Vol.50
橋梁長寿命化・維持管理体験セミナー
【イエイリ・ラボ 家入龍太 プロフィール】
BIM/CIMやi-Construction、AI、ロボットなどの活用で、生産性向上やコロナ禍などの課題を解決し、建設業のデジタル変革(DX)を実現するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式サイトはhttps://Ken-IT.World
建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。
新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けしています。
はじめに
建設ITジャーナリストの家入です。土木インフラの代表格である橋長2m以上の道路橋は、全国に70万橋以上あり、老朽化が進んでいます。令和元年版の国土交通白書によると建設後50年以上を経過するものは、2018年には25%あり、23年には約39%。33年にはナント、63%にもなる見込みです。トンネルや下水道管などに比べても、橋梁は老朽化の割合が一段と高くなっています。
今回のセミナーは、橋梁の点検や修繕計画策定、そしてコンクリートの維持管理などを支援するフォーラムエイトのソリューションを活用する方法を具体的に学ぶものです。限りある人的、資金的リソースを有効に活用し、橋梁の長寿命化を図る戦略的な考え方も含まれています。
予防保全への切り替えでコストダウン
道路橋の点検基準には、国土交通省道路局の「橋梁定期点検要領」と、国交省の国土技術政策総合研究所(以下、国総研)の「道路橋に関する基礎データ収集要領(案)」があります。
前者は国交省の各地方整備局が管理する橋梁の定期点検で使われているもので、損傷状態や損傷ランクなど維持管理上で必要なデータが記録、収集されています。国が管理する橋に適用されるため、点検データが詳細で報告書となる「点検調書」の分量も多くなっています。
一方、後者は地方自治体などが管理する橋梁で使われているものです。これまで定期的な点検が十分に行われてこなかった場合もあるため、膨大な数の橋梁を合理的に維持管理し、補修や補強を適切に行うというニーズに向いています。一般的な構造形式の道路橋で、主要部材に損傷発生度合いが高い部分や、劣化が進行しやすい部分に着目し、橋梁の状況を把握するものです。
橋梁の点検によって、現在の劣化状況などを見える化した後は、優先順位を決めて補修や修繕を行っていきます。
これまでは「悪くなってから直す」という「事後保全型」の修繕が行われてきました。この方法だと、劣化が構造物のかなり奥まで進んだ状態で修繕するため、工事が大規模になりコストも多くかかってしまいます。
そこで、最近は劣化が浅い段階にとどまっているうちにこまめに補修を行う「予防保全型」の補修が主流になってきました。橋梁の修繕や補修時期を予測する「橋梁長寿命化修繕計画」によって、構造物の長寿命化を図るとともに、トータルのコスト削減を目指すものです。
健全度を元に補修計画を作成
各橋梁の補修時期は、建設後の経過年数や、各部材の件年劣化や塗装・腐食の状況、過去の補修状況を考慮した5段階の「健全度ランク」に応じて決めます。すると年度によっては補修工事が集中し、設定した予算を上回る場合も出てきます。そこで予算を超過しそうな年の工事は、「前倒し」や「先送り」することにより、予算を平準化します。
橋梁の部材のなかでも、鉄筋コンクリート構造物は劣化がじわじわと進行し、気がついたときには大規模な補修工事が必要になっていることも多々あります。逆に異常を早期に発見し、こまめに適切な補修を行えば、寿命を大幅に伸ばすことができます。そのため、コンクリート構造物の予定供用期間を通じて、性能を保持できるように維持管理計画を作り、実行していくことは非常に重要です。
具体的には、コンクリートの表面に発生するひび割れを調査して、その原因や補修・補強の要否を判定します。補修が必要と判断された場合は、工法を選定します。同時に補修後の耐久性や性能を考慮した生コンクリートの配合設計も行います。このほかコンクリートの劣化過程を判定したり、劣化の進行を予測したりといった管理も必要となります。
製品概要・特長
この日のセミナーで取り上げられたのは、フォーラムエイトの「橋梁点検支援システム」、「橋梁長寿命化修繕計画策定支援システム」、そして「コンクリートの維持管理支援ツール」です。
フォーラムエイトの「橋梁点検支援システム」は、国交省版と国総研版がありますが、この日は国総研版を使いました。点検要領に従って点検調書の作成や出力を行えるほか、汎用CADをベースに多様な図面作成が可能です。さらに損傷図に書き込んだ損傷情報を抽出して、損傷程度を評価したり、対策区分表を作成したりする作業を効率的に行えるようになっています。
