連載【第24回】
Long COVIDを知っていますか
profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾クリニック院長を経て、現在ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人 未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科共同客員研究員、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)が2023年5月に5類感染症に移行し、私たちの生活はようやくコロナ以前のように戻ってきました。一方で、COVID-19に罹患した後に、long COVID、新型コロナウイルス急性感染後症候群(post-acute COVID-19)などと呼ばれる後遺症が問題となっています。後遺症は微熱や咳が続き疲労感や脱力だけでなく、記憶力低下や集中力低下など頭にモヤがかかったような状態(brain fog ブレインフォグ)があり、そのことで仕事ができない状況に追い込まれている人もいます。今回はlong COVIDについてです。
long COVID (post-acute COVID-19)とは
新型コロナウイルス感染症は回復後も多彩な症状が長く続くことが知られていました(図1)。
WHO(世界保健機関)は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の症状は新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2カ月以上持続し、また他の疾患による症状として説明がつかないものである。通常はCOVID-19の発症から3カ月経った時点にみられる。後に、症状が少なくとも2カ月間続き、他の診断では説明できない状態」と定義しています。症状は①全身症状:疲労感・倦怠感,関節痛,筋肉痛 ②呼吸器症状:咳,喀痰,息切れ,胸痛 ③精神・神経症状:記憶障害,集中力低下,不眠・睡眠障害,頭痛,抑うつ,筋力低下 ④その他:嗅覚障害,味覚障害,脱毛,動悸,下痢,腹痛など多彩です。これらの症状は、COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、急性期から持続する症状があります。症状の程度は変わり、症状が消失しても再度出現することもあります。1733人のCOVID-19症例を調べたこれまでで最大の研究では、76%の人が発症後6か月の時点で少なくとも1つの症状が持続していた報告があります(Lancet, 2021)。図2に症状とその経時的な変化を示しています。診断は他の疾患との鑑別が重要となります。またどの科を受診したらよいのか迷っている患者さんも多いため、厚生労働省のホームページ(新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について|厚生労働省(mhlw.go.jp)で紹介しています。
long COVIDへの対応
感染予防、重症化予防の目的で進められてきたワクチンですが、long COVIDの予防効果も期待できるという報告があります。その報告ではワクチン2回接種後にCOVID-19に罹患した場合、28日以上遷延する症状の発現が約半分に減少しました。
治療法については、まだ病態は解明されていないこともあって、標準的な治療はなく、対症療法となっています。対症療法的に漢方薬では補剤や柴胡剤を含む処方がされている報告があります。またインドや中国では伝統医学であるアーユルヴェーダや中医学での対応がすすめられています。欧州ではホメオパシーなどで個別的に回復力に働きかける相補・代替医療(CAM)が用いられています。それらに加えサプリメントや抗炎症食による食事療法、ヨーガ、瞑想、呼吸法、マインドフルネスなども含め統合医療による全人的なアプローチが必要といえます。
(Up&Coming '24 新年号掲載)