サマーワークショップ2025ポスター

今回はイタリア・ローマ市で開催されたWorld16による第16回VRサマーワークショップの報告を行います。イタリアでのワークショップは2011年にピサ大学で開催されて以来なので、14年ぶりとなります。

ピサ市とローマ市とは場所もさることながら、文化も全然違うと説明してくれたピサ大学BIM学科長のパオロ・フィアマ教授が、今回もワークショップのイベントホストとして調整を行ってくださいました。

*ポスター画像は自作のイラストをChatGPTにアレンジしてもらったものです。

DAY1

初日は、ローマ・サピエンツァ大学で開催されました。同大学のアントニオ・フィオラヴァンティ教授の挨拶、フォーラムエイト社の伊藤社長のプレゼンから始まり、つづけてフォーラムエイト社内表彰技術の発表が行われました。その後、フォーラムエイト社の提供するVRソフトであるUC-win/Roadと、メタバース用オンラインサービスであるメタバニアF8VPSのアップデート情報の解説が行われました。次に、World16の各メンバーによる今回のワークショップでの提案プレゼンが行われました。第16回目である今回のサマーワークショップのテーマは、「AIと既存アプリとの連携」と設定しました。各メンバーは、Day2とDay3の2日間で、提案したプロジェクトのプロトタイプの開発を行い、Day4にその成果を発表することになっています。本ワークショップの数週間前に、フォーラムエイト社開発マネージャーのヨアン・ペンクレアシュ氏を交えてZOOMブレインストーミングを行い、事前に開発チームと大体の方向性を検討しておくことで、現地での作業効率を高めています。

DAY1 招待講演

例年と異なりローマ大学での開催が初日のみのため、3つの招待講演もDay1にまとめて行いました。

最初の講演者は、ANAS S.p.A.のフランセスコ・セメラロ氏でした。ANAS社はイタリアの道路網と高速道路の管理・運営を行う企業です。セメラロ氏は主にBIM/CIMの主任で、講演ではイタリアでのCIM教育のための環境とツールについて説明がありました。大きな1つのCIMツールの習得ではなく、AWSのクラウドサービスのようにさまざまなモジュールを学習していくことで、より多くの人材を育成するというビジネスプランが興味深かったです。

フランセスコ・セメラロ氏の講演風景

マルコ・ココッチオーニ教授の講演風景

2人目の講演者は、ピサ大学工学部・情報工学科のマルコ・ココッチオーニ教授でした。彼はIEEEのシニアメンバーでもあり、2014年にはNATO科学功績賞を受賞しています。講演では、機械学習、計算知能(ニューラルネットワーク、ファジィ論理、進化計算)、ビッグデータ、多目的最適化、パターン認識、そして海洋工学など幅広い分野で活躍している研究者として、人工知能の概論的な講義を行いました。

3人目の講演者は、朝に挨拶していただいたサピエンツァ大学ローマ校建築工学部のアントニオ・フィオラヴァンティ教授にお願いしました。彼の研究分野は、設計プロセスにおける知識表現とAIの応用、コンピュータ支援による方法論・技術、エージェントベースシミュレーションなど、CAAD(Computer-Aided Architectural Design)に関して1980年代より多くの研究論文を発表しており、ECAADE(ヨーロッパにおけるコンピュータ支援建築設計教育・研究協会)の運営委員会メンバーでもあります。BIMなどが一般的になる以前から、建築データをどのようにコンピュータ上で扱うかという研究の歴史について詳しく解説していました。

アントニオ・フィオラヴァンティ教授の講演風景

Day1の夜は、ル・テラッツェ・アル・コロッセオというレストラン兼ルーフトップバーで歓迎ディナーを開催しました。ローマの象徴的建造物であるコロッセオ(ローマ帝国円形闘技場)を望む絶好のロケーションが魅力でした。

DAY2

灼熱のローマ市内を時間をかけて移動することを避けるため、今年はDay2とDay3を宿泊しているホテルのテラスでワークショップとして行いました。

夜はローマ市内のトラステヴェレ地区に位置するケッコ・エル・カレッティエーレというトラットリアで伝統的なローマ料理をいただきました。この地域で1935年から長年愛されてきた、本物のローマ料理と温かい家庭的雰囲気が魅力の名店で、店内には著名人の写真が数多く飾られていました。実は最初に出された名物カルボナーラで皆さんお腹いっぱいになってしまいました。

DAY3

引き続き各メンバーが開発を続けました。World16代表として私も各プロジェクトの進行状況を確認し、フォーラムエイトのヨアン氏と協力しながら翌日の発表に向けて形にするため、試行錯誤を繰り返しました。

