vol.32

このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。今回は、「民法改正」を特集します。その中でも、売買契約に関わる契約不適合責任について詳しく解説します。

民法改正について(第4回 契約不適合責任)

2020年4月1日から施行されています改正民法の主要なテーマについて、前回(Up&Coming 127号)に引き続き、ご紹介をいたします。第4回のテーマは「契約不適合責任」です。今後の契約書作成等の実務に影響がありうる主要な点をご説明します。

1.契約不適合責任とは?

契約不適合責任が問題となるのは、売買契約で商品の引渡しと売買代金の支払が完了したものの、引渡しを受けた商品が契約の内容と違っている、という場合です。典型的な例としては、「買った商品が不良品だった」という状況です。
このような場合、改正前民法では、売買契約の対象物が特定物であれば「瑕疵担保責任」(改正前民法570条)、不特定物であれば「債務不履行責任」(改正前民法415条)の問題として区別して処理することになっていました。

厳密な定義は省きますが、家・絵画など、唯一無二の商品が典型的な「特定物」であり、米1kg・石炭2トンなど、世の中に同じものが多数ある商品が典型的な「不特定物」です。なぜこのような区別をしていたかというと、「特定物の売買では、特定物さえ引き渡せば債務不履行に原理的にならない。」という考えが、かつては主流だったからとされています。もう少し具体的に、家を売買する契約で例えると、「この契約はX丁目Y番地の家を引き渡すという契約である。X丁目Y番地の家は唯一無二なので、その家で酷い雨漏りがあったとしても、既に唯一無二の家を引き渡したので契約違反ではない。ただ法律上の特別の責任があれば、その責任は別途負うが。」という理屈だと言い換えることもできます。ここでいう「法律上の特別の責任」が、かつての「瑕疵担保責任」です。

しかし、実際のところ、現代の大量生産・大量消費社会では、何が特定物で何が不特定物かの区別はあいまいです。それにも関わらず、特定物か不特定物かの違いで、負うべき責任の内容が全く変わってしまうのは不合理であると言われてきました。この問題に対処するため、瑕疵担保責任も契約違反の責任の一種だという説が唱えられるなどしましたが、判例などでも、この点をどうするかは明確とは言い難い状況でした。
そこで、今回の民法改正では、「瑕疵担保責任」の規定が削除され、対象物が特定物か不特定物かにかかわらず、売主は、契約内容に沿わなかったことによる責任としての「契約不適合責任」(債務不履行責任の特則)を負うものと整理されることになりました。

2.どのような場合に請求できる?

買主は、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」(契約不適合)場合に、売主に対して、「契約不適合責任」に基づく請求ができます(具体的に請求できる内容は後述3をご参照ください)。

「瑕疵担保責任」(改正前民法570条)では、瑕疵(目的物が通常有すべき品質等を欠いていること)の有無で判断されていましたが、新しい「契約不適合責任」では、当事者間の契約に適合しているかどうかが判断基準となります(実際には、契約適合性の判断にあたり、通常有すべき品質等を満たしているかどうかが判断要素となると思われます)。契約の内容に適合しないかどうかの判断は、引渡時の物の状態で判断します。また、「瑕疵担保責任」(改正前民法570条)では、「隠れた」瑕疵であることが要件とされていましたが、この要件が削除されましたので、新しい「契約不適合責任」では、買主の善意は不要となりました。

3.何を請求できる?

(1)修理・代替物又は不足分の引渡請求

買主は、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」(契約不適合)場合に、売主に対して、「契約不適合責任」に基づく請求ができます(具体的に請求できる内容は後述3をご参照ください)。

(2)代金減額請求

買主は、売主に対して、代金減額請求ができます(改正民法563条、改正民法565条)。これは、改正前民法では、数量不足等の場合にしか認められていませんでしたがで、改正民法で請求できる場合が広がりました。

(3)解除

買主は、一般の債務不履行の場合の規定に基づいて、契約の解除ができます(改正民法564条、同415条、同541条、同542条)。
改正前民法の下では、契約目的を達成できない場合及び買主が善意の場合等にしか解除が認められないこととされていましたが、改正民法では、債務不履行として解除が可能になりました。

(4)損害賠償

買主は、売主に対して、一般の債務不履行の場合の規定に基づいて、損害賠償請求をすることができます(改正民法564条、同415条、同541条、同542条)。改正前民法の下では、売主の無過失責任、損害賠償の範囲は信頼利益 まで、とされていましたが、改正民法では、債務不履行に基づく損害賠償として、売主の帰責性が必要、損害賠償の範囲は履行利益まで認められることになりました。

4.いつまで請求できる?

1.種類・品質の契約不適合の場合は、不適合を知ったときから1年以内に売主に不適合の事実を通知する必要があります(改正民法566条本文)。
改正前民法では、1年以内に、解除又は損害賠償の請求をする必要がありましたが、改正民法では、不適合の事実の通知で足りることになりました。また、改正前民法では、瑕疵担保責任の期間制限は特定物売買にのみ適用されていましたが、改正民法では、不特定物の契約不適合にも566条本文が適用されますので、不特定物売買については期間制限が厳しくなることになります。なお、売主が引渡時に悪意又は重過失の場合には、1年の期間制限は適用されません(改正民法566条ただし書)。

2.数量・権利の契約不適合(数量不足、他人物売買など)の場合は、消滅時効の一般原則(主観的起算点から5年、客観的起算点から10年)によることになります。改正前民法では、数量・権利の瑕疵の場合も1年の期間制限がありましたので(改正前民法565条、566条)、改正により、期間制限が緩やかになったことになります。


信頼利益:その契約が有効であると信じたために発生した実費等の損害

履行利益:その契約が履行されていれば、その利用や転売などにより発生したであろう利益(転売利益など)



商法526条 商人間売買の買主の検査・通知義務

1.受領後、遅滞なく、目的物を検査しなければならない。

2.種類・品質・数量について契約内容不適合を発見した場合、直ちに通知しなければならない。

3.2を直ちに発見できない場合でも、6ヶ月以内に通知しなければ追完請求等ができなくなる。


【参考】瑕疵担保責任に関する改正点等の整理

監修:中本総合法律事務所

(Up&Coming '20 秋の号掲載)