vol.2
プレゼンテーションの基本
株式会社 パーソナルデザイン
プロフィール
唐澤理恵(からさわ りえ)
お茶の水女子大学被服学科卒業後、株式会社ノエビアに営業として入社。1994年最年少で同社初の女性取締役に就任し、6年間マーケティング部門を担当する。2000年同社取締役を退任し、株式会社パーソナルデザインを設立。イメージコンサルティングの草分けとして、政治家・経営者のヘアスタイル、服装、話し方などの自己表現を指南、その変貌ぶりに定評がある。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科経営学修士(MBA)、学術博士(非言語コミュニケーション論)。
前回は、プレゼンテーションを行う私たちの存在がどうあるべきか、STATE(心身状態)をどうつくるかというお話をしました。例えば、音楽を奏でるためには、楽器そのものがどうあるべきかといった内容でした。今回は、STRATEGY(戦略)にあたる話しの作り方の基本についてお伝えしたいと思います。
プレゼンテーションは常に相手ありき
プレゼンテーションは相手にプレゼントを贈るつもりで行う必要があると前回述べました。相手の価値観に添っていなければプレゼントの価値は薄れます。決して独りよがりであってはならないということですね。
自分は自分の価値観でものごとを考えます。しかし、相手には相手の価値観が存在します。例えば、男女の違いを考えてみましょう。生物学的にオスは、一方向を観る癖があります。獲物を追うというDNAのなせる業でしょうね。なので、一度にたくさんのことはできません。一方、女性はお互いをみます。ネットワークを組み、互いに協力し合って生きていくという子育てから得られた習性でしょう。結果、他人の顔色を見ることには長けているのです。このように、男女をとってみても染色体に組み込まれた違いがあるわけですから、個々にみれば人数分だけ価値観があるといっても過言ではありません。ちなみに、その価値観の違いを利用して利益を上げている例が、メルカリです。自分にはすでに価値がないものを他人がそこに価値を見出すことで差が生まれ、その差が富となります。原始的な物々交換もそれにあたりますね。
それぞれの価値観は、それぞれの考え方、物事のとらえ方のフレームワーク(枠組み)によって変わります。そのため、相手のフレームワークを意識したうえでプレゼンテーションを行うことが必要です。聴き手の数だけフレームワークがあると考えておくとよいでしょう。
フレームワークの確認~プレゼンの前に聴き手と合意を形成しておくこと
フレームワーク全体は人と違っても部分的に共通点があります。考え方が似ていると思う相手とは共通点が多く、そうでない相手との共通点は少ないでしょう。そこで、一般的に考えられるフレームワークの共通点を探し出し、プレゼンテーションをおこなう前に聴き手と合意を形成しておく必要があります。そのため、最初に聴き手に質問をすることをお薦めします。例えば、今回のようなプレゼンテーションがテーマの場合、「プレゼンテーションが得意な方、どれくらいいらっしゃいますか?」が1つめの質問です。この質問で話す内容を示唆することになります。そして、2つめに「プレゼンテーションを少しでも上手になりたい方、手を挙げてみてください」と投げかけます。ビジネスの世界にいる聴き手であれば、手を挙げる人は多いのではないでしょうか。つまり、ここで合意を形成したことになり、聴き手の聴く姿勢が出来上がります。化粧品を販売したい場合は、「素肌には自信がある人は?」そして「今よりももっときれいな肌になりたいと思う人は?」が2つめの質問です。聴き手が女性であれば、ほぼ全員の手があがるはずです。2つめの質問で会場にいる多くの人と合意がとれたことになります。
ひとつ目の質問で現状に目を向けていただく質問をします。そのうえで、こうなりたいだろう質問、できるだけ多くの人の手が上がる質問をすることで、会場のほとんどの聴き手から合意を得る。つまり、この2つの質問がキモになります。プレゼンテーションの目的を示唆することにもつながり、聴き手の思考回路を同じ方向に向けることにもなるのです。
コンセプトとシナリオを作成しましょう
商品開発やマーケティングにおいてコンセプトこそ根幹ですが、プレゼンテーションも同じです。それがぶれると何がいいたいのかわからなくなり、客も離れていくことになります。秋葉原などにあるコンセプトカフェを例にとると、メイドカフェや御姫様カフェ、病院をイメージしたカフェなど様々です。これらのコンセプトが少しでもぶれると途端に客数は減少していくそうです。スターバックスにおいては、「家庭でもなく職場でもない第三の空間」がコンセプトです。そのコンセプトにあった内装やメニューが組まれていることで愛用者をつなぎとめているのでしょうね。
さて、そのうえでプレゼンテーションにおけるシナリオも大切です。人を引き付けていく全体の話の流れです。当社のトレーニングでは「起承転結」を活用しています。「起」はまさにプロローグ、まずは結論から述べることが王道です。「承」では、結論に対する納得感を得ていただくための理由や説明です。「転」は具体例などがあると聴き手がイメージしやすくなりますね。
そして、「結」はその名の通り結論です。プロローグに対してエピローグになります。最後にもう一度結論を繰り返すことで聴き手に重要なメッセージを印象づけます。ほかにもいろいろな手法がありますが、とくに汎用性の高いSDS法については図を参照してください。とにかく、最初に結論、最後にもう一度結論ですね。プレゼンテーションは結論と結論で詳細をサンドイッチすることを覚えておくとよいでしょう。
使用前(before)と用後(after)を示す
「劇的BEFORE&AFTER」で古く汚い家が見事にきれいに使い勝手よく変身する番組はとても人気があり、視聴者をワクワクさせます。某テレビ局でかつて私も担当した「亭主改造計画」という番組では、その後のお問い合わせはケタ外れで、大変驚いた経験があります。
つまり、人々はこのサービスや商品を使うことでどう変わるのかが知りたいのです。現在のあなた(御社)はこうかもしれませんが、このサービスを活用することであなた(御社)はこんな風に変わります。とくにこんな風に変わるというafterに関しては、明確に映像が浮かぶ、イメージできるように具体的に話すことが大切です。そのときこそ、無意識領域にあるイメージ力をフル活用させます。マイホームを買う夢をもつ家族が自宅の中に理想のマイホームの写真を誰もが見える場所に貼っておくことで、その夢が早く叶うようになると聞きます。私たちはこのイメージによって行動を促されるという研究結果もあります。イメージを明確に伝えるためにパワーポイントを活用することも有効です。聴き手の脳に明確なafterの状態が描かれれば、プレゼンテーションは成功したといえるでしょう。
さて、次回はこの話の流れに沿って、どのように表現していくか。目線、姿勢、身振り手振りといった非言語についてお伝えします。
(Up&Coming '22 秋の号掲載)
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