本社事業部 構造部
次長 菅 雅之
使用製品 Engineer’s Studio®
プレ処理~計算エンジン~ポスト処理まで、フォーラムエイトで自社独自開発を 行ったFEM解析プログラム。ここでは既設のリベットトラス橋の耐震補強対策に 活用され、国土強靭化に資する優れた事例として第11回ナショナルレジリエンス アワード最優秀賞を受賞した。
「既設鋼トラス橋における構造や地盤の特性を考慮した地震時応答解析について」
株式会社荒谷建設コンサルタント 本社事業部 構造部
次長
菅 雅之(すが まさゆき)
1998年4月に入社。
橋梁や一般構造物の設計・メンテナンス業務に従事する。2009年に本社構造部に配属された後は、既設橋の耐震補強を主とした構造解析、対策検討に携わる。
一般国道や緊急輸送道路など、防災計画上や利用状況等から特に重要な橋(橋の重要度区分「B種の橋」)においては、レベル2地震後、早期の復旧が行い得る状態が確保されるとみなせる性能(耐震性能2)を満たすことが求められる。
今回、対象とした既設橋は、斜角45度を有する左右非対称形の単純鋼トラス橋3連である。下部構造は、橋台及び橋脚ともに門型ラーメン構造、基礎構造は脚柱ごとに独立したケーソン基礎となっており、地震波や挙動(部材変形)の伝達が三次元的で複雑な橋となっているため、橋全体の地震時応答状態を一体的に把握する必要があった。
このような既設橋の耐震性能照査及び対策検討にあたり、複雑な3次元モデルでの動的非線形解析が可能であり、モデル形状や解析結果のビジュアル化に優れ、非線形特性の自動決定や固有値解析機能、道路橋示方書準拠の照査等の設計支援機能が充実している「Engineer’s Studio®」を利用した事例を紹介する。
トラス部材は軸力部材であり、地震による軸力変動の影響を無視できないことから、軸力変動や材料非線形を扱うことが可能な「ファイバー要素」を用いることとした。また、下部構造は塑性ヒンジの発生箇所が明確なラーメン構造であることから、「M-θモデル」を採用した。
基礎と地盤の抵抗特性については、通常は「基礎ばね」としてモデル化するが、本橋では全体的に著しく液状化の影響を受ける地盤、ケーソン基礎が支持層に不定着等の問題があり、基礎構造の不安定さが地上部の挙動に大きく影響することが予想されたため、ケーソン基礎を「M-φ要素」、基礎の周面や底面の抵抗特性は「ばね要素」として解析モデルに組み込むこととした。
応答解析では、斜角の影響を考慮するため、加速度波形の入力方向を「橋軸方向」「橋軸直角方向」「斜角法線方向」「斜角方向」の4方向にて行い、最も厳しい応答値を抽出している。
解析の結果、上部構造では支点部付近に応答ひずみが集中しており、下弦材では安全率が7.9程度にまで及んでいるのに対して、下部構造では上部構造ほどの応答値は見られなかった。基礎構造については、全ての基礎で周辺地盤の大半が塑性化し、構造的に不安定な状態となっている。
既設橋の応答特性の考察として、下部構造と基礎構造の時刻歴応答変位結果を抜き出して整理した結果、下部構造と基礎構造ともに地震初期から自由に大きく挙動し、脚柱と基礎の応答ピークも同じであり、基礎の不安定さが上部構造へ伝達されて橋全体に影響が及んでいる。また、初期段階から応答変位と振幅が大きいことから、橋全体が長周期傾向にあり、共振していることが疑われた。
そこで、既設橋の固有値解析結果を整理すると、上部構造と下部構造(基礎構造)の振動状態が明確に区別できず、長周期領域での橋全体としての振動域に下部構造(基礎構造)の振動域が包含されており、構造的に不安定な基礎と上部構造の固有周期が近いために、橋全体が共振して応答が増大している状態であった。
実既設橋の解析結果や応答特性から、大規模な補強となるが、増し杭補強(鋼管杭基礎)による基礎の構造的な安定化は必須である。次に、基礎の安定化によって生じる上部構造と下部構造(基礎構造)との周期差による応答荷重は免震支承へ交換し吸収させることにより、トラス橋の補強範囲を限定的とし、下部構造も橋脚の柱補強のみで「耐震性能2」を満足させることができた。
なお、液状化の著しい地盤での免震支承の採用については、対策前後の固有値解析を比較すると、免震支承と上部構造、下部構造の各周期特性が明確化していることから、免震支承が十分に機能し、地盤との共振は生じていないことを確認した。
「Engineer’s Studio®」は様々な構造や解析に対応することができ、非常に汎用性の高いツールです。解析規模が大きくなると、入力や解析結果の内容が膨大で、ひとつの操作や表示にも時間を要してしまうものの、モデルや解析結果だけでなく、断面形状や各種要素条件もカラー図で視覚的にも確認しやすく、入力パラメータの連動や自動設定、エラーチェックも充実しています。また、数値が容易にコピー&ペーストでき、図も自由な視点でキャプチャでき、今回のように時刻歴応答結果や固有値解析結果を別途整理して考察する等、資料作成の面においても優れており、非常に利便性の高いツールとして今後も広く活用したいと思います。
(Up&Coming '25 新年号掲載)
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