vol.35

このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。今回は、令和2年6月に公布された著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の⼀部を改正する法律について紹介します。

令和2年 著作権法改正について

1.はじめに

「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の⼀部を改正する法律」が、令和2年6⽉12⽇に公布されました。

これは著作権等の適切な権利の保護を図るためや、著作物等の正当な利⽤の円滑化を図るための措置を講ずるための法律です。

2.改正の背景と対策の方針

近年のインターネット上の海賊版による被害が深刻さを増し、クリエイターやコンテンツ産業に回復困難な損害が生じるおそれがあるため、早急な対策が必要となっています。関係団体の推計では、被害金額3千億円超、利用者数のべ1億人超であり、幅広い分野で被害が生じています。こうした被害実態等を踏まえ、海賊版対策をより実効性あるものとする観点から、下記の対応を行うこととしました(図1)。


図1 今回の改正における対応


これらの措置によりリーチサイトの直接規制が可能となり、ユーザーの侵害コンテンツへのアクセスを⼤きく減少させることができると考えられます。また、アンケート結果によれば、違法化・刑事罰化がされた場合にはダウンロードを「やめる」・「減らす」との回答が多く(9割以上)、大きな効果が⾒込めると思われます。

3.改正著作権法の概要


【1】インターネット上の海賊版対策の強化


(1)リーチサイト対策

侵害コンテンツへのリンク情報等を集約してユーザーを侵害コンテンツに誘導する「リーチサイト」や「リーチアプリ」の規制を行いました。

  1. 悪質なリーチサイト・リーチアプリを「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するもの」及び「主として公衆による侵害著作物等の利⽤のために⽤いられるもの」として規定
  2. リーチサイトの運営⾏為及びリーチアプリの提供⾏為を刑事罰(:親告罪)の対象とし、侵害コンテンツへのリンク等の提供⾏為を著作権等侵害⾏為とみなし、⺠事措置及び刑事罰の対象とする

(2)侵害コンテンツのダウンロード違法化

対象を⾳楽・映像から著作物全般に拡⼤し、海賊版対策としての実効性確保と国民の萎縮防⽌のバランスを図る観点から、違法にアップロードされたことを「知りながら」ダウンロードする場合を違法の対象とします。

ただし、以下のような場合は違法の対象から除外しており、刑事罰については、正規版が有償で提供されている著作物を反復・継続してダウンロードする場合に限定しています。

  1. スクリーンショットの際の写り込み
  2. 二次創作・パロディ
  3. 漫画の1コマ~数コマなど「軽微なもの」
  4. 著作権者の利益を不当に害しない特別な事情がある場合

上記の通り、今回の改正では、インターネット上での正当な情報収集が萎縮しないよう、運⽤⾯からも国⺠の懸念・不安等に対応できるバランスが取れた内容と考えられます。



【2】その他の改正事項


(1)写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大

スマートフォンやタブレット端末等の急速な普及や動画投稿・配信プラットフォームの発達等の社会実態の変化に対応し、写り込みに係る権利制限規定の対象範囲を(従来は「写真の撮影」「録音」「録画」に限定されていた違法となる対象行為を、複製や伝達行為全般に拡大した上で)、下記のように拡⼤しています。

これにより、日常⽣活等において⼀般的に⾏われる⾏為に伴う写り込みが幅広く認められることとなります。一方で、濫⽤的な利⽤や権利者の市場を害するような利⽤を「正当な範囲内」という要件を規定することで防⽌しています。

  1. 創作性が認められない固定カメラでの撮影などにおける写り込み
  2. メインの被写体に付随する著作物において、分離が困難でないものも対象とする

(2)⾏政⼿続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法関係)

権利者に許諾なく必要な⽂献等の複製等ができる範囲を、従来の特許審査⼿続等に加え、地理的表⽰の登録や品種登録にも拡大。同様の趣旨での追加も可能となります。


(3)著作物を利⽤する権利に関する対抗制度の導⼊

著作権者から許諾を受けて著作物を利⽤しているライセンシーが安⼼して利用を継続することができるよう、登録がなくとも利用権を著作権の譲受⼈などに対抗できる制度が導入されました(特許法における通常実施権の場合と同様)。


(4)著作権侵害訴訟における証拠収集⼿続の強化

著作権侵害訴訟における書類提出命令をより実効的なものとする観点から、裁判所が判断前に書類を見ることができ、また、専門性の高い書類等に専門委員のサポートを受けられるなど、⼿続の強化が図られました。


(5)アクセスコントロールに関する保護の強化

  1. シリアルコードを利⽤したライセンス認証など最新の技術に対応できるよう規定の整備を行う
  2. 定義規定の改正、ライセンス認証などを回避するための不正なシリアルコードの提供等を対象として規制