DAY4 テクニカルツアー

Day4の午前中は、テクニカルツアーとしてローマ市内にある現代建築の見学会を行いました。世界的建築家ザハ・ハディド氏設計のMAXXI(国立21世紀美術館)を見学しました。ちょうど「世界のスタジアム展」や「デジタル建築展」が開催されており、今回のワークショップに関連する作品も多数展示されていました。また、徒歩圏内にいくつかの有名な現代建築があるため、有志のメンバーで見学も行いました。

1957年に完成し、構造技術の天才ピエル・ルイジ・ネルヴィが設計に携わった、建築史に残る名建築の一つです。1960年ローマオリンピックのために建設され、バスケットボールやボクシングなどが開催されたそうです。

Palazzetto dello Sport
(パラッツェット・デッロ・スポルト)

レンゾ・ピアノ設計による総合音楽コンサート施設です。年間来場者数は世界一位だそうです。巨大な芋虫のような外観の建築物が複数点在し、非常にSF的な空間でした。

Auditorium Parco della Musica
(アウディトリウム・パルコ・デッラ・ムジカ)

Day4 プロジェクト発表

夕方からプロジェクトの発表を行いました。ここでは各プロジェクトを手短に説明します。

イタリアのピサ大学でBIM学科長を務めるパオロ・フィアマ教授は、イタリアの巨大地下研究施設での安全対策用シミュレーションを提案しました。トンネル内という通常では可視化しにくい環境をデジタルツインとして開発し、火災発生時の対応、内部の人間の避難・誘導プログラム、救急隊の初動シミュレーションなどを検証できるシステムを構築しました。

ピサ大学 BIM学科長 パオロ・フィアマ教授

オランダのハンゼ応用科学大学のアマー・ベナージ教授は、自身の研究課題である、解体した建物部材をデータベース化し、それらをリサイクルして新規の建物をデザインできるシステムを提案しました。以前は手作業で行っていた再利用可能な部材の選定プロセスを、AIと3Dソフトに任せられるかどうかを検討しました。

ハンゼ応用科学大学 アマー・ベナージ教授

イスラエルのシェンカー大学のレベッカ・ビダル氏は、オンラインVR環境メタバニアF8VPS内で、3Dモデルを生成するAIサービスと連携したインテリアデザインツールの開発を行いました。メタバニアF8VPS内で家具などの3Dモデルを生成するとともに、それらの配置調整もAIに任せることで、ユーザはプロンプト入力だけで多様なデザイン検証ができるようになります。

シェンカー大学 レベッカ・ビダル氏

大阪大学環境エネルギー工学部の福田知弘教授は、画像から3Dモデルを作成するツールを用い、UC-win/Road内で生成されたデータを利用したシミュレーション環境や3D空間検証を円滑に行えるシステムを提案しました。最新のAI学会で発表された3DGS(3次元ガウシアン・スプラッティング)技術を利用し、実用可能なツールの検討・評価を行いました。

大阪大学環境エネルギー工学部 福田知弘教授

バージニア工科大学のトーマス・タッカー准教授は、最新のハプティックスーツを利用することで、より現実に近い体験を可能にするVRシステムを提案しました。このスーツはVR空間でユーザに振動や力・動きといった感触を与えることができます。実際にフォーラムエイト Rally Japanで走行するラリー車内を全身で体感できるシステムを構築しました。

バージニア工科大学 トーマス・タッカー准教授

マイアミ大学のルース・ロン氏は、昨年に引き続き、大学キャンパスのデジタルツイン化システムの構築を提案しました。今回は大気科学・環境計測・農業気象分野で利用されている放射収支観測器 (CNR4ネット放射計)を使い、観測データをメタバニアF8VPS内でリアルタイム表示することを可能にしました。ビッグデータである観測データを、わかりやすく3Dで可視化するためのDB構築や表示システムを開発しました。

マイアミ大学 ルース・ロン氏

バージニア工科大学のドンスー・チョイ氏は、オンラインVR環境であるフォーラムエイトのメタバニアF8VPSシステム内で、スマートフォンなどで撮影された3D動画コンテンツをシームレスにアップロードし、Apple Vision Proに代表されるXRデバイスを装着しながら共有できるシステムを提案しました。

バージニア工科大学 ドンスー・チョイ氏

香港理工大学デザイン学部のスカイ・ロー助教授は、ローラーコースターを自由にデザインできるレールブロック群を開発し、それらを組み合わせると自動的に3DローラーコースターがVR空間に生成されるシステムを提案しました。レールブロックをつなぎ合わせる際にはセンシング技術で位置関係を検出し、作成されたローラーコースターはフォーラムエイト社の360度シミュレーターと連動して、その場でVR体験が可能になります。

香港理工大学デザイン学部 スカイ・ロー助教授

ジョージア工科大学(ジョージアテック)上級研究員のマシュー・スウォーツ氏は、生成AIを利用し既存ソフトを操作可能にするMCP技術をメタバニアF8VPSに応用する提案を行いました。実際にMCPサーバーを実装し、プロンプト入力で簡易的な3DモデルをAIが生成することに成功しました。これはAI自体が3Dモデルを直接作るのではなく、AIが3Dソフトを操作してモデルを生成する仕組みです。

ジョージア工科大学(ジョージアテック) マシュー・スウォーツ氏

同済大学のコスタス・テルシディス教授は、子供でも簡単に使える3D生成AIツールを活用し、フォーラムエイトが実施しているUC-win/Roadのジュニアセミナーと連携することを提案しました。実際にKids Carというセミナーを開催し、子供たちが生成した非常にクリエイティブな車をUC-win/Road内で運転できるシステムを構築しました。

同済大学 コスタス・テルシディス教授

カリフォルニア大学サンタバーバラ校トランスラボ所長のマルコス・ノバック教授は、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)と通常のソフトを連携させるMCP技術を利用し、フォーラムエイト製品UC-win/Roadをプロンプト入力だけで操作可能にするシステムの構築を提案しました。MCPサーバーを各ソフトに実装できれば、複数のソフトをAIが自動的にやり取りすることが可能になりますが、実用的なデータ生成の可否はまだ未知数であり、今後の課題です。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校 トランスラボ所長 マルコス・ノバック教授

ニュージャージー工科大学の楢原太郎准教授は、動画生成AIをフォーラムエイト製品UC-win/Roadに連携させれば、簡易的な3D都市モデルの一枚の画像から交通量・人流・ランドスケープデザインなどを変更した動画をプロンプト入力だけで自動生成できると提案しました。さらに、AIが生成した未来都市の動画をもとに本格的な3Dモデルをデザインしていくという、新しいAIの活用方法を示しました。

ニュージャージー工科大学 楢原太郎准教授

西安交通リバプール大学デザイン学部長で、Forum8 CIC Tokyo研究所所長のマーク・シュナべル氏は、「F8 Smart Hat」という製品開発を提案しました。これは加速度センサー、ジャイロスコープ、音声制御、温度センサー、衝撃・転倒検知などの各種センサーと通信機能(GPS、音声、映像、LiDAR)を搭載した作業員用ヘルメットです。作業データの蓄積とエッジコンピューティング処理を実装しており、NFT等の新技術を活用したデータ管理も期待されます。

西安交通リバプール大学デザイン学部長 マーク・シュナベル氏

今回のワークショップでは、さまざまなAIと既存システムとの連携が提案されました。時間的制約があるためプロトタイプ段階のものが多いですが、今後は実践的なシステムへと移行していくと考えていますので、ご期待ください。発表後にはセレモニーを開催し、伊藤社長による総評と奨励賞の発表が行われました。

イタリアといえばみんなワインを飲んでいると思っていましたが、なぜかオレンジ色のドリンクを多くの人が飲んでいました。聞けばアペロール・スピリッツというイタリア・パドヴァで生まれた「アペロール(Aperol)」というリキュールをベースにしたカクテルだそうです。真夏のローマにはピッタリの柑橘系のカクテルです。是非お試しください。

2025.7.16

第16回 国際VRシンポジウム サマーワークショップ in ローマにて

学生による国際コンペ CPWCとVDWCの予選選考会を実施!

CPWC予選選考会の様子
審査員:左から福田知弘氏(審査委員長)、楢原太郎 氏、佐藤 誠 氏(モニター)、ペンクレアシュ・ヨアン氏

VDWC予選選考会の様子
審査員:モニター左下 池田靖史氏(審査委員長)、モニター右下 C・デイビット・ツェン氏、モニター左上 ミホ・マゼレウ氏、手前 コスタス・テルジディス氏

VRの活用提案を発表・議論してきた国際VRシンポジウム。先進的な研究・開発、World16とフォーラムエイトの連携によって実現されるパッケージ製品展開についての成果発表が、デザインフェスティバルDAY3にて開催されます。

(Up&Coming '25 秋の号掲載)

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