はこの船上で発表された【図5】。何とも素敵な演出だった。

【図3】カンファレンスディナー
【図4】ボスポラス海峡ボートツアー 【図5】最優秀プレゼンテーション賞授賞式

学会が開かれたイスタンブール工科大学は、1773年に設立された世界で3番目に古い技術系大学。伝統的な国立大学らしい品格のある建物で、中庭は特に気持ちがいい【図6】。建物入り口には、猫の守衛さんがお待ちかね【図7】。まちなかにも猫が多く、日本の猫よりも人なつこかった。トルコの人々の気質と似通っているのであろうか。

キャンパスは、カンファレンスバレーと呼ばれる、ホテルや国際会議場が集まる地区にあった。谷を渡るために、ロープウェイが設けられている【図8】。運営は、イスタンブールのメトロ。なので、公園のアトラクションではなく、立派な公共交通である。

【図6】イスタンブール工科大学 【図7】大学の守衛さん 【図8】ロープウェイ

トルココーヒー

ホテル近くの路地にある、小さなコーヒーショップで朝食。日本では、トルココーヒーが有名だが、現地ではチャイ(紅茶)の方が普通。という訳で、チャイを注文する機会が多かったが、やはり、トルココーヒーを注文してみた【図9】。カップの内壁に残ったコーヒーの粉模様で物語を作り、ああでもない、こうでもないと、ワイワイやるのが日常なのだそう。この日は、夜明け前からプレゼン準備をしていたからか、粉模様は尾の長いニワトリに見えた【図10】。が、トルコ人の友人にこの写真を見せると、砂漠を延々と歩き続ける、ラクダに見えたそうだ。

イスタンブールは坂道が多い【図11】。新市街の坂上から、地下を走るケーブルカー、テュネルに乗ってガラタ橋へ。テュネルは、ロンドン地下鉄に次いで世界で2番目に古い(さらに、世界一短い)地下鉄。ガラタ橋のたもとに着くと、そこからトラムに乗って、金角湾を渡り、旧市街へ。ブルーモスク(スルタンアフメト・モスク)、アヤソフィア付近は、狭い街路全体に渡って軌道が敷かれている【図12】。

【図9】トルココーヒー
【図10】粉模様

【図11】坂道の果物屋さん 【図12】旧市街を走るLRT 【図13】ブルーモスク

ブルーモスクは、6本のミナレットと直径27.5mの大ドームを持ち「世界で最も美しいモスク」と謳われる【図13】。アヤソフィア【図14】は正教会(キリスト教 537~1204)として作られ、その後、カトリック教会(キリスト教 1204~1261)、正教(キリスト教 1261~1453)、モスク(イスラム教 1453~1931)、博物館(1935~2020)、モスク(2020~)と運命を辿ってきた。ブルーモスクよりもかなり古い。地下宮殿(バシリカ・シスタン)は、東ローマ帝国時代の貯水池。ギリシャ神話の怪物・メドゥーサの顔が彫られた古代の石塊を土台にした石柱もあった【図15】。ヴァレンス水道橋は、ローマ帝国時代の遺構。空港と旧市街を結ぶアタテユルク大通りを水道橋が跨いでおり、旧市街に入った(または、出た)ことを感じさせてくれるランドマークである。


【図14】アヤソフィア
【図15】地下宮殿

Google翻訳とGoogleマップ

スマホが登場して10年以上が経った。海外では、電話会社につなぐと割高なので、WiFiスポットを探すことになる。そのため、WiFiスポットをウリにしている店舗が増えた。

旅の楽しみのひとつは食事であるが、その土地のモノを楽しみたいと思いつつ、安くておいしいものを探し当てるのにいつも苦労する。ツーリストメニューではなく、ジモティがお気に入りのモノを食べてみたい。イスタンブールのレストランのメニューはトルコ語で書かれており、尚更難解である。そこで、Google翻訳のリアルタイム翻訳機能を使ってみた。これは、スマホのカメラでメニューを写すと、アプリが画像から文字を読み取り、自動的に翻訳してくれる。メニューのタイトルなど、特殊なフォントは読み取れなかったが、一般的なフォントの文字は概ね翻訳してくれた【図16】。まだ少し手間と正確性が気にはなるものの、カメラで読み取った画像上でテキストがトルコ語から日本語にリアルタイムに置き換わる様子は、演出的である。特に、メニューの内容を丁寧に調べたい時には便利であろう。

【図16】Google翻訳(左から メニュー/画像を読み取り翻訳/注文した料理)

また、街なかを歩いている時には、WiFiに接続できないこともある。そこで、まず、ホテルの部屋などでWiFiが接続された状態でGoogleマップにその都市の地図を予めダウンロードしておく。そうすれば、WiFiに接続できない時でも、地図は詳細に表示され、GPSで現在位置を地図上に表示してくれるため、迷子にならずに済む。さらに、Googleマップの乗換案内機能が充実しており、ホテルから空港へ、路線バスと鉄道を使って向かうルートと方法を正確に知らせてくれる【図17】。旅行者にとっては、特に、路線バスの系統、到着時刻、降車駅を地図情報と共に教えてくれるのが有りがたい。さらに、先述のGPS機能を使って、乗り込んだ路線バスが今どのあたりを走っていて、あと何駅で降車するのか、随時確認できるため、安心であった。


【図17】Googleマップ(左から 乗換案内/現在地の表示内/路線バス車中・ヴァレンス水道橋付近)


ボストンへ

イスタンブールからは、翌週にアメリカ・MITで開催される、VRサマーワークショップに出席するため、ボストンに向かった。そして、VRサマーワークショップ終了後、ボストンから東京へ。結局、地球を一周する貴重な機会となった。




3Dデジタルシティ・イスタンブール by UC-win/Road
「イスタンブール」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、アジアとヨーロッパの境目に位置するイスタンブールの街を作成しました。世界遺産となっている旧市街の歴史地域や、新市街の中心であるタクシム広場周辺を表現しています。どちらの地域もトラムが走る情緒溢れる街並みとなっており、多くの観光客で賑わっている様子を見ることができます。特に旧市街のほうは、6世紀に建てられたアヤソフィアを初めとして、スルタンアフメト・モスクや地下宮殿など大規模な建築を表現しており、非常に魅力的な空間となっています。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
旧市街(アヤソフィアとモスク)
画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
旧市街(噴水広場とアヤソフィア) 新市街(タクシム広場) 新市街(イスティクラル通り)

VR-Cloud®で体験!特設ページ にて、3Dデジタルシティの操作・閲覧が可能です。



CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・イスタンブールのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。

前ページ インデックス 次ページ
(Up&Coming '17 秋の号掲載)
戻る
Up&Coming

LOADING