(6)プログラムの著作物に係る登録制度の整備

  1. プログラムの著作物に係る登録制度に関して、規定の整備を行う
  2. プログラムの著作物に係る登録制度に関して、規定の整備を行う

4.改正法Q&A


【1】インターネット上の海賊版対策の強化


(1)リーチサイト対策


Q.どのようなウェブサイト・アプリが規制されるのか。⼀般的な掲⽰板やSNSなども規制されるのか。

リーチサイト・リーチアプリを、下記の2つの類型に区分し、争いがあった場合には最終的には司法の場で判断されます。

  1. 公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するもの:
    サイト運営者が、侵害コンテンツへの誘導のために、デザインや表⽰内容等を作り込んでいるような場合を想定
  2. 主として公衆による侵害著作物等の利⽤のために⽤いられるもの:
    掲⽰板などの投稿型サイトで、ユーザーが違法リンクを多数掲載し、結果として侵害コンテンツの利⽤を助⻑しているような場合を想定

Q.どのような⾏為がリンクの提供⾏為として規制されるのか。SNSやブログで、たまたま侵害コンテンツへのリンクを提供した場合も規制されるのか。

悪質で多⼤な被害を招いているリーチサイトにおいて侵害コンテンツのリンク提供を行なう⾏為などを規制し、たまたま侵害コンテンツへのリンクを提供してしまった場合には規制されません。



(2)侵害コンテンツのダウンロード違法化


Q.軽微なものや著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合とは具体的にどのようなものか。

数⼗ページで構成される漫画の1コマ〜数コマなど、その著作物全体の分量から⾒て、ダウンロードされる分量がごく⼩さい場合。⼀⽅で、漫画の1話の半分程度や、絵画・写真のように1枚で作品全体となるもののダウンロードは「軽微なもの」とは⾔えないと考えられます。該当するか否かは、下記の2つの要素によって個別の事案ごとに判断されます。

  1. 著作物の種類・経済的価値などを踏まえた保護の必要性の程度
  2. ダウンロードの⽬的・必要性などを含めた態様

また、特別な事情の例として、下記のようなものがあげられます。

  1. 無料で提供されている論⽂(著作物)の相当部分が、他の研究者のウェブサイトに批判ととともに無断転載・違法アップロードされている場合に、それを全体として保存すること
  2. 有名タレントのSNSに、おすすめイベントを紹介するために、そのポスター(著作物)が無断掲載・違法アップロードされている場合に、そのSNS投稿を保存すること

Q.違法にアップロードされたものを、適法にアップロードされたものだと勘違いしてダウンロードした場合も違法の対象となるのか。

違法にアップロードされたことが確実であると知りながら行うダウンロードのみを違法としているため、アップロードが適法か違法か分からない場合や、適法な引⽤だと誤解した場合は対象から除外されます。



【2】その他の改正事項


Q.著作物を利⽤する権利に関する対抗制度の導⼊により,具体的にどのような効果があるのか。

改正前:利⽤者(ライセンシー)は、著作権が譲渡された場合、譲受⼈に対し、著作物を利⽤する権利に対抗できない

今回の改正では、利⽤権について登録等を備えなくとも当然に対抗することができることとしました。これにより、著作権が譲渡されたり、著作権者が破産したりした場合であっても、利⽤者が当初許諾された利⽤⽅法及び利⽤条件の範囲内で利⽤を継続することができ、第三者からの権利行使を受けず安心できます。


Q.アクセスコントロールに関する保護の強化として、具体的にどのような措置が講じられるのか。

近年、コンテンツ提供⽅法がパッケージ販売からインターネット配信に移⾏され、ライセンス認証技術の回避によるソフトウェア等の不正使⽤も蔓延しています。そのため、ソフトウェア業界やゲーム業界を中⼼に、コンテンツの不正使用の抑⽌と、著作権等の適切な保護に資する、下記のような措置を講じました。

  1. ライセンス認証技術のように、不正利⽤防⽌のための信号がコンテンツとは別途(後から)送信・記録されるものについても、著作権法で保護する「技術的利⽤制限⼿段」及び「技術的保護⼿段」の対象となることを明確化するため、それぞれの定義規定の改正を行う
  2. 上記を回避する機能を有する不正なシリアルコードの提供等についても、著作権等を侵害する⾏為とみなし、⺠事上・刑事上の責任を問い得ることが可能

出展

[1]文化庁:令和2年通常国会 著作権法改正について

[2]文化庁:著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の例に関する法律の一部を改正する法律

監修:特許業務法人ナガトアンドパートナーズ

(Up&Coming '21 盛夏号掲載)