株式会社創発システム研究所では、トンネルにおける防災用の監視・制御を目的とした各種装置の設計・開発を行っています。
「トンネル内の火災はかなり危険なのにその実態はあまり知られていないのが現状。そこで、それを多くの人に分かってもらうためのツールとしてVRの作成が着想された」と、同社開発部部長の松本卓也さんは振り返ります。
その際、火災時の煙の動きをできるだけリアルなものにすべく、例えば「火点から煙が広がっていき、道路トンネル上部の照明を覆うと、その下方が真っ暗になるところを表現したい」と意図。米国立標準技術研究所(NIST)で開発されたCFD(数値流体力学)ソフト「FDS(Fire Dynamics Simulator)」により火災時の煙の動きを計算して極力正確に可視化。ただ、そのままではトンネル内の壁がカクカクと描かれてしまうなど表現上の制約に直面。それに対し、よりリアルに3Dで表現したいとの中堀一郎社長の意向を受け、当該作業に開発部として取り組むことになったといいます。
各種ソフトの適用が検討された中、同社で十数年前に当時のShade7を使い3Dのトンネルを作成していた経緯もあり、2021年にShade3Dの新たな導入を決定。同ソフトを初めて操作することになった同部主任の山岸涼子さんを中心に、Shade3Dのどういった機能が使えるのか、前述のFDSと最終的にどう統合させるのか、などを調べながら試行錯誤。まず、Shade3Dでトンネルやその中を各種車両が走行する動画を作成。次いで、その上にFDSで作った煙を重ね合わせ、トンネル内で事故が起きて煙が発生し、刻々と変化する状況を表現しました。トンネルの作成にあたっては、内部の壁面やラバーポール、手すり、照明など構造の繰り返し表現が多く、形状をリンクで手早く再作成できるShade3Dの機能で効率化なモデル作成ができた、と山岸さんは述べます。
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開発部部長の松本卓也さん |
主任の山岸涼子さん |
それを応用して開発中の「VR Tunnel Simulation」は、火災時にトンネル内で煙がどう広がるのか、オペレーターがどういったことをしなければいけないのか、を学ぶためのツール。ディスプレイ上には、可視光とある程度の煙を透過して向こう側を見られる赤外線の2種類のカメラ映像、2Dで表現した煙の広がり状況、排煙制御状況(「風速ゼロ化制御中」「前方排煙制御中」など)とそれに連動したジェットファンによる換気状況などを表示。3㎞のトンネル内で事故が起きると、カメラを切り替えて人が煙に巻かれないよう誘導と排煙制御を行い、避難完了後は煙を片方向にすべて押し出し、消防車が入れるようにする――といった一連の流れをシミュレーションできるよう様々な機能が試されているところ、と松本部長は解説します。
「Shade3Dは操作が直感的で分かりやすく、3Dモデリングをこれから始めたい、さらにアニメーションも作成してみたいという方にもお勧めです」。山岸さんはShade3Dの使用が初めてだったにもかかわらず、自身が併用する他の3DCGソフトと比べて容易に扱えたことから、初心者にも操作しやすいはず、と実感を込めて説きます。
一方、煙がトンネル内上部へ上がるにつれて下方が暗くなるという、時間によるライティングの変化などを、実際の現象に即し細部にわたってよりリアリスティックに表現したい、という松本部長。Shade3DとFDSを活用・連携することで、これまでに「ある程度のところは表現できた」と一定の評価を示しつつ、専門家から求められるレベルをさらに追求する必要があると指摘。こういった課題を解決し、より高度で統合的なシミュレーションを実現するVR作成に向けて、Shade3Dと併せ、3Dリアルタイムシミュレーションソフト「UC-win/Road」の採用も視野に入れています。
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火災時シミュレーションによるトンネル管理者・オペレータ教育訓練ツール「VR Tunnel Simulation」(左) トンネル内部や走行車のモデリングとアニメーション作成にShade3Dを活用している(右) |
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