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本連載は、「組込システム」をテーマとしたコーナーです。大手メーカー新規商品、特注品、試作機等の組込システムを約30年間に渡って開発してきた実績にもとづいて、毎回、関連のさまざまなトピックを紹介していきます。第13回は、デジタル化による建築分野の大変革とそれを支える技術について解説いたします。

執筆 組込システム開発チーム

VRシステムをはじめとした関連分野における展開を推進。組込システム開発、マイコンソフトウェアの受託開発、コンサルティングを中心とした事業を展開。
建築分野のデジタルトランスフォーメーション

■デジタルトランスフォーメーションに向けての課題
●デジタルトランスフォーメーションとは
デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)とは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革すると共に、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することです。建設分野では、i-Constructionの取組においてデジタル技術の活用が拡大しつつあります。その中心的な役割を担うのは、BIM/CIMであり、調査設計段階から3次元モデルを導入し、施工・維持管理などの各工程に活用することで、一連の建設生産システムの合意形成の迅速化、業務効率化、品質向上、生産性向上などの取り組みが進められています。

●データエコシステム
建築分野では、特にデジタル化によるデータの活用が重要であり、建築関連データの扱い方がビジネスのやり方を変えていく中心になると考えられます。建築分野は、様々な企業や専門分野の人材が協力して1つの物件を完成させる業務形態であり、企画・設計・施工・維持管理・運営など様々なプロセスと、建築・電気・空調・衛生などの多くの分野から成り立っています。また、業務がオフィスだけでは完結せず、測量や施工などの現場における作業が多くを占めています。このため、企業間・業種間・プロセス間を連携したデータの活用が、デジタル化による最大の効果を得る重要な要件となります。
データエコシステムは、生態系という意味のエコシステムをビジネスシーンに置き換えた言葉です。自然界において、生物・植物などが共生して生態系を維持しているように、IT・通信などによりデータを介して業種・業界が連携を行い共生していくしくみが、データエコシステムです。これにより、直接的あるいは間接的に様々なデータを共有させ、新たな価値を創出することが可能になります。建築分野においても、データエコシステムにより飛躍的に効果を拡大することが可能になります。しかし、この様な企業間、職場や職種間を横断する取り組みを円滑に行うためには、自社の効率化以上の建築主を巻き込む大きな目的が必要となります。


■DXの目的と超スマート社会
●DXの目的は建築価値の向上
DXは、ICTの活用により業務の効率化を行うことが最終目的ではなく、ビジネスや人をつないでいくことで業務そのものを変革し、新しい価値を生み出すことです。DXを実現するためには、構造物を作るビジネスから、エンドユーザーに対して高付加価値な「サービス」を提供し、建築を通じて建物の価値を高めることが必要です。建物は、それぞれの運用コンセプトを持ち、その特徴を打ち出すことにより大きな価値を創出できます。そのためには、建物という視点に社会・活動という運用視点を追加した建築設計から運用管理に至るまでのプロセスを跨ぎ一貫したシミュレーションと設計を行うことが重要になります。建築データをベースとして、建築物に関与する人の活動情報・設備情報・環境情報などを統合したデータエコシステムにより、建物設計・建物管理・活動状況の把握に必要な様々なデータの可視化が可能になり、建築の効率化、建物の省エネ化、設備管理の効率向上、利用する人々に素晴らしいユーザーエクスペリエンスを提供することが可能になります。結果として、不動産に新たな価値を創出させ、ひいては地域全体の価値向上に寄与します。


●DXから超スマート社会へ
たとえば、建物の構造情報と空調や外気取入れなどの設備の制御能力・吸換気口の配置と大きさ・窓の構造と大きさや方向・年間の気象情報などのデータ・建物内の利用目的と人の活動パターン・人の密集度などの情報を用い、建物のあるべき構造と設備運用の最適制御方法について全体最適を行うシミュレーションを行うことができます。この分析結果により、建物の構造・設備・運用の相互補完を行い、建築設計の効率化、感染症リスクの低減、省エネルギー化と居住者の快適環境実現を両立させることができます。
運用段階においては、建物構造に最適に設置されたIoTセンサを通じて、建物内の環境や活動パターンが掌握され、実際の活動状況に合わせた設備稼働のきめ細かな調整が行えます。さらに、万が一何らかの災害が発生した場合のリアルタイムシミュレーションにより、避難誘導の最適案内や、セキュリティ管理、排気制御、照明やエレベータなどの設備制御、放送システムの連動、高齢者の支援など細やかな危機管理が行えます。同時に、このようなデータに、ショッピングモールや貸オフィスなど建物ごとのデータと連携し、高度な来場者サービスを提供することも可能になります。付け加えて、これらの蓄積されたデータから各機器の稼働状況の把握、実際の人の活動状況や制御結果の情報を分析することにより、建物の最適なリニューアル設計の提示や他の建物への応用展開が行えます。


