連載 【第26回】
紫外線から皮膚を守る

profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾
クリニック院長を経て、現在ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人 未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科共同客員研究員、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。


紫外線と皮膚

紫外線は太陽光の中で約6%を占め、日常生活での紫外線への対応が重要となります。紫外線は生物学的な作用によって長波長紫外線(UVA:320-400nm)、中波長紫外線(UVB: 280-320nm)、短波長紫外線(UVC:190-290nm)、真空紫外線(100-190nm)に分類されています。紫外線は直接あるいは活性酸素を介して間接的に皮膚の細胞のDNAを傷つけます。真夏の昼間1時間、UVBを浴びると表皮上層の1個の角化細胞において全ゲノムあたり約100万個の傷、基底細胞でも5-10万個の傷を受けます。その傷は数時間から数日かけて修復されます。細胞にとって有害な紫外線から守るために、角層は化学物質や微生物の侵入を防ぐだけでなくバリア機能として働いています。でも角層だけでは不十分で一部の紫外線は角層を通り抜けていきます。春から夏の日光にはエネルギーの強いUVBやUVAが大量に地上に降り注ぎます。UVBは表皮にほとんどが吸収され皮膚の炎症を起こし、赤い日焼け(サンバーン)の原因となります。UVAはエネルギーはUVBの1000分の1程度と弱いのですが大量に当たると赤みは作りません。しかしUBVはガラスを通過し真皮中層まで到達し、UVBによって皮膚の色は黒くなり黒い日焼け(サンタン)が起こります(図1上)。そのため皮膚は紫外線が透過するのをなるべく少なくするような働きを備えているのです。表皮の一番下の基底層にある色素細胞(メラノサイト)内の膜小器官であるメラノソームで作られるメラニンがその働きをしています。色素細胞は樹状の突起を介してメラニンを周辺の基底細胞に配布し、基底細胞では核の上にまるで帽子をかぶっているようにメラニンキャップを形成して、紫外線からDNAを守っています。

人の皮膚の色はさまざまです。それは黒褐色のメラニンのためで、メラニンが多いほど肌の色は黒くなり、紫外線に対して抵抗性があります。白人では紫外線を浴びても赤くなるだけで、あまり褐色になりません。日本人は赤くなるとその後数日して褐色になります。国際的なスキンタイプでは白人が該当するタイプⅠから黒人が該当するタイプⅥまで6段階に分けられています(図1下)。日本人はこの基準ではタイプⅡからⅣくらいです。日本人でも色白で、日光にあたると赤くなりやすくて、黒くなりにくい人は紫外線対策が必要です。

図1


紫外線の急性障害

サンバーンは日光にあたって数時間後から赤くひりひりとした炎症が、8時間から24時間でピークとなり、2~3日で消えて行きます。でもあたる量が多いと水泡を形成して皮がむけます。サンタンは日光にあたって数日してから現れ、数週間から数ヵ月続きます。紫外線で色素細胞が刺激され、メラニンをたくさん作るために起こります。



紫外線の慢性障害;光老化

皮膚の老化には加齢による老化と光老化があります。光老化(photoaging)は長年にわたり日光をあびた部位のみに生じ、紫外線によって誘発される表皮角化細胞や色素細胞のDNAの損傷に対して、遺伝子の修復が正しく行われなかった結果生じる、紫外線による慢性障害です。光老化によって皮膚の表皮全体が肥厚し、有棘細胞の並び方の秩序性が低下し、細胞も不均一となり、メラノソームの分布とそのサイズも不均一となります。真皮では真皮上層の弾力繊維の変性やコラーゲン量の低下、またヒアルロン酸などのムコ多糖類の増加がおこり、毛細血管数は減少しリンパ管はほとんど消失します。特に加齢によるコラーゲン、エラスチンの減少と光老化によって“シワ”ができます。一方“シミ”も光老化が関与しています。シミはメラニンが表皮の一部に多量に蓄積し、紫外線刺激によるメラニン合成に関与する遺伝子に変異があり、メラニン合成の亢進や色素細胞数増加とその突起が延長します。シミは医学用語では色素斑といいますが、肝斑、太田母斑、扁平母斑、後天性真皮メラノーシス、炎症後色素沈着、雀卵斑、老人性色素斑(日光性色素斑、日光性黒子)、光線性花弁状色素斑、遺伝性対側性色素異常症、色素性乾皮症、脂漏性角化症において色素斑が認められます。さらに紫外線によってシミやシワだけでなく、皮膚がんの発症にもつながります。ただ日本は韓国やタイと並んで、世界で最も皮膚がんの少ない国です。皮膚がんの最も多いオーストラリアやニュージランドと比べて罹患率ではおよそ100分の1、死亡率でも 40分の1から20分の1です。



紫外線とビタミンD

ビタミンは体内で合成できない微量物質ですが、ビタミンDは皮膚で紫外線(UV-B)の助けで合成することができます。ビタミンDの主な働きはカルシウム代謝の調整です。体内のカルシウム環境は消化管、骨、腎臓の働きによって保たれていますが、ビタミンD はこれら3つの臓器に働く重要なビタミンです。食物から摂取したり、皮膚で合成されたりしたビタミンDはそのままでは働くことができません。肝臓と腎臓で「活性化」されてはじめて効果を発揮します。カルシウム摂取不足やビタミンD不足になると、骨から溶け出すカルシウムの増加などにより、カルシウム蓄積が減少して骨が弱くなり、骨折の危険性も増します。骨粗鬆症の原因のひとつとも考えられています。最近では、ビタミンDは筋肉にも作用することによって高齢者の転倒予防にも役立つことが報告されています。中高年女性の半数近くがビタミンD不足であることが報告され、骨粗鬆症の予防と治療に必要なビタミンDは一日あたり10〜 20μg(400〜800国際単位)とされています。皮膚で作られたビタミンDはビタミンD結合蛋白質によってすぐに運ばれるため、消化管から吸収されるビタミンDよりもからだの中で使われやすいと考えられています。両手の甲くらいの面積が15分間日光にあたる程度、または日陰で30分間くらい過ごす程度で、食品から平均的に摂取されるビタミンDとあわせて十分なビタミンDが供給されと言われています。



光老化の予防

予防は第一に紫外線の過剰な暴露を避けること、第二に活性酸素を早く消去するか、または活性酸素が生じにくい皮膚の環境作りといえます。

サンスクリーン剤はSPFの値(6から50+)により紫外線防御効果が異なります。SPF30 のサンスクリーン剤が健康維持の目安とされています(図2)。SPF15ぐらいでも2時間おきに塗りなおすことで効果が十分であると考えられています。そのためSPF 値の高いサンスクリーン剤の使用を特に紫外線の強い時に限定すべきという考えもあります。むしろ過度に紫外線への暴露を避けることはビタミンD不足になることも懸念されます。

図2

図3に活性酸素を除去する物質である抗酸化物質をあげています。

食品でとることや、これらを含むサプリメントとして毎日服用するのもよいでしょう。

図3




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(Up&Coming '24 盛夏号掲載)
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