特徴はさまざまな図面や作図をスピーディーに行えることです。例えば現地調査の元になる図面がなくても、主桁の本数や幅など主要部分の数や寸法を入力するだけで、パラメトリックに断面図や、現地調査用の「損傷展開図」など自動作成してくれます。現地で記録してきたひび割れや漏水、鉄筋露出などの損傷状況をソフトに入力するときも、損傷パターンを選ぶだけで素早く行えます。
こうして入力されたデータから、発注者の様式に従ってさまざまな点検調書を出力できます。
続いて「橋梁長寿命化修繕計画策定支援システム」は、道路保全技術センターの「道路アセットマネジメントハンドブック」や、国総研の「道路橋の計画的管理に関する調査研究」に基づき、橋梁ごとの情報管理や補修工事の内容、工費、時期の検討、補修順位の検討などを行い、それぞれの計算書を出力します。
部材が経年変化によって劣化していく程度を予測するためには、「劣化モデル」を使います。数多くの橋梁について、主要部材が経過年数による劣化データを数多く集め、回帰曲線によってモデル化したものです。例えば、劣化や変状が広範囲に進行しているレベルの「健全度IV」になるまでの経過年数は、塩害地域以外の場所だと21年ですが、塩害地域だと14年と予測されます。
補修工法は再塗装か架け替えかによって直接工事費を計算する式が定義されており、単価と数量で補修費用を算出します。
橋梁補修計画の中心になるソフトのため、他のシステムや橋梁台帳などとのデータ連携性も優れています。
最後の「コンクリートの維持管理支援ツール」は、土木学会の「コンクリート標準示方書」に基づき、コンクリート構造物の劣化度の判定や劣化進行の予測などを行うソフトです。
「維持管理編」と「ひび割れ調査編」の2種類があり、ひび割れ調査編には「ひび割れ調査」と「設計編」の2つのソフトを備えています。
体験内容
4月23日の午後1時半から午後4時半まで、Zoomによるオンラインセミナー形式で「橋梁長寿命化・維持管理体験セミナー」が開催されました。講師を務めたのは、UC-1開発第1グループの涌井光慶さんです。
▲4月23日にオンラインで開催された「橋梁長寿命化・維持管理体験セミナー」
冒頭の15分間に、国土交通省が推進している「i-Construction」の中核となっているBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)/CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)について説明を行い、維持管理での活用や効果、インフラ分野のDX(デジタル革新)などについての説明がありました。その後、橋梁の維持管理や長寿命化に関する3つのシステムやツールについて、それぞれの機能や準拠する基準などについて解説した後、実際にソフトを使って実習するという流れです。
「橋梁点検支援システム」では、橋梁の主要寸法から、損傷展開図の作成と損傷部分の入力、各種調書の作成までの流れを体験しました。
続いて「橋梁長寿命化修繕計画策定支援システム」では、システムに橋梁台帳を読み込み、計算対象とする橋梁を選びました。さらに補修工費の算出に必要な単価入力や、経年変化による健全度を求める「劣化モデル」のデータ入力や回帰曲線の設定、健全度の予測グラフの作成などを行いました。最後に年間の補修予算を3000万円に制約し、補修計画を前倒しや先送りによって平準化する作業も体験しました。
最後は「コンクリート維持管理支援ツール(ひび割れ照査編)」を使った実習です。コンクリート構造物の位置を緯度、経度で入力し、日本地図上にプロットして管理しながら、凍害、化学的浸食、アルカリ骨材反応、水密性の照査を、パラメーターやデータを入力しながら行いました。
イエイリコメントと提案
日本の人口減少は今後も数十年にわたって続く見込みのため、維持管理の事業費にも限りがあります。しかし社会インフラの老朽化は進み、補修対象となる構造物の量は増える一方です。
こうした状況で、橋梁の損傷状態を的確に把握し、損傷や異常に適切に対応するためには、従来のように手作業で点検や管理を行うのはもはや限界が来ています。クラウドやBIM/CIMなどによって効率的にデータを管理することが欠かせません。
フォーラムエイトのソリューションは、日々、機能や他システムとの連携が着々と進んでいます。すでに開発済みのドローン(無人機)やロボット、クラウド、VRなどの技術に、開発中のAI(人工知能)損傷度判定支援システムなどの技術が加わると、インフラ分野でのDXが急速に実現していきそうです。
(Up&Coming '21 盛夏号掲載)