■フォーラムエイトの取り組み
●デジタルツイン


建築物の価値を高めるためには、データエコシステムにおける様々なデータのリアルタイム収集、分析、活用を効率的に行うことが必要になります。このためにデジタルツインが大きな役割を果たします。デジタルツインは、現実空間の情報をモニタリングして仮想空間に送り、仮想空間内に現実空間の環境を再現したリアルタイムシミュレーションを行い、その結果を現実空間にフィードバックするしくみを示します。
仮想空間で建築から運用までのフェーズごとに最適構造分析・最適稼働分析・障害リスク予測分析などのシミュレーションを行った結果から、現実世界における設計支援、施工支援・施工検査支援・運用時の最適稼働管理支援、災害発生時の避難誘導支援、保守計画支援など最適な実行方法の実現を行うことができます。このように、現実空間の情報を反映した仮想空間で実行の検証を繰り返すことにより、多くのトライアンドエラーによる実行の洗練を行うことができ、建築をより効率的に行えるだけでなく、利用目的に最適な設計、リニューアルを配慮した設計、時代と共に成長していける建築の設計も行えるようになります。
フォーラムエイトでは、3次元バーチャルリアリティのUC-win/Road、FEM解析、VRモデル・エンジニアリング、地盤解析、建物エネルギー解析、熱伝導解析、交通解析、火災避難解析などの様々なシミュレーション技術をベースとした仮想空間のシミュレーション技術を有しています。さらに、組込システム技術による現実空間のモニタリングと仮想空間からのフィードバック制御により、建築設計から建築運用に至る新たな価値の創出の支援を行うことができます。

●キーとなる位置測位技術
建築分野におけるデジタルツインを構築する上で、位置情報は最も重要なデータになります。測量、建築支援、施工検証さらに運用サービスまで位置情報が必要となります。しかし、位置情報は、その場面ごとの目的により精度、利便性(重さ、充電時間、大きさ、応答時間、携帯性)、コスト制約が大きく異なり、それぞれの特性にはトレードオフの関係があります。また、これらの特性は、実際の運用の仕方に照らし合わせた制約を与えることにより大きく変化します。たとえば、建築現場では利用範囲が限定できるため、あらかじめ把握している位置のGPS測位により誤差情報を取得すれば、周辺で測位した位置情報の誤差を打ち消すことができ精度を向上することができます。また、測位時間に余裕があれば、平均化することにより誤差を減らすこともできます。屋内において、すべての場所でのリアルタイムの移動位置が必要な場合、特定箇所に近づいた場合のみ情報が必要な場合、設定されたエリアの区分のみの情報が必要な場合などにおいて測位方式の選択は異なり、精度、コスト、携帯性が異なります。このため、利用目的に応じた測位手法の選択とシステム構築を行うことが重要になります。フォーラムエイトでは、実際の測位目的に応じた精度や携帯性を実現するための測位技術として、屋外位置測位技術では低コストで携帯性の良いDGPS(Differential GPS:相対測位方式)、位置精度の高いRTK(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)、屋内位置測位技術では超広帯域無線利用方式の利用技術を通して多様なニーズへの対応と応用展開を進めています。


超スマート社会のためのシステム開発
~日本のものづくりを足元から見直しませんか~
・・・第4次産業革命を実現する“コト”の生産技術革命・・・
(システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注会社/受託会社のために)



■著者 : 三瀬 敏朗 
■発行 : 2018年11月
■価格 : \2,800(税別)
■出版 : フォーラムエイトパブリッシング
約30年間に渡って大手メーカー新規商品、特注品、試作機やマイコンソフトウェア等の受託開発に携わった豊富な経験にもとづいて、これからのスマート社会を支える上で不可欠な組込システム開発の考え方・知識・手法を紹介。システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注/受託に関わる方は必読の手引き書です。

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(Up&Coming '21 新年号掲載)
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