Users Product Trial Report
ユーザ製品体験レポート

株式会社竹中工務店 技術本部 技術プロデュース部
GRITグループ チーフエキスパート 田中規敏

使用製品 DesignBuilder

脱炭素社会の実現に向けて、エネルギー削減のシミュレーション解析は必要不可欠といえる。建物エネルギー効率の最適化を図るべく、自然エネルギーの活用、熱源機器の制御システムを構築したシミュレーション事例を紹介する。

建物エネルギー効率の比較検討

株式会社竹中工務店 技術本部 技術プロデュース部 GRITグループ チーフエキスパート
田中規敏( たなか・きとし )

2006年、(株)竹中工務店入社。入社後は建築環境設備の研究開発業務に従事し、CFD解析やエネルギー解析を用いた環境設計支援を行ってきた。近年ではIoTやAIを利用した設備制御システム開発業務に携わる。

はじめに

 2015年に国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals)が採択された。17の目標と169のターゲットからなる国際目標である。貧困、飢餓、不平等、気候変動、環境破壊など、世界が直面する様々な課題を解決し、誰もが平和で豊かに暮らせる持続可能な社会を実現することを目的としている。

 SDGsを達成するために貢献できるポイントがいくつかあり、その中の一つにエネルギー効率の向上があげられる。エネルギー効率を上げた建物は、脱炭素を実現し環境に配慮した建物ということになるため、建物のエネルギーシミュレーションの重要性が増している。

 建物のエネルギーの最適化を図るためには、自然環境、建築条件、機械設計など様々な項目を考慮した複雑な設定が必要になり、ここでは建物エネルギーシミュレーションソフト「DesignBuilder」を使用したエネルギー消費削減に関するシミュレーション事例を紹介する。

エネルギー消費削減に関するシミュレーション事例

・施設概要

 施設は太陽熱や地中熱の自然エネルギーを利用した設備システムを有する延床面積5,000㎡程度の建物を対象にシミュレーションを実施した。


図1 施設概要

・エネルギー消費削減に関わる制御内容

 本施設ではエネルギー消費削減を達成するため、大きく3つの制御を組み込んでおり、各制御内容について紹介する。


  • 運転モード(運転する熱源、水配管経路)の制御
  •  HP(ヒートポンプ)チラー、地中熱、太陽集熱(貯湯タンク)の複数熱源を持つ冷暖房システムを対象とし、熱源はスケジュールや出口温度によって運転モードを切り替え、稼動する熱源のON/OFFおよび配管経路の切換えを行う。  
     熱源の切替えは環境状況や送水温度等により自動的に計算を行い、熱源を切替える自動設定と、熱源切替えをスケジュールで指定して、任意のタイミングで切替えを行う手動設定の2パターンを設けた。
     環境の状況に合わせて地中熱・太陽集熱等の自然エネルギーを取り入れるとともに、よりエネルギー消費量の削減を見込める熱源の稼働状況を模索する。

    図2 運転モード制御

    図3 系統図


  • 熱源機器の台数制御
  •  複数の熱源機器を常時全台数運転させることは熱源機器の運転効率を低下させる要因となる。空調の負荷量により適切な運転台数を設定することで熱源機器の運転効率を向上させ、省エネルギー効果が期待できる。
     本シミュレーションでは冷温水の流量に応じて、下記の様に熱源機器(チラー)の運転台数の増減を制御するように設定した。熱源機器(チラー)に対し、負荷流量に応じて熱源機器の運転台数を変化させる自動制御システムを構築し省エネルギーを図る。

    図4 熱源機器(チラー)の運転台数制御


  • 自然換気/外気冷房
  •  外壁開口およびゾーン間開口の設定を行い、開口部の開閉条件を室内外の温度、エンタルピ等より制御する。また、中間期(春・秋時期)に低温外気を利用して冷房に使用する外気冷房制御を行い、熱源の稼働を抑えることで省エネルギーを図る。

    図5 自然換気窓による制御

    シミュレーション結果


     まず制御の動作の確認として自然換気の結果を示す。自然換気の制御では自然換気を行えるか自動的に判定を行い、条件に合わせて自然換気窓の開口率(下記の例では自然換気ありが50%(0.5)、自然換気なしが0)を変更して制御を行っている。DesignBuilderの結果からは下図の自然換気窓の開口率(青線)と給気・排気による換気量(緑線,茶線)が得られ、自然換気のありでは開口率(青線)が50%(0.5)、なしの場合は0と条件に応じて自然換気窓の開口率が変動していることが確認できる。自然換気に伴い、換気窓から室内外の排気と給気が発生するが、開口率(青線)に応じて換気量(緑線,茶線)の発生も確認できており、自然換気の制御が正しく動作していることが確認できる。

      

    図6 自然換気窓の開口率/給気・排気による換気量の制御

      

     以上を踏まえて冬期(1月)の1週間の総エネルギー量の計算結果を示す。
    シミュレーションの結果、制御を行った場合と行わなかった場合の総エネルギー量を比較して約15%のエネルギー消費削減効果を得られる結果となった。

    図7 DesignBuilder結果

    図8 集計結果


    おわりに


     DesignBuilderを使用して省エネルギーを目的とした自然エネルギーの活用、熱源機器のシステム制御システムを構築しシミュレーションを行った結果、目的の通りのエネルギー消費量削減効果を得られた。
     地球温暖化対策のため、日本では2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことが宣言され、今後エネルギー削減に対するシミュレーション解析は必須になってくるものと考えられる。DesignBuilderの特長として、OpenGLを使用した3Dモデリングで作成された建築物が表示され、シミュレーション上の入力は3Dモデルを確認しながら行うことができる。このため、モデル化が視覚的にわかりやすく、イメージを掴みやすいので、シミュレーション実行までの難易度の軽減、入力のミスを削減といった効果を感じられる。


    図9 DesignBuilderでの入出力のイメージ


     次に、詳細HVAC設定では熱源や空調設備などの建物の冷暖房、換気、空調に関するシステムをビジュアル的にモデル化でき、系統図を描くように設定を行うことができるので、機器の接続や制御内容を把握しやすいといった効果もある。 ※(HVAC:Heating, Ventilation and Air Conditioning:空調制御システムの総称)

     今回の課題としては、モデルが大きくなるとその結果の項目や内容が膨大になるため、確認や表示に時間がかかる点やDesignBuilderで使用されている計算エンジンのEnergyPlus(アメリカエネルギー省開発)の全ての機能が標準で実装されてはいないため、一部の機能はスクリプト機能で計算エンジンに直接プログラムで指示を行う必要がある点があげられる。
     今後はDesignBuilder内の機能として設定できる項目の充実や結果の表示項目を拡張することを期待したい。

(Up&Coming '23 秋の号掲載)



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