連載【第16回】

「不安」とつきあうために知っておきたいこと

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関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾クリニック院長を経て、現在公益財団法人未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科客員研究員、統合医療アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著など多数。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響で以前より強く「不安」を抱くようになった人は多いかもしれません。実際あなたは今、何かに対して不安を抱いているかもしれません。そして不安がないほうがいい、この不安さえなければ何でもできるのにと考え、不安を取りのぞこうとしていませんか。今回はこの「不安」について考え、どのように不安とつきあえばよいのか、具体的な方法を含め紹介します。

不安はこころの危険信号?

不安(anxiety)は漠然とした未分化な恐れの感情(精神医学事典より)であり、 自己の存在に対して脅威になるような事象の生起を予測することによって生じる不快な情動状態をいいます。

一方、心理学者のダーゼンは「不安は自由の影の側だ」と言っています。私たちが意識的に、自由に行う行動には不安が伴います。不安を感じているときには自律神経の交感神経が優位となり、動悸や胸が締め付けられる感じや、発汗など身体症状を伴うことも少なくありません。痛みが身体への危険信号であるように、不安は私たちの自己保存本能からくる危険信号でもあるため、正常な反応といえます。でも不安が、量的に過度となり、かつその場面にそぐわずに反復して出現するようになる場合には病的な不安となっていきます。

病的な不安

病的な不安はこころの病気である不安障害として大きく分けて次の4つのタイプがあります。
①不安を抱く事柄や状況が比較的特定のものに限られている種々の恐怖症。
恐怖も不安同様に危険信号ですが、不安との違いは対象が今、目の前のことや、頭の中に存在することになります。例えば社会恐怖であるのが社交不安障害、高いところが怖い高所恐怖症などです。
②不安を抱く事柄や状況が特定されておらず様々な事柄や状況で不安になる全般性不安障害。
③特徴的な身体症状を伴うパニック発作を繰り返すパニック障害。
④薬物やアルコールなどの物質を摂取することによって不安が生じる物質誘発性不安障害。

不安とのつきあいかた

私たちは考える生き物です。でも先のことを考えれば考えるほど不安になっていき、過ぎたことを考えれば考えるほど落ち込んでうつになっていきます。私たちは過去と未来ばかりに生きていていて、「今」この瞬間を感じて生きていることよりも、過去や未来にとらわれて生きているといえます。日々の生活のなかでこころのセルフケアとしてマインドフルネスや森田療法の考え方が役立ちます。不安はその原因を考えて、コントロールしようとしたり、不安をなくそうと努力すればするほど、かえって不安にとらわれ、雪だるま式にだんだん大きくなっていきます。森田療法では不安の原因を探したり、不安をなくそうと行動するのではなく、不安はあってもできることを行動するようにすすめます。

感情はコントロールできませんが、行動は意識してコントロールできます。頭で考えることではなく行動、身体を動かすことがキーポイントです。具体的には、不安を強く感じているときに、食器を洗ったり、お掃除をする、身体を動かし意識を別のことに向けていきます。不安があっても身体を動かすことなどができます。キッチンをきれいに磨いているうちにいつの間にか不安が消えていることもあるのです。運動で汗をかくことも役立ちます。一方、普段から不安を強く感じる人は神経質な人かもしれません。

「まじめすぎる」「白か黒か、100か0か」「几帳面で、~すべき、ねばならない」「完璧主義の人」など、こころがかたい傾向があります。「いいかげん」を「良い加減」として、頑張りすぎない、「まあいいか」や「あいまい」を受け容れ、60点主義でも過ごせることができ、こころを緩めることができれば不安を強く感じなくなることが可能です。

呼吸による不安の軽減

不安な時、息を吸うことではなく息を吐くことに意識を向けます。ゆっくり長く口から静かに息を吐きます。なるべく深くゆっくりした呼吸で、おへその下3㎝の丹田と呼ばれるところに意識を集中して吐くときにはお腹がしぼむのを観察して下さい。

不安なときは、身体に力が入り、呼吸が浅くなっています。マインドフルネスは今、ここで自分に気づいていることが基本になり、自分の呼吸を意識してひたすら感じることです。不安な時に目を閉じて鼻で呼吸をします、鼻から息を吸って鼻から吐くこと、呼吸を眺めていきます。他にも呼吸に意識を向ける方法として「4・7・8呼吸」があります。鼻から深く静かに息を吸いながら4数えます(口は閉じて)。息を止めて7数えます。口から息を吐き8まで数えます。吸う息と吐く息が1:2となっていること、呼吸をカウントすることで意識が呼吸に向きます。自分に合った呼吸法で、先のことや不安なことを考えることから、呼吸に意識をただ向けることができれば、こころは落ち着いてきます。

何をするにも不安があり、未来にとらわれると不安がつよくなります。石橋をたたいて渡る人ほど不安が強くなるのかもしれません。何ごとも徳川家康の名言「及ばざるは過ぎたるより勝れり」であるのがいいのものかもしれません。

(Up&Coming '22 新年号掲載)