ワルシャワ経由ウッチへ
2018年は地震や台風など自然災害の多い年でした。被害に遭われた皆様には心よりお見舞い申し上げます。
今回紹介するポーランドへの出発は9月中旬。9月4日に上陸した台風21号で大きな被害を受けた関西国際空港は復旧途上であり、関空から予定通り出発できるのか、他空港への振替になるのか直前までわからない状態だった。最終的に関空から出発できたのだが、関空連絡橋の鉄道は依然運休中であり、りんくうタウン駅からシャトルバスで空港へ向かった。普段当たり前のように使っている交通機関のありがたさを改めて感じた。
ドバイ経由で到着したワルシャワ・ショパン空港からまずローカル線に乗り、ワルシャワ中央駅で特急に乗り換えて140km先のウッチへ向かう。ポーランド語の文字が読めず(英語読みとポーランド語の発音が違うので更に難儀した)、切符の買い方も複雑だったが、切符売り場の前にいたボランティアの若者が親切に教えてくれ、特急の指定座席までスーツケースを引きずりながら何とか辿りつくことができた。ワルシャワを離れるとすぐに森と大きな畑の風景が広がる。2016年に新たに完成したウッチ・ファブリ(Łódź Fabryczna)駅に到着。
ウッチ
ウッチは、ポーランドではワルシャワに次ぐ第2の都市。19世紀、それまでの小さな町から繊維産業の工業都市として急速に発展し、ポーランドのマンチェスターと呼ばれた。その様子はアンジェイ・ワイダ監督の映画「約束の土地」にも描かれている。その後、冷戦下においても繊維産業は繁栄したが、1989年以降のポーランド民主化運動により衰退していった。近年では、使われなくなった工場施設をリノベーション(リノベ)したり、大富豪の大邸宅をリフォームしたりするなどして、文化観光都市として再生が進められている。
ピョトルコフスカ通りは、ウッチのメインストリート(写真1)。南北に約4kmも続く直線道路である。この通りには、ウッチが目覚ましい発展を遂げた19世紀後半から20世紀前半のビルが多く残っている。その多くは5階建て程度の共同住宅であり(地上階は店舗)、公邸や大邸宅も点在している。
|
|
 |
1 ピョトルコフスカ通り |
|
今回はピョトルコフスカ通り沿いにある、かつての共同住宅をリノベした宿に滞在した。早朝散歩してみると、アールヌーボー時代の建築さながら出窓下の装飾が個性的で特に面白い(写真2)。個人的には、リノベされ綺麗に化粧され尽したビルよりも、古ぼけて建築当時の面影を感じられる方がむしろ好きである。
レオポルド・キンダーマン邸は、ポーランドのアールヌーボー建築の代表的な邸宅(1902-03年築)。シャンデリアやステンドグラスは見事(写真3)。壁や天井に描かれた蔓を眺めつつ、目を覚めてみてホンモノの蔓に変わっていたら、と小市民は妄想してしまう。
ピョトルコフスカ通りの北のはずれに、マヌファクトゥーラ・センターはある(写真4)。かつての繊維工場を大規模リノベしたショッピングモール。レストラン、カフェ、ホテル、博物館、シネマシティ、観覧車が入った複合施設。スケール感覚が狂いそうなレンガの建物群である。
eCAADe2018の学会場、ウッチ工科大学へは、トラムで向かった。切符はトラム車内にてクレジットカードで購入でき、外国人には嬉しい。2.8ズウォティ(約85円)。中央トラム駅の屋根はシンボリック(写真5)。実は、Nextbikeというコミュニティサイクルも使ってみたく登録を試みたが、アプリで支払い登録がうまくいかず断念した。
 |
 |
 |
4 マヌファクトゥーラ・センター |
5 トラムと中央駅 |
eCAADe2018
eCAADe2018学会について(写真6)。「VR, AR & Visualisation(VR、ARと可視化)セッション」は連日満員で急遽椅子が補充される状況。筆者は「Point
Cloud Stream on Spatial Mixed Reality:Toward Telepresence in Architectural
Field(空間複合現実上の点群ストリーム:建築分野のテレプレゼンスを目指して)」と題して研究発表した。これは遠隔ミーティングに関するMR(複合現実)システムの開発に関するものであり、光学シースルーHMD(マイクロソフト
ホロレンズ)を装着したユーザは、離れたところにいるユーザやオブジェクト(模型など)を3次元でリアルタイムに、今いる空間の上に重ね合わせてMRとして体験できる。ホロレンズのユーザは移動すると、3次元点群ストリームの見え方は当然ながらリアルタイムに変わっていく。
開発した点群ストリームMRシステムを出展したシーンとして、「理系進学を考えているあなたへ のぞいてみよう! 理系女子の「いま」 ― SciTech Girls in Handai ―」という女子高・中学生向けのオープンキャンパスのイベントが当学で2017年に開催された。
|
|
 |
 |
6 eCAADe2018とその会場、ウッチ工科大学 |
|
会場は、我々の研究室がある吹田キャンパスと違う豊中キャンパスであった。高・中学生は研究室訪問の経験がないため、スライドで研究室の様子を紹介するだけではピンと来ないだろう。ならば、ということで、展示会場では2人一組になってもらい、椅子に座った一人の参加者をBIMで描いた研究室空間の中に仮想配置して、もう一人の参加者にはホロレンズを装着してもらい、知り合いが居る研究室の様子を歩きながら眺めてもらおうとしたものである。
このようなシステムを開発したならば、わざわざウッチまで足を運ばなくとも、大阪の研究室に居ながら、ポーランドにいる参加者にテレプレゼンスで発表すればいいのでは、とウッチへの道中、自虐的に考えてしまった(実際友人からは現地で同じことをジョークで言われたが)。現時点では、学会は自身の発表だけでなく、他者の発表を聞いて議論したり、多人数の他者同士がと多対多で交流する場であり、このような体験の実現はまだまだ不可能な点、多くの制約が残されている。
ホスピタリティ
学会初日夜のウェルカムパーティの会場は、マヌファクトゥーラ・センターの敷地にあった繊維工場オーナーの超豪華な宮殿。オープニングでは、やはりショパンを演奏してくれた。建築の学生さんとは思えない腕前。ヤマハのピアノを使われていたことは素直に嬉しかった(写真7)。
学会最終日に全ての行事が終わった後に打ち上げが企画されたのだが、その場所は「Confidential(秘密)」と書かれていた。スタッフの学生さんにそれとなく聞いても全然取り合ってくれない。そして、バスに乗ったものの、運転手さんも道に迷いながら連れていかれたところは工場跡地の廃墟であった。建物入り口で長らく待たされていると、日が暮れていく。簡易トイレが並べてあったので、建物前の屋外でキャンプファイアでもするのかなどと、皆の推理がはじまる中、結局、廃工場の中に案内された。階段を上り、中に入ってみると、いきなりライトアップされ、バンドがお待ちかね。この日のためだけとは思えないセットアップ。やがて、ポーランドの民族ダンスのワークショップが始まり、夕食やバーのコーナーはもちろん、ホログラムやプロジェクションマッピングあり、と素敵極まりなかった(写真8)。
|
|
 |
 |
7 eCAADe2018ウェルカムパーティ |
|
ローカルフード
ピエロギは餃子にそっくり。お米もあるのが嬉しい。こちらでは老若男女問わず、作り笑顔に出会うことは滅多になく、料理の注文時には色々と教えてもらうにもコツが必要である。しかし勇気を出して尋ねてみると結構親切である。「Soup
& Hinkali ostre」を注文。「Hinkali(ヒンカリ)」はグルジアの水餃子で「Ostre(辛い)」は餃子の皮が赤い(写真9)。スープは塩味中心だがバリエーション豊富で美味かった。スタッフの学生さんに聞くと家で食事するのが日常的で、お母さんが色々なスープを1時間で作ってくれるとのこと。お父さんはどっかりと座っているとのこと。それを聞いて洋の東西を問わずどこもよく似たものだねと何だか安心。家族を大切するに雰囲気は日本と似ているように思えた。
|
|
 |
9 ローカルフード |
|
ショパン博物館空港へ向かう途上、ワルシャワ中央駅で荷物を預けてトラムに乗り込みワルシャワ歴史地区へ。道中、友人に勧められたフレデリックショパン博物館を見学した(写真10)。
ショパン博物館では、デジタル技術を使った展示の数々。例えば、ピアノに楽譜をかざすとその曲を自動演奏してくれる。好きな「別れの曲」を演奏してもらえた(写真11)。ショパンが最後まで弾いていたプレイエルのピアノも目にすることができた(写真12)。
|
|
|
 |
 |
10 ショパン博物館 |
 |
 |
12 ショパンが最後まで弾いたピアノ |
11 楽譜をかざすと「別れの曲」自動演奏 